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フェリウス 5
しおりを挟むそれ以降もイリエは毎回スープを作っており、声はかけるがしつこくもなく、かといって諦めて用意しなくなるわけでもない。
そのうちフェリウスは何度も断るのも面倒だと思い、持ち帰ることから始まり、そのうちスープだけを一緒に食べるようになった。
その少し後、イリエから最近賄いばかりで腕が鈍るからと、これまたフェリウスの好物を作っていることが多く、グラタンの時は大好物だった為思わず被せるように答えてしまっていた。
それに対しても過剰な反応も返さないイリエだったが、言葉が弾む様子から、フェリウスはそんなに喜ぶならもっと早く食べていれば良かったと思ったくらいだった。
イリエとの食事の時間は静かで会話が殆ど無くても何故か苦にならず、居心地良いのを不思議に思いながらフェリウスはミートグラタンを頬張った。
ただの性欲処理相手から、いつの間にか食事をする時間も予定に入れ、更に会う回数も増えてきた頃、イアンから「何で付き合わないのかねー」とぼやかれたが答えなかった。いや、答えられなかった。
嫌だとか無理ということでなく、女に対し完全に受け身だったフェリウスはどう行動してどうすれば上手くいくかわからない。
それでもイリエと過ごす時間はとても穏やかで寛げて落ち着く。人目のない部屋ということもあるが、こちらが恐縮しない程度の整えられた環境をいつも用意し、それらにフェリウスが一度でも不快に思ったことはない。
唯一あるならば、相変わらずイリエがよそよそしいことだ。健気で謙虚なのは良いが、常に一線引かれてる状態は面白くない。
自分のことはしっかり棚に上げ不満を溢すフェリウスであった。
*************************
月日が経ってもイリエの態度は良くも悪くも変わらなかった。
食堂では相変わらずフェリウスも他の客と同じ扱いだ。物を強請ることもなく、会う時はイリエの家だけなのに文句の一つも言わない。フェリウスのことを詳しく聞くこともなかった。
それでも性交以外の時間も思いの外居心地が良く、居る時間も少しずつ増え続けていく。
ある日食堂でイアンと昼食を摂っていると、イリエの友人のララとジェフから誕生日という単語が耳に入った。注文を聞きに来たイリエにイアンがお祝いの言葉と共に試すような質問にも上手く躱している。
ララ達が帰る時、一瞬だがララの蔑む視線を感じたがフェリウスは無視する。「…あれ多分知られてるなぁ」とイアンが言っていたが、あれだけ強い視線を本人もわかって向けたのだろう。
それでも直接何も言ってこないということは、イリエから口止めされているか、イアンのように匂いでフェリウス達の関係を知ったのかも知れない。彼らは犬族だから嗅覚にはより敏感だろう。
ふと明日は日帰りで任務の予定だが、行く予定を明日でなく急遽今日に変更する。
包み紙を渡すとはっとしたように固まりすぐいつも通りの対応をするが、耳が赤くなる様を間近で見たフェリウスは何とも言葉にし難い充足感に包まれた。
食事後に欲しいものをイリエに聞いてみる。
驚きながらもふと一瞬だが浅緑色の瞳に陰りが見えた。
かと思ったら恐縮しながらも菓子専門店のお菓子が欲しいという。何となく予想はしていたが、高価なものでなく残らない食べ物を頼むところがイリエらしいと思いながら、相変わらず距離を取る態度のイリエを長時間かけて責め、ゆっくりと律動しながら蹂躙し快楽に漬け込ますことに集中し、陰りを帯びた瞳のことはすっかり忘れてしまっていた。
すやすや規則的な呼吸を繰り返すイリエの髪を弄りながら、起きてる時に言えば良かったと適当な言い訳をつけ、耳元でおめでとうと囁いた。
*************************
「そう言えばさ、この前石鹸屋でイリエちゃんに会ったんだ」
仕事が終わり寮に向かっている時にイアンが思い出したように話す。
「フェリウスが普段使っている石鹸を教えたらすましていた顔をぐりんって僕が指差す方向に向けるんだから可愛くて」
「…」
イアンがイリエと二人きりで会っていたことにもわりと胸が嫌な感じになったが、フェリウスの石鹸と聞いてつい目が行ってしまう可愛くて愚かな行動にふっと笑みが溢れた。
「…え!?笑った?ねえ!今!」
「だから何だ。また試すようなことでも言ったのか」
「…まじかよ。いや、…何ていうか、弁えた子だなって」
「だろうな」
「…えー」
「じゃなかったらこんなに続いてない」
「まーねぇ…いやー…ちょっと驚いた」
否定し続けたところで親友の彼が敏いことは知っていたし、そもそもこの状態をどうにかしたいと思っているのはフェリウスの方なのだ。
そう。
この時点でようやくフェリウスは実際かなり前からイリエに惹かれ、彼女の行動に右往左往し、いつの間にか心を囚われていたことに正面から向き合おうとしていた。
気づいたら心を奪われ夢中になり、任務中以外はイリエのことで頭がいっぱいになるほど溺れていた。
性交だけでなく、一緒に居る時間が満たされる時点で気づくはずなのだが、駄目女を生み出すフェリウスにはその経験が皆無だった。
「まあ、それならさーそろそろちゃんとケジメつけた方が良くない?」
それもわかっている。それでも今後をどうやって挽回すればいいか良案が出てこない。今更どの面下げて言えば良いのか、そんなことすらフェリウスはわからないのだ。
特殊部隊筆頭のフェリウスが小柄な女一人に対し何もできないのだ。
「…まさか今まで散々な相手ばかりで…逆にどうして良いかわからない的な…?」
そして側でお兄さん風を吹かしている敏いイアンが非常に癪に障る。
「ちょっと付き合え」
「ん?どこに?」
「石鹸屋」
「あらまあ…」
オネエ言葉になったイアンを無視してフェリウスは商店街に向かった。
その晩、イリエが普段使用している石鹸を使って湯を浴び、その香りを纏って寝台に寝転ぶ。
ふわりと仄かな桃の香りがイリエの匂いと同じだと思うと、口元が緩みすぐに訪れた微睡みに身を委ねた。
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