大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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フェリウス 7

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それからフェリウスの頭の中はイリエが仕事を頑張っているか、休みに何をしているか、もう寝るのかなど、イリエ一色になりつつあった。

いい加減に行動すべきだとわかっている。だがもしイリエが今の関係のままが良いと言われたらと考え始めると怖くて上手く動けないことが情けなく歯痒い。


悶々とした日々を送っていた頃。
数週間に一度定期的に侯爵家に戻っているフェリウスは、夕食時に父親のカルロから先日フェリウスや母のレリエルが好きな菓子店に行った時に出逢った可愛い子の話を聞かされた。

その女は大好きな人から貰ったガレットの箱に同じ大きさのガレットだけが欲しいが単体では売っておらず箱を買って捨ててしまうのは申し訳ないと言っていたという。それでも貰った箱は同じ箱でも違うのだと、必死に話していたという。

容姿を聞く限りどう考えてもイリエであった。


「もうね、その気持ちを聞いているこっちが恥ずかしくて、でも久々にレリィとの甘酸っぱい想い出を思い出してさ。懐かしくてついその箱だけを譲って貰ったんだ」
「うむ。私達の間にそもそも甘酸っぱい時期なんてあったか?」
「あっただろうに。ほら、君を初めて見た瞬間に抱きしめに行っただろう?ぎゅっとこう心臓が――――」
「あれは純然たる拉致と言うんだ。甘酸っぱいとは対極だろうに。まあでも箱に好物のフィナンシェを入れたことはポイントが高い」
「だろう?」


この二人の微妙に噛み合わない話も二十四年間見てきたフェリウスは気にもならないが、たまに遊びに来るイアンは未だに上手く順応できないらしい。


「その子は私と違って小柄だったのだよね?可愛いだろうなぁ愛でたいなぁ」
「うん。背が高めの美しく愛しいレリィとはまた違う…何だろう、とても幼い部分もあるのに、大人顔負けの態度もする、そんな女性だったね」
「…」
「なるほど。俄然愛でたい。フェリウス、早くしろよ」
「…何が」
「わかっているくせに敢えて聞き返してくる。対話を無駄に足すな」
「…ご馳走様」


分が悪く、フェリウスがナプキンを置いて立ち上がった時、先程までレリエルに吐きそうなくらい甘い表情をしていたカルロがすっと表情を戻していた。


「任務でもそうだが、肝心な時に分岐点や選択肢を間違えると二度と覆せないことがある」


意味を含んだ言葉にフェリウスは一拍おいて頷き食堂を去った。

先日に会ったと言うことは、恐らくフェリウスがイリエの部屋に行った数日後だろう。カルロのことだからどうせ匂いで我が子のものだと感づいたに違いない。

カルロは今でこそ前線を退いたが、レリエルと出逢う前は一騎当千の化け物と異名を付けられたほど、嬉々として自ら前線に出ていたらしい。歳を重ねても今のフェリウスが全力で挑んでも致命傷は難しいくらいに強い。

そして母のレリエルは隣国の工作員だったのを、番と認識したカルロが強引に拉致してきたというのは有名な話だ。元々工作員で洞察力が優れているレリエルにもフェリウスのことなどお見通しだったのだろう。

本当にこの二人には未だに敵わない。

でも彼らの言葉がフェリウスの凝り固まっていたくだらないプライドと、臆病さを溶かしてくれたように感じた。


翌朝、フェリウスは朝食の席で菓子店に居たイリエと番縁を交わしたい趣旨を伝えた。

カルロからは「私は本能も前線だったから、そもそも悩む選択すらなかったな」と宣われ、レリエルからは「遅い、戯け者が」といつもの調子で返ってきた。




更に数日後のことだ。

フェリウスとイアンは任務が早く完了し施設に戻っている時、街でララとジェフに偶然会った。ララはこちらに気づき、一直線にフェリウスに向かってきて少し手前で止まる。いつものおっとりとした茶色い瞳は今は鋭く冷淡だ。


「今までは本人の意向を汲んでいた。ケジメをつけられないなら失せろ」
「…」
「ん?何の確証があって言ってるの?」
「黙れ孔雀。お前もどこかで一度はイリエを牽制してるはず。そいつと繁縁だろうからな。わかるぞ、守りたい相手だ。だから私も一度だけ忠告してやる。努々忘れるな」
「…やっぱ君もか」


番絆だけが強固な繋がりがあると思われるが実はそうでもない。
本能的な部分では勝るだろうが、番縁や繁縁は直接関わって相手の人となりを知ってから決めるもの。即ち本能でなく理性から育まれるものの為、ある意味番絆よりも絆が強いと言われている説もあるくらいだ。

そして大事な人を守る為に害した相手の身分や性別は一切加味しなくなる。

それを今のフェリウスは身を以て実感している。


ララの喉からヴヴゥゥ…と低い威嚇音が聞こえ、普段あまり表情を変えない垂れ目の瞳の瞳孔が完全に開ききっていた。

到底女性から出るものとは思えないほどのドスの利いた音に些か驚くが、それほどにイリエを慕っているということでもある。

犬族は基本仲間意識が強く同族に繁縁は多いが、異種族は余程のことがないと結ばないと言われている。そして大事な相手が害されたと判断すると、多数仲間を呼んでどんな相手でもどんなことをしてでも復讐を遂行する習性がある。徒党を組まれた犬の習性は本当に厄介だ。

後ろで静観していた、ジェフが手を伸ばし、殊更ゆっくりとララの目元を手の平で覆った。


「ララ。少しずつ…ゆっくりで良いから落ち着け。明日休憩合わせて一緒に食堂行くか?それとも今夜誘って食事でも良い。ララ、イリエに会いに行こうな」


ララのイリエを想う気持ちを汲んだ最良と言える言葉を並べて落ち着かせようとするジェフの普段聞いたことのない優しい声音と愛しい気持ちを前面に出した表情にフェリウス達は瞠目した。

威嚇し続けるララの唸る声が少しずつ小さくなる。


「ケジメはつける」


フェリウスはそれだけ伝えた。
まだ唸っているララの目を塞いだまま、ジェフは一応礼儀としなのかほんの僅かに頭を下げ、ゆっくりとララを方向転換させて去っていった。


「…うわ。女の子なのに初めてゾクッと寒気がしたよ」
「…それだけ大事にしてるんだろう」
「そこにフェリウスも加わるの?」
「そうなれば良い」





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