大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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フェリウス 11

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三日間の任務を終えたフェリウスはイアンと共に報告を終え、任務中彼に番と出会ったことを話すと「やるじゃん。番消しまで飲んじゃうとは。早くイリエちゃんに会いに行かないとねー」と励まされ、施設内でシャワーを浴び更衣室から出たところで受付の者から声をかけられた。

一刻も早くイリエに会いに行きたかったフェリウスだが、見たことない小柄な女性が来たと伝えられ瞬きする。

渡されたのは一通の手紙。
とてつもなく嫌な予感がフェリウスを襲う。

手紙の入ったシンプルなアイボリーの封筒の裏に名前が書かれていないのはイリエの配慮だということがわかる。

封筒を開け、中には一枚の便箋。初めて見るイリエの綺麗な文字。内容はとても簡潔で。


『番の方と巡り会いおめでとうございます。今までありがとうございました。イリエ』


フェリウスは頭が真っ白になり何も考えられなくなる。体が凍りつき動けなくなる。


「フェリウス?何それラブレター……え」


固まって手紙に釘付けのフェリウスを訝しげに思ったイアンがひょいっと手紙を覗き込み絶句した。


(何故……あの時、見て…?それなのにいつも、通りに……)


いつも通り。
本当にそうだっただろうか。

にこにこしながら、帰ろうかと言ってきたイリエ。
ベンチで思い耽るように景色を眺めていたイリエ。
家に戻るという言葉を別れる意味だと思ったイリエ。
珍しくお酒を飲んでいたイリエ。
普段見られない大胆な行動をしていたイリエ。
名前を呼ばず微笑んだイリエ。
額を合わせ祈るように目を閉じていたイリエ。
にこにこしながら見送ってくれたイリエ。


もしこれらの行動が全て見ていたと仮定した時のイリエの真意は何だ。


最後なのだと。
これで終わりなのだと思ったのだろう。

そしてイリエの習性から、フェリウスに迷惑かけまいと気取られないよう極力態度に出さなかったのだとしたら。


フェリウスは生まれて初めて絶望という感情に支配される。

この後イリエに会いに行き全てが上手くいくと思っていたのが、全く逆になるとは露ほどにも思わずに。

手が震え、…いや、身体が、心が震えている。息が浅くなる。

こうなった現状は、フェリウスの選択肢でどうにかなったのではないだろうか。

あの時、元番相手との話し合いを優先させずにすぐにイリエに告白していたら。
あの時、帰ろうと言ったイリエの表情をもっと注視して見ていたら。
あの時、いつもと違い大胆な行為の数々に浮かれていなければ。
あの時、名前を呼ばず微笑んだ本心を理解しようと突き詰めていれば。
あの時、額を合わせたイリエの心を慮ってあげられたら。
あの時、メリンダとの対面のあとすぐにイリエの元に訪れて居たのなら。

この事態は免れていたのではないだろうか。

全て。間違えた。
どこかでイリエが自分を好いてくれていることに胡座をかいて、己の矜持と欲と考えを優先させた故の結果だ。

愚かで傲慢な独り善がりな考え。


終わるのか。
もう終わりなのか。
イリエの小さな手を、口を、声を、髪を。
二度と触れられない。
イリエのはにかむ笑顔も悶える顔も頬を染めて怒る顔も。
二度と一緒に居られない。



「おい」


耳元で飄々とした声と全く逆の低いドスの効いたイアンの声が、フェリウスを正気に戻させた。


「…っ」
「立ち往生してる場合か。今やるべきことは何だ。後悔よりもまず動け」
「!」


イアンに発破をかけられ、フェリウスは弾かれたように駆け出し施設から物凄い勢いで飛び出した。


「…物分かりの良過ぎる頑張り屋さんも…ここまでくると痛々しいよ」


イアンの呟きは誰にも聞こえなかった。




フェリウスは全速力でタルカル食堂に向かう。まだ夕方前の仕込みの時間のはずだ。

カラカラカランとけたたましいドアベルの音を店内に響かせて駆け込んだ。カウンターにはちょうど仕込みを終えたダンジが休憩していたが、見渡してもイリエはどこにも居ない。


「あ?珍しいな、フェリウスか。どうした、まだディナーまで時間が――」
「イリエは」
「ん?」
「イリエはどこだ」


強面のダンジの片眉が上がる。


「辞めたぞ」
「…は?」
「辞めた。四日前に」


衝撃の事実にフェリウスは頭をガツンと殴られたようにふらりとよろけ、足がテーブルにぶつかる。

その様子を見ていたダンジが溜息を吐いた。


「俺は何も聞いてないしイリエも何も話さなかった」


イリエはフェリウスとのことを本当に誰にも話していなかった。全てフェリウスの為だ。


「それでもイリエを知る俺から一言だけ言わせてもらおうか」


ダンジの野太い声が更に低くなる。


「外道が」


それは今のフェリウスに最も相応しい言葉。
フェリウスはずっと自分のことばかりでイリエに寄り添うことをしていなかった。


「ほらほら。はっきり言い過ぎだよ」


朗らかな声のした方にのろのろと視線を向けると、マリーがやれやれという風に厨房から出てきてダンジの肩を優しく叩く。


「この子は相手を思いやる気持ちがまだ育っていないだけ。あんただって昔はまあ酷かったんだよ?」
「う、…まあ…そう、だが」


ダンジほどの強者でもマリーの前では形無しだ。


「でも今は私の自慢の旦那さね」
「そ、そうか!」
「あはは!そうそう。―――フェリウス」


マリーから呼ばれる。


「なんて顔してるんだか。…そんな顔が出来るんだね、あんたも」


どんな顔がフェリウスには全くわからない。


「言葉にしないと伝わらないことは沢山ある。態度だけでなく言葉が相手を救うこともあるんだよ」


その言葉に目を見開く。


「さてと。多分イリエはここから…恐らくこの街から離れるよ」
「!!」
「じゃなかったら、うちを辞めるわけがないだろう?」


マリーが言い終える前にフェリウスは食堂を飛び出しイリエの家に向かって駆けていった。





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