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お駄賃と小さな鈴 4
しおりを挟む「そういえばお前硬貨入れなんてあるの?」
「っ…あ、あります…!」
ウルスナは目を丸くしてそうだと思いつく。
(一度も硬貨を入れる機会なんて無かったけど、でもずっと大切に持っていた硬貨入れに入れられる…!)
ウルスナは部屋着のポケットから色褪せて古びてはいるがとても大切な藍色の硬貨入れを取り出した。
「随分昔のものだな」
「はい。私の母が買ってくれたものなんです。これだけはいつも持っていました」
これだけは誰にも渡したくなくて、ずっと肌見離さずに持っていたウルスナの唯一の大事な宝物だ。
じじ…と錆びてしまった少し開けづらいチャックを動かして、そこに銀貨をぽこんと入れる。
頬が左右にぐいっと動いた。
「ブサイクな顔。それ笑ってるつもり?」
ウルスナはリノからブサイクと言われることが案外嫌ではない。何だかちゃんとそこに存在しているような気持ちになるからだ。
そしてブサイクでも何でも良い。
初めてちゃんと硬貨入れとして硬貨を入れられたことが嬉しくて勝手に頬が動いてしまう。
ウルスナは何度も頷きながらチャックを閉めて、また開けるを繰り返す。
それを無言で見ていたリノが「それ小さいから簡単に失くしそうだな」と言われ、ウルスナはその可能性があるのだと気づく。
これだけはどうしても失くしたくない。
でもちゃんと仕舞っていても絶対に失くさないという保証はない。
やはりここから出すのは諦めようと考えていると、ちりんという小さな音色にウルスナはパッと顔を上げた。
リノがローブの懐から出した硬貨入れらしきもの。
美しい光沢のあるエメラルド色の小さめの硬貨入れの金具部分に付いているのは紐付きの鈴だった。
小さい素敵な音色の鈴を、リノは紐を解いてなんとウルスナに渡してきたのだ。
「え…」
「やるよ。これでもし落としたとしても音が鳴るだろ」
差し出された鈴はウルスナの小指ほどの小さな鈴で紐はリノの瞳の色に近い紅色だ。
「でも、リノさんの硬貨入れが…」
「別にこれまだ持ってるし」
そう言ってウルスナの手の前に鈴を差し出され、ウルスナは目を丸くしたまま思わず手の平を上に向ける。
ちりん。
小さな可愛い高めの音色。
ウルスナはじっとその小さな鈴を見ながら、忙しなく高まる鼓動にゆっくりと深呼吸してしまう。
ウルスナにとっては母以外から初めてもらった贈り物にあまりに嬉しくて左右に口が引き攣れながらも無意識に口が動く。
「…ありがとう、ございます」
「別に。ブサイクな顔」
「はい。ブサイクです」
ブサイクでも良い。
リノが言うブサイクは嫌じゃない。
寧ろ何だか嬉しい。
リノは硬貨入れをローブの懐に仕舞うと「二日後。その間に気晴らしでも行けば」と言って扉に向かうのをウルスナは引き攣り続ける頬を押さえながら声をかける。
「あの…、街、にピアノ…楽器のお店はありますか?」
ウルスナの言葉に振り向いたリノが首を傾げる。
「あるな。行ったこと殆どないけど」
「そこに、楽譜も売ってますか?」
「さあ。行って聞いてみたら?」
リノは踵を返して出て行った。
ウルスナは暫く呆然としながらも、ちりんと鳴る鈴の音色に目を向けて机に向かう。
母から貰った硬貨入れの金具にリノから貰った鈴を付けてから持ち上げて、ちりんと鳴らす。
心に何とも言えない充足感が満ちる。
心臓のトクトクとした温かい鼓動と、小さな鈴の音。
ウルスナの頬は暫くピクピクしっぱなしであった。
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