大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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良いよと涙の大盤振る舞い 2

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刹那だった。


イリエの視界がぶわりと溢れ歪んだ。
目が発熱したかのように瞬時に熱くなり濡れる頬も温かい。
目の前にいる大好きな人がぼやけてしまうのに崩壊した涙腺は止まらない。

ぼたぼたと涙が流れて喉が震え、何とか抑えようとしてもひっくひっくと嗚咽が止まらなくなる。


「…ごめん、…本当に…ごめん」


イリエの頬に流れる涙を優しく拭うぼやけるフェリウスの顔がとても切なそうに眉が下がる。謝る理由がわからない。何故そんなに悲しそうにするのだろう。

滂沱の涙を流しながらもイリエが首を傾げると、フェリウスが囁くように尋ねてきた。


「イリエ。言いたいことはない?」
「い、言いた、…い、こと?」
「うん。俺への文句でも何でも」
「…そんなの、考えっ…たこと、もない」


フェリウスに対してなんの文句があるというのだろう。
嗚咽した声で返しながら首を左右に傾げるイリエの様子にフェリウスが違う質問をしてきた。


「じゃあ例えば…ずっと一緒に居られるとしたら何したい?」


夢の中のフェリウスは何を言っているんだろう。
そんなこと不可能なのに。
でも、これは夢なのだ。


「…夢」
「うん。夢だから何でも言える」
「……」


夢なら。
好きなだけ言って良いのだ。


「…スープ」
「スープ?」
「…スープ、また、一緒に…食べ、たい」
「うん。食べよう」
「しょ、食事…も、たまには、…一緒に、食べたい」
「毎日食べよう」


夢の中のフェリウスがイリエの我儘を肯定してくれる。なんて素敵な夢なのだろう。


「たまに、で、良いから…一緒に眠り、た、…い」
「毎晩一緒に眠ろう」
「また、手を繋、いで外を、歩きたい」
「外に出た時はずっと繋ごう」


少しずつイリエの固い殻が割られていく。


「誕生日…に、おめで、とう、って祝い、たい」 
「うん。一番近くでお祝いして」
「贈り物、…したい」
「何もらっても嬉しいからちょうだい」


肯定してくれる度にパリンパリンとイリエの頑丈だった殻が割れて散らばっていく。


「く、」
「く?」
「口、づけ、の…」
「うん?」
「あの、…軽い…ちゅって言うの、したこと、ない、から…したかった」
「…」


ここでフェリウスが目元を覆った。
あまりに可愛すぎる要望に恥ずかし過ぎて思わず覆ってしまったのだが、イリエは盛大な勘違いをする。

肯定されなかったことで、もう夢は終わりなのかもしれないと思い込み、イリエの心をおかしくさせる。
一度開いてしまった口はもう元には戻らないし止まらない。


「…覚め、ちゃう」
「…え」
「ゆ、夢が、終わっ、ちゃう…!」
「イリエ?」


まだ言いたいことが沢山ある。
イリエはパニックのように息が浅くなり、涙も嗚咽も酷くなり始めるが覚めてしまう前にどうしてもと、どもりながら心の叫びを吐露する。


「イリエ、落ち着―――」
「本当は…な、名前、も、呼びたか、ったし、…好き、って、言いた…かったし、番にな、…うっ…ひっく、なりたかった…!そし、たら…、お嫁さんに、なれた、から。でも、無理、だったから、…せ、セフレと、して、でも一緒に、いたかっ…」


フェリウスが目をこれでもかと見開いた。
きっとこれでもう覚めてしまうのだから。
そしたら現実に戻るのだから。

戻らなければならないのだから。

激情に駆られたイリエはぱしぱしと自分の腿を叩きながらぼろぼろ涙を溢し子供の癇癪のように言い募った。


「それに、文句は、ないけど、…でも…か、肩の模様に触れた、り、口、づけも、気持ち良いこ、とも、私の方、が先、にしたの…!それだけ、は…私が、先なんだ、から…!…っくひっ…く。もう、夢、覚めちゃ…っ…最後くらい、全部言―――」


その先の言葉をイリエは言えなかった。
目の前にはフェリウスのぼやけた顔。
そしてちゅっというリップ音。

イリエは目を丸くしながら目の前にいるフェリウスを凝視した。

冷めた銀色の瞳ではない、閉じた瞼と長く綺麗な睫毛が視界に入る。

ちゅ、ちゅ、と軽い口づけが施され、してみたかったそれが何度も何度と与えられる。

フェリウスの唇がとても柔らかくて温かくて、本物みたいだ。


「…ああ、何これ…本当に堪んない。…幸せ過ぎて…頭と心臓がおかしくなりそう」


イリエの口先でうっとりとするように、フェリウスが溜息を吐く。

綺麗な銀色の瞳でイリエを見つめながら少しだけ片眉が下がり、本当に幸せそうに微笑んだその顔が以前菓子店で会った侯爵にそっくりで。

その表情にイリエは驚くが、またちゅっとリップ音が鳴った後にフェリウスが囁いた。


「イリエ。俺のお嫁さんになってくれるの?」
「…ぇ」


いくら夢とは言えフェリウスの有り得ない質問にイリエは首を横に振る。


「…なれる、わけ…な…ぃ、私は、番じゃ―――」


またフェリウスの顔が近づいてリップ音が鳴る。


「望んだらなれるよ、必ず」
「…必ず?」
「うん。イリエ、名前も呼んで?」
「名前、…呼んで、良いの?」
「良いよ。全部良いよ」


そっか。良いのか。
望んでも、良いんだ。
全部、良いんだ。


「…フェリ、ウス…さん、が好きで、お嫁さんに…なり、たぃ…」
「うん、なって。イリエは俺の、一生俺だけのお嫁さん」


その時のフェリウスのあまりに幸せそうな顔を見たイリエはぽぽんと真っ赤になった。それを見たフェリウスが更に蕩けるような表情をして、また何度も何度も唇を啄まれる。



「何だか…切な過ぎて甘酸っぱ過ぎて、僕…猛烈に恥ずかしい……」


後方からフェリウスの親友らしき人物の悶える声が聞こえたような気がして、本当にリアル過ぎる夢だなとイリエは感じた。

ゴトゴトと馬車に揺られながら、イリエはこんな素晴らしい夢はずっと覚めなければ良いのにと願い、それはある意味叶うことになったのである。





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