大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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フェリウス 13

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「…っ」


そして開けた箱から溢れ出たあめ玉の包み紙にフェリウスは咆哮したくなるような激情に駆られる。

頭の中がイリエでいっぱいになる。

どんな気持ちで何度も何度も箱に触れていたのだろう。
どんな気持ちで包み紙をとっておいたのだろう。

カルロから聞いた大好きな人から貰ったという菓子の箱。同じ箱に同じものを入れてもう一度同じ状態にしたいのだと願うイリエのいじらしい行動にぐしゃりと顔が歪み目頭が熱くなる。

喉がどうしようもなく震える。
その箱に顔をそっと近づけてゆっくりと吸い込んだ。狂おしいほど愛しい人の匂いがフェリウスの脳髄に痺れるように満遍なく広がる。


(………ああ、イリエの匂いが、する。ずっと触れていたイリエの指先からする、匂い)


唯一イリエが残した匂い。
今まで培った己の技術と経験を駆使すれば。
何とか追えるかもしれない。


「…感謝する。ありがとう」


するりと出たお礼の言葉にジェフが驚いていた。


「…それは俺でなくイリエに向けるべきだ」
「ああ。それでも感謝する。番にも」


その時少し遠くからゴトゴトという音が聞こえ視線を向けると、なんと伯爵家の紋章が入った馬車が向かってきている。


「お、来た。先読みは大事だよねー」


連絡しといたーと飄々と言うイアンにはいつも助けられてはいるが、今日ほど頼もしいと思ったことはない。


「フェリウスー行くよ。頑張り屋さんをいい加減甘えさせてあげないとー」
「ああ」
「ララに会ったらちゃんと約束は守ったって伝えて」
「わかった」


フェリウスは頷きイアンと共に馬車に乗り込んだ。


「匂いからの大体の方向を教えて。御者に伝えていくから」
「ああ。…助かる」
「僕の大事な親友なんだから当たり前」


イアンの当然だという言葉にフェリウスは救われる。


(許してくれなくても良い…もう戻れなくても…良くはないが、俺の想いだけは聞いて欲しい。どれだけ焦がれているのかを)


全神経を集中させ匂いのする先を追っていく。
フェリウスはもう一度イリエに逢えるよう心の底から希った。





陽は既に落ちあたりは真っ暗になっていた。
フェリウス達が乗った馬車はバロアス国辺境手前の小さな町の宿屋で止まった。


「なるほど、犬族が営んでいる宿かなー」
「ここだ」
「おっけー行っておいで。待ってる」
「助かる」


フェリウスは馬車から降り宿屋の主人に探し人が居ることを伝える。容姿を伝えると食堂に居ると言われ、胸をざわつかせながら向かった。


イリエは居た。
そこに存在しているだけでこんなにも心が満たされる。


食堂の奥の方でフェリウスに背を向け、酒を飲んでいたようでグラスの中身を回しながらララに頭を撫でられていた。

食堂入口にいたフェリウスに気付いたララは驚きながらもゆっくりと口元に人差し指をあて、顎で座れと指示されフェリウスはその通りに少し遠くのテーブルの席に座った。


「…?ララー?」
「…何でもない。……イリエはさっぱり終わらせて次に行けそう?」


イリエの声が聞こえ、心臓の鼓動が忙しなくなり心が甘くも狂おしくなる。


「次…か。……少し貯まったお金で番探しに旅にでも出ようかな」


その言葉に身勝手にも見も知らないイリエの番相手に煮え滾るような激しい嫉妬心がフェリウスの心を支配する。

だがしかし。

その心を癒やしてくれたのはやはりイリエの言葉だった。
今は無理だと。
フェリウスを忘れるなんて不可能だと。

しかし娼婦ならという例え話に再び狂乱する胸の騒ぎと激痛が押し寄せるが、ふとその言葉を使ってイリエを貶めたのは他でもないフェリウスだと気づく。

自分はどれだけ愚かで高慢だったのだろう。

更にイリエは絶対に泣かないと言った。
フェリウスは今更ながらにイリエが快感などで無意識に涙が溢れるもの以外で泣くところを見たことがなかった。


「それに…もし泣いてしまったら…止まらなくなって感情が溢れて縋ってしまうかもしれない。彼の嫌いな干渉や束縛をしてしまうかもしれない。……そんなことになったら私は自分を許せないし何が何でもしたくなかった。…何より嫌われたくなかった……っていう私なりの意地だった、だけ」


フェリウスの為にイリエは自分を押し殺して極限まで我慢して、最後まで貫いた。

イリエのあまりにもいじらしい様に胸が潰れそうになり、フェリウスは無意識に顔をくしゃりと歪ませた。

それを見たララが静謐な瞳でフェリウスを見る。
どうにか話す機会が欲しいと願いながら逸らさずに見返していると、ララが軽く頷いてから視線を外し出ようとイリエを促した。

酒を結構飲んだのか、イリエが頭を揺らしながら立ち上がり、ゆっくりと振り返る。


フェリウスは人と目が合ってこんなにも胸が高鳴ったのは、生まれて初めてだった。





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