大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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フェリウス 12

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イリエの住んでいるアパートの階段を駆け上がると何故か扉が開いていた。


「イリエ!!」


フェリウスが開け放たれた部屋の中を見て愕然とした。

イリエの部屋はやけに広く感じた。何故なら何一つイリエが住んでいた痕跡が見当たらなかったからだ。

イリエと共に囲んだテーブルも、美味しいスープや食事を提供してくれた食器や調理器具も、イリエと沢山交わった寝台も。


何一つ残っていない。


フェリウスが動けず放心していると、後ろから声をかけられた。


「おや、どちらさま?」


嗄れた声の方に視線を向けるとそこには沢山の鍵の束を持った老婆がいた。


「ここに住んでいた人に何か用かい?」
「……ああ」
「ちょうど今朝早く引っ越したよ。鍵を渡しにきたからね。換気していたんだよ」


襲い来る現実がフェリウスに重く重くのしかかる。


「急なことで申し訳ないって挨拶に菓子折りも持ってきてくれて気遣いができるお嬢さ―――」
「どこに行ったかわかるか」
「どこ…?ああ、田舎から出てきたからそっち方面に戻るとか言っていたかねぇ」


何なんだこれは。
イリエが居ない。
どこにも居ない。
何一つ残さずに居なくなった。

まるで元から存在していなかったように。
家からイリエの匂いがしない。
本当にまっさらに何もなくなっていた。

イリエの田舎。
フェリウスはイリエの故郷すら知らない。
くだらないプライドと今が良ければと、何も知ろうとしなかった。

他にイリエを、探す術は――――――。



ララだ。


フェリウスは階段を駆け降り騎士隊施設に向かった。


騎士隊の受付に息を乱した鋼鉄の表情を持つ黒豹族の男。それだけで受付の者はビクリと面白いくらいに飛び上がるが、そんなことどうでも良い。

矢継ぎ早にララの所在を聞くと、今日は午後から有休を取っており、数日間休みなのだという。

間違いなくイリエに関わっているはずだと確信したフェリウスはジェフのことも聞いた。早番で少し前に退勤したと伝えられ、フェリウスは騎士隊を飛び出した。


「フェリウスー」


フェリウスはジェフの家を知るわけもなく、どの方向に向かうべきかと走りながら考えていると、少し遠くで飄々としたイアンの声。

そこに居たのはイアンと肩を掴まれうんざりとしたジェフだ。


「先読みは大事だからねー」


ジェフの肩をぽんぽんと叩きながら微笑むイアンにジェフは嫌そうな顔を隠しもしない。


「何なんすか、まじで」
「いやいや、親友の一大事だから」
「何で俺に―――」
「番の行き先を教えてくれ」
「はい?」
「番…いや、イリエの…イリエが何処にいるか教えてくれ。頼む…!」


なりふり構ってなどいられなかった。ジェフが目を丸くしているが、どうしてもイリエの場所を教えて欲しかった。

何一つ手がかりがないことに狂乱しそうになる。フェリウスの焦燥した表情と乞う態度にジェフはすっと表情を戻した。


「恋と愛」
「…」
「ララが言ってた。俺もそう思う。あんたは恋で自分中心。イリエは愛であんた中心」
「…!」


ジェフの言葉は的確でフェリウスの胸に真っすぐ突き刺さる。


「実際見ていないけどわかる。あんたは自分のことばっか。イリエはあんたのことばっか。俺はイリエをララ経由で知ったけど繁縁に値する良い子。ララの大事な人は俺にとっても大事」


フェリウスはその通り過ぎて何一つ言い返すことが出来ない。


「特殊部隊筆頭が何とも情けない」
「ちょっと、それは―――」
「イアン、構わない。情けなくても惨めでもその通りだから好きに言ってくれていい。お前の番にどんなに詰られてもいい、…頼むからイリエの居る所を教えてくれ」


フェリウスは頭を下げた。
微妙に周りがざわつくのが耳に入るがどうでも良い。イリエの情報が僅かにでも手に入るなら土下座でも何でもするつもりだった。

フェリウスのあまりに必死な様子を無表情で見ていたジェフがすっと目を逸らしてぼやいた。


「…ぎりぎり及第点か」


その言葉にフェリウスはばっと頭を上げた。


「ついてきて。俺らの家近いから」


それだけ言ってジェフが踵を返す。フェリウスは藁をも縋る思いでついていった。


着いたのは建ち並ぶタウンハウス。ジェフが「待ってて」と言いその一つの中に入っていった。

少ししてから扉が開いて、ジェフから見知った紙袋を渡される。


「ララからもしもの時にって。これでわからないならそれまでだって伝えろだと。場所提供は無理」


それは菓子店のロゴマークが入った桃色の紙袋。
中からは濃い桃色、だったはずの箱。
所々色褪せてまばらな色合いになってしまっている。

間違いなくフェリウスがイリエの誕生日にあげたものだった。


「捨てられなくてララに託したって」


フェリウスはイリエの想いに胸が潰れそうになる。


(菓子の箱に…こんなになるまで、こんな…)


イリエが菓子を望んだ理由。
何も残さずに居なくなったということは、いつ終わるか分からない状況を常に念頭においていたからこそ、愛着が湧くと余計に想い出に残ってしまうから残らないものを望んだのだろう。

箱は菓子を食べれば本来そのうち捨てるもの。
でも捨てられなかったイリエ。
こんなに色褪せるまで触れるほどに。





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