大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

文字の大きさ
44 / 92

フェリウス 8

しおりを挟む





翌日、フェリウスは行動に移すため食堂であめ玉の包み紙を渡した。これからは普通に連絡を取り合いたいと願いながら、イリエが仕事を終えるのを待ち伏せる。

出てきたイリエに声をかけるが、首を傾げながら進んでいくので再度声を掛けると、こちらを向いた彼女は綺麗な浅緑色の瞳をまんまるにしてぽかんと口を開けていた。その呆けた顔が可愛すぎる。


フェリウスと始めに交わした約束事をイリエは全て忠実に守っていることに心臓がぐっと切なくなる。帰りながら急遽有休を取ったことを噯気にも出さずに、昼に外で会おうと誘う。

かなり驚きはしていたものの、イリエは頬を染めながら喜んでくれた。


部屋でなく、ちゃんと昼に外で会って一日楽しんで、その日のうちにちゃんと面と向かって告白をして想いを全て伝える。



そして。
その前にフェリウスのすべきことは番消しの薬を飲むこと。番との繋がりを消滅させること。
これがフェリウスなりのイリエへの誠意となる。

受け入れられても受け入れられなくても。
それがフェリウスのケジメだ。

次の休みの予定の話をしながら顔を綻ばせるイリエの姿に、これからはずっとその姿が見られることをフェリウスは切望しながら手を繋いで帰っていった。



会う日の前日、フェリウスは仕事の休憩を利用して国に申請を出し番消しの薬をもらって直ぐに飲んだ。
完全に効くまでは一日半はかかるらしい。


当日、待ち合わせの喫茶店に半刻前に到着し奥のテラス席に座ってイリエを待った。
程なくして来たイリエは髪色よりも少し濃いめのふわりとしたワンピースと同色のブーツ。クリーム色のジャケットを着ていた。

部屋着と仕事着しか見たことがなかったフェリウスは初めて見るイリエの新鮮な私服姿にトクトクと心が鳴る。少しの仕草や視線や手の動きの全てがフェリウスを虜にする。


(そうか…これが誰かを愛しいと想うことなのか)


イリエが飲み物を買いに離れるのを見つめながら、この後何処に行こうか何を食べようかと次々に湧き出す楽しみにフェリウスは心から喜びが溢れる。


それなのに。


突如目の前に現れた女。
水色のドレスを纏い、淡い金色に黄色の瞳。サイドを編み込んでハーフアップにした貴族らしき令嬢だ。
女と目が合った瞬間。
突如先ほどの心の動きとは全く違う、心臓の奥底から何かが暴れるかのように滲み出てくる感情。


「嘘……まさか…!」


驚愕している女から出る甘ったるい何かにフェリウスは目を見開いた。


「…番…、私の、たった一人の…」


その言葉で嫌でも理解する。



(…何故、……何故今なんだ……!!!)



フェリウスはその場で怒鳴りたくなるが、反して声も出ず体も固まって動けない。


「ああ…!ようやく出逢えた…あなたが私の無二の相手!私の番…!!」


その女性が抱き着いてきた時に抱いた感情は。

一瞬心が霞がかったように甘苦しく息が詰まる。
ぐらりと頭が揺さぶられるような感覚。
だったが。
それを全て覆してくれたのは他の誰でもなかった。

イリエとの全ての想い出と。
イリエを愛しいと想うフェリウスの感情だ。

番の本能で僅かに残っていただろうものが未だに底で蠢くがフェリウスにはもう効かない。
何故ならば本能的欲求よりも、イリエと過ごした日々が瞬く間に凌駕したからだ。

番だと言われた女に嫌悪感はなかったが魅力は感じず、フェリウスは一つ深呼吸して女の肩を持ってゆっくりと前に押した。


「…申し訳ないが、人前だ。一度離れてくれるか」


その言葉にはっとした女は口を手で覆いながら頬を染めるがやはり何の感情も湧かない。


「!!も、申し訳ありません…!遠目から見た瞬間に貴方が番だとわかって無我夢中で……はしたない行動をお許しください」
「お嬢様の無作法をお許しください」


女が恥ずかしそうな様子で退いて、始めて後ろにいた老紳士…口調から執事らしき人物が見え、丁寧に腰を折り曲げた。


「こちらの方はバロアス国より南西にあるロンダース国の猫族、キャストン伯爵家が長女メリンダ様でございます」


女、改めメリンダはフェリウスを頬を染めて見ていたが、ふと胸元を押さえ首を傾げていた。


「…ロンダース国」
「はい。バロアス国賢王のおかげでここ数年争いもなく穏やかな日々を送らせていただいております」


数年前までロンダース国とは冷戦状態だったが、ロンダース国前愚王の独裁に対し、バロアス国の動きによって愚王が葬られ新国王が誕生し、今では互いに歩み寄る関係となっている。フェリウスも何度か諜報活動で訪れていた。


「フェリウス・レオダッドだ」
「レオダッド…五大侯爵の」
「ああ。此度はこちらに何用でいらっしゃったのか」
「…観光でございます」


少し間が開いたことが気になったが、今はそれどころではない。


「申し訳ないが、今人と待ち合わせをしている。…とても大事な用なんだ。明日の…正午にもし都合が合えば我が侯爵家に赴いていただくことは可能か」


フェリウスの言葉に涙ぐんでいるメリンダだが、熱っぽい視線を感じながらもフェリウスは僅かに違和感を感じた。


「そんな…ようやく、会えましたのに―――――、」
「お嬢様。どんな理由であれ、公衆の面前での抱擁は恥ずべきこと。そして今はこちらの方には大事な予定があるのです。ここは一度失礼させて頂きましょう。色々と…時間が必要かと存じます」
「っ…わかりました」
「では明日正午にレオダッド侯爵家にお伺いさせていただきたいと思います」
「わかった」


フェリウスをずっと見つめながらも老執事に促され、メリンダは微笑み手を振りながら去っていった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜

恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」 命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。 その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。 私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、 隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。 毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。 ……しかし、その手紙は「裏切り」だった。 夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。 身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。 果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。 子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

楠ノ木雫
恋愛
 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。  テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。 「お前との婚約は破棄だ」  ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!? ※3連休中は一日5話投稿。その後は毎日12時、20時に一話ずつ投稿となります。 ※他の投稿サイトにも掲載しています。 ※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...