トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

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変異種 1

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ゆらゆらと揺蕩う意識の中。

シュナの大嫌いな奴が輪郭を現す。

その度に。心を穏やかにしてくれる声が脳内に響く。


「大丈夫。僕が全部処理してあげるからね」


あの濁った瞳が悍ましい。


「幾らでも立ち向かって良いよ。僕が支えるから」


耳元での囁きが気色悪い。


「僕はシュナの味方だから」


僅かにでも触れられたくないと拒絶する。


「大丈夫。僕がずっと傍に居るからね」


背中を擦られながら、頭に、頬に、額に温かい熱が落ち、シュナを何度も落ち着かせてくれる。


(――――嬉しい、…嬉しい。もう、…こんなことは、無いかもしれない、のに)


それでも今だけはこの温もりに甘えさせて欲しいと願う。


きっとこれはシュナが諦めなければいけない未来の、失われるだろう未来の欠片が見せてくれる、最後の慈悲なのかもしれない。

大好きな人の爽やかな石鹸の香りに包まれ、身体全体が温かく感じ、シュナは溜息を吐く。

口元から冷たく喉を通ってくる少し甘い液体。こくこくと飲み干しながら、口内をゆっくりと動く温かいもの。

それがとても気持ち良いことをシュナは知っている。
それが今後もう無いかもしれないことも知っている。

それがとても切なくて悲しくて目元が熱くなる。
その目元を拭う優しい手の感触にまた安心する。

耳元に聞こえるトクトクと規則的な音が心地良い。
温かい手がシュナの頬に優しく触れてくるのが嬉しい。


緩やかに意識が浮上したシュナはゆっくりと瞼を上げる。
冷や汗を掻いて飛び起きない穏やかな目覚めだ。
目の前には綺麗な長い指。
そしてその手をシュナは知っている。


何故この人が居るのだろう。
ここはどこで―――――――。

ビクリと身体が強張った瞬間。


「シュナ」


シュナが一番会いたかった人の声が頭上から聞こえる。

何故聞こえるのだろう。まだ夢なのだろうか。

シュナの頭に熱が落ち頬が優しく撫でられてから身体に腕が回る。

シュナが会いたかった人の腕。

ゆっくりと顔を上げていくと、目に入るのは桃色の毛先。その先がグラデーションがかった美しい朱色の髪。そして恐ろしいほどに整った美麗な顔と鮮やかな橙色の瞳。


「シュナ」


もう一度シュナの大好きないつもより少し掠れた甘い低音が耳元から響く。


イアンだった。


シュナは目を見開き、イアンはその様子を見てほろりと微笑む。

ヘッドボードに寄っかかりシュナを抱いていたイアンがゆっくりと体を起こし向かい合わせにする。


「シュナ」


イアンはシュナの名前を呼びながら、額に、頬に口づけをする。

そして唇に軽くちゅっと何度も施していく。

シュナは呆然としながらも、これが夢でなく現実なのだと気づく。

でもシュナが居た所は―――――。

身体がぐっと強張った直後、すっと視線を合わせてきたイアンが声をかける。


「僕の話…聞いてくれる?」


静謐な眼差しのイアンにシュナは今の現状を確かめる前に頷いてしまう。


「シュナは孔雀って聞いて何色を想像する?」


突飛な質問にシュナは目を丸くするが、何かの図鑑で見たことがある絵を何とか思い出す。


「…青、と緑…?黄色も…」
「うん。合ってる」


イアンは微笑みながらシュナの頬を包み耳に触れ背中を支える腕が優しく上下に擦ってくれている。


「孔雀族は髪や瞳の色合いが青や緑の寒色系が多い。黄色は極稀かな。僕の父も兄も寒色系だ」


頷きながら、ふとシュナは目の前にいる孔雀族のはずのイアンを見る。


「そう。僕の色は朱色と毛先は桃色。瞳は橙色」
「…暖色」
「うん」


確かにイアンの色合いは孔雀と言われる色と真反対だとシュナは今更ながらに気づく。


「僕はね。孔雀族の変異種として生まれたんだ」
「…変異種?」


イアンの表情は変わらないように見えるが、口元の笑みが微かにぎごちなく感じる。


「変異種…その前に孔雀族は国の裏仕事や諜報や参謀、即ち裏で暗躍したり水面下で動いたり、策略を張り巡らすことに長けているんだ」


以前エリックから大まかに聞いたことがあるシュナは頷く。


「孔雀族は差異はあれど狡猾で老獪、抜け目がなくて悪知恵が働く。先を見通し物事を円滑に進めて動く者が多く常に冷静に淡々と動く者が多い―――――でも変異種はちょっと違う」


それはイアンが他とは異なるということ。


「変異種は孔雀族特有の能力が突出している部分が多い。でもね、その分人の温かい感情…良い意味で弱い部分が極端に少ないって言われてる。優しさとか慈悲とか情けとか思いやりとかかな。そして圧倒的に残忍で非情、残虐性が高くて何でもやり過ぎちゃう。裏で動くには最適。でも上に立ったり人と深く関わるのは不向き」


シュナは首を傾げる。今まで関わってきたイアンがそうだとは思えなかったからだ。





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