73 / 92
番外編:お酒と獣化は程々に 4
しおりを挟む「寝ちゃった?」
「うん。すぅすぅ言ってる」
イアンから聞かれたイリエは、酒を一気に呷り潰れたフェリウスではあるが、しっかりと腰に回された手を撫でながら頷いた。
「そうしてイリエちゃんが屈託なく話すのをフェリウスはずっと望んでいるんだよ。色々思うことがあるかもしれないけど」
イアンの言葉にイリエはこてんと首を傾げる。
「何だろう。食堂で働いていたから敬語が普通だったんだけど…」
今まではセフレという枠から外せば他の人と同じ立場で客ではあった。
「好き過ぎてどう話せばとかあれこれ考えてる間にどきどきして敬語になっちゃうのかな」
「…今でも?」
「そう。多分私にしか見せない顔と声と…それを思うだけでどきどきしちゃう」
そう言いながら胸に手を当てて微笑むイリエにイアンはほろりと微笑んだ。
「そうなんだね。嬉しい緊張なんだ」
「それ!うん。今はこうしてお酒とフェスのお呪いのおかげで言えるけど、…でも彼が望むならいつかそうなれば良いなぁ」
イリエはフェスのしっかり留められた指を弄りながら「この長い指も好き」と言い、その表情は本当に幸せそうで。
「…言葉じゃないのかもね。名前だけでもフェスって呼べる時はそうしてあげて欲しいな」
「ふふ。さん付けになっちゃうかもしれないけど、私だけが呼べる名前って素敵」
これは無理させることなくこのままで良いのかもしれない。この内容をフェリウスに後日教えてあげれば良い。
イアンがララを見ると同じく納得したように頷いたので頷き返した。
程なくして良い時間になったのでお開きにする流れとなる。
イリエが顔を埋めたままのフェリウスを起こすととろりとした表情で起き、また顔を埋めたので何度かそれを繰り返しようやく目が覚めたようだ。
ララ達は家が近いのでそのまま帰り、イリエ達はイアンの伯爵家の馬車に乗せてもらえることになった。
そして馬車に向かう時は何故かしっかりしていたフェリウスはイリエを離さず、抱っこしながら馬車の中に入りしっかりと膝に座らせ抱えている。
「酔っているのに真っ直ぐ歩けるのって凄い」
「多分本能的なものじゃないかな。奪われないように」
「そうなんだ。フェス?」
フェリウスは起きてはいるようだが、イリエの髪に顔を埋めたままだ。
「それにしても僕は嬉しいな」
「嬉しい?」
「うん。フェリウスがここまで人を好きになれるってことが。聞いたことない?僕らの噂」
「噂…あ。…くず?」
「あはは、そうそうそれ。系統の違うクズってやつ」
イアンが笑いながらもフェリウスをとても優しい表情で見る。
「フェリウスは相手が曲者というか、まあそんな輩が寄ってきて大変でさ。それであそこまで女嫌いになったんだけど…イリエちゃんが突撃してくれて良かったって心から思うんだよ」
「突撃…確かに」
今思えば大胆な行動をしたという自覚はある。それでもイアンが言うようにそれがフェリウスと関わるきっかけにもなったのだ。
そしてイリエがララを思うように、イアンも親友としてのフェリウスを思っているのだろう。
「イアンさんもフェスのような…クズ?なの?」
「ぷっ。僕は正真正銘のクズ。フェリウスとは違うかなー沢山の女の子が大好きだからね」
そうだろうか。
これだけ相手を慮れる人が根っからのクズなのだろうか。
それとも相手が異性だと変わるのだろうか。
「…ん、イリエ…どこの雄と話してる?」
ここでイアンと話しているイリエにフェリウスが勘違いをしたようだ。
「ふはっ」
「フェス。イアンさんだ、――ん」
イリエを横抱きにしていたフェリウスがイリエの顎をくいっとあげて口付けをしてきた。ちゅっと軽く何度もしてくる。
「…フェス、ちょっ…ん」
「…口、開けて」
「んーん」
ここは馬車の中だし、何なら目の前にイアンも居る。イリエも酔っ払ってはいるが流石にそれはとても恥ずかしい。――――前回はそれどころではなかったのでカウントしないこととする。
「フェス、イアンさんがいるよ」
口を手で押さえると、眉を顰めたフェリウスは今度はイリエの首元に顔を埋めちくりと鬱血痕をつけ始める。
「…はあ、やれやれ。ここまで堂々と見せつけたいくらい変わることが逆に凄いなー。…僕も人肌恋しくなってきたな、…この後繰り出すか」
「人肌…これから出掛けるの?」
「んーどうしよう。―――いつものとこ居ると良いんだけどね」
その時のイアンの表情が。
先ほど女の子大好きなクズだと言っていた時とは何か違うような、…誰かを思い出しているように見えた。
「…ご武運をと思った」
「あはは!イリエちゃんがそんなこと言うなんて驚いたかもー」
「なんでかね、色々な女の子じゃないような気がしたから」
「ん?どういうこと?」
聞かれてイリエは咄嗟に今感じたことをそのまま口に出す。
「なんだろう…いつものイアンさんは知らないけど、今のは誰か思い出したって感じがしたから。私が酔っ払って勘違いしてるだけかも」
その言葉にイアンは目を丸くして、ふわりと微笑んだ。
「ふうん。…中々に鋭いんだ」
「え、何?」
「ううん。…あ、そうだ。イリエちゃんに良いものあげる」
そう言うとイアンが馬車の椅子の下から紙袋を取り出した。
「これあげる」
「これは何?」
「開けてからのお楽しみ。ある意味フェリウスと同じになれるかも?一緒に居るときに開けて」
「?うん、ありがとう」
「いえいえ。楽しんでね」
「…うん?」
「ぷはっ」
とても楽しそうにイアンが微笑むのでイリエはまあ良いかとその袋を見つめる。
素敵な紙袋に入ったものは軽くて外から触れると輪っかのように丸みを帯びていて硬い。
「さあ、そろそろ着くよ」
「送ってくれてありがとう」
「いいえー」
「フェス、もう着くよ。起きてね」
フェリウスはそのまま首元でまたうとうとしていたらしく、イリエの呼びかけに無意識にちくりとまた鬱血痕をつけていた。
459
あなたにおすすめの小説
七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜
恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」
命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。
その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。
私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、
隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。
毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた
その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。
……しかし、その手紙は「裏切り」だった。
夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。
身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。
果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。
子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
楠ノ木雫
恋愛
朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。
「お前との婚約は破棄だ」
ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!?
※3連休中は一日5話投稿。その後は毎日12時、20時に一話ずつ投稿となります。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる