大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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セフレ離れします 2

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翌朝、イリエは何も残っていないがらんどうの部屋を見渡し、少しだけ思いに耽ってから家を出て大家に鍵を返しに行った。

辻馬車乗り場に向かい、二年近く住んでいた街並みに別れを伝え馬車に乗り込んだ。

ララの伝がある宿に向かってゴトゴトと揺られていく。薄手のローブのフードを深く被り、イリエは景色を一切見ることなくじっと下を向いていた。


一雫だけ水滴が落ちてローブにゆっくりと滲んでいった。




「イリエ、飲み過ぎだ」
「…今夜くらいお許しをぅ」
「…少しペース落とすなら」
「うん。ふわふわしているけどまだ眠くはなってないよー」


昼過ぎに無事ララの紹介した宿に到着したイリエは、ララが訪れるまでのんびりと泊まる部屋で過ごさせてもらう。

ララが到着したのは夕方を少し過ぎた頃で、宿の食堂で夕食を摂りながら飲んでいた。ララが蒸留酒を美味しそうに飲むのを見ていたイリエは自分も飲んでみたいと甘いお酒を頼む。

あまり食事が入らなかったイリエだが、酒を次々にお替りして普段なら有り得ない四杯目突入である。


「んー…幸せだったなぁ」
「そ。良かったね」
「…ララ。最後まで見守ってくれて…傍にいてくれてありがとね」
「…当然だし」


顔を逸らし不貞腐れるような表情のララに、酒の酔いが回ったイリエはへらっと笑いながらテーブルに腕を組んで前のめりになる。


「…正直恋愛って恋愛をしたことがなかったから、どうなるか不安だったんだけど、こういう気持ちになれたのはちゃんと恋ができたってことかなぁ…経験者のララはどう思う?」
「……恋でなく愛でしょ、あんたのは」
「え?何ぃ聞こえないー」
「何でもないよ。出来ていたんじゃない」
「ふふ。彼に少しでも迷惑掛かってなければ良いんだけど」
「…はあ。そうして相手のことばかり」


ララの言葉にイリエは緩慢な動きで首を傾げた。


「それは違うよ、ララ。私は自分ばかり守っている卑怯な女なの。要は自己保身の塊よ。本人前にして笑っておめでとう、お幸せになんて言えないから手紙だけ送って言い逃げするような奴なのー」
「それが卑怯っていうなら世の中の女どもは全員極悪人になるわな」
「あはは、まさか」


ララはやれやれと肩を諌め、イリエの頭を撫でてくれる。


「このお人好しめ」
「うん。彼はとてもお人好しだった、最後まで」
「いや違うって―――――…っ!」


イリエの頭をぐりぐりしていたララの手がぴたっと止まり、息を呑むような音が聞こえた。


「…?ララー?」
「…何でもない。……イリエはさっぱり終わらせて次に行けそう?」


イリエはララからの頭撫でを享受しながら、フェリウスのいない先の未来を考えてみる。その度に心臓がぎゅわっと痛むが、もうそれは仕方ないし諦めよう。


「次…か。……少し貯まったお金で番探しに旅にでも出ようかな」
「お、いくか」
「とはいえ私は人族だからいたとしても気づかないし、お相手も大切な人がいて既に番消し飲んでいたら、終わりだけどねー」
「切り替え早いな」
「今は全然無理だけど、おばあちゃんになる頃には出来るかなぁ…」
「切り替え遅いな」


イリエはテーブルに置いた腕に頭を乗せながら、雫の浮いた酒のグラスに指を這わせる。


「…忘れるなんて不可能。もし番の相手が現れたとしても、…きっと私はその人と共に過ごしたり…ましてや性交なんて無理。それにそんなの相手に失礼……あ」


不意に昔フェリウスから言われた娼婦の言葉を思い出す。


「例えば娼婦なら…仕事でするとしても心は自由だから失礼にはならない?目を瞑って想う相手を想像すれば…」
「おいこら」
「例えだってば。ただそう想いながらじゃないとできないなって」


そう。
無理だ。

数日前のフェリウスとの時間を思い出してしまい目頭が熱くなったイリエは、ぎゅうっと瞑り深呼吸しながら耐える。


「…泣かないね」
「んー?」
「イリエが泣かない」
「泣かないよ、絶対に」
「…何で」
「自分から望んで…自分からそういう関係でも繋がりたいって宣言して…自分からいつでも終われますって言っておいて、後でシクシク泣くのは…違う」


そんなの身勝手で、余計に惨めではないか。


「それに…もし泣いてしまったら…止まらなくなって感情が溢れて縋ってしまうかもしれない。彼の嫌いな干渉や束縛をしてしまうかもしれない。……そんなことになったら私は自分を許せないし何が何でもしたくなかった。…何より嫌われたくなかった……っていう私なりの意地だった、だけ」
「じゃあ、今泣けば良いのに」
「ふふ。今は離れたてほやほやの状態で危険だから泣かない。走って王都まで帰りそう。…それにララが居てこうして優しくしてくれるから今笑えているんだよ」
「…あそ」


少し照れながらもララが優しく優しく撫でてくれる。

自分で決めたことなのに身勝手にじくじくと痛む胸の動きを、今日だけは酒の効果で僅かにでも和らげることくらいはしても良いだろう。


「…イリエ、そろそろ行こう?」
「…うん。そうだね」


イリエは緩慢な動きでちょっと足元をふらつかせながら立ち上がった。





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