貴方の道具として頑張ります

きるる

文字の大きさ
36 / 157

お駄賃と小さな鈴 4

しおりを挟む





「そういえばお前硬貨入れなんてあるの?」
「っ…あ、あります…!」



ウルスナは目を丸くしてそうだと思いつく。


(一度も硬貨を入れる機会なんて無かったけど、でもずっと大切に持っていた硬貨入れに入れられる…!)


ウルスナは部屋着のポケットから色褪せて古びてはいるがとても大切な藍色の硬貨入れを取り出した。


「随分昔のものだな」
「はい。私の母が買ってくれたものなんです。これだけはいつも持っていました」


これだけは誰にも渡したくなくて、ずっと肌見離さずに持っていたウルスナの唯一の大事な宝物だ。

じじ…と錆びてしまった少し開けづらいチャックを動かして、そこに銀貨をぽこんと入れる。
頬が左右にぐいっと動いた。


「ブサイクな顔。それ笑ってるつもり?」


ウルスナはリノからブサイクと言われることが案外嫌ではない。何だかちゃんとそこに存在しているような気持ちになるからだ。

そしてブサイクでも何でも良い。

初めてちゃんと硬貨入れとして硬貨を入れられたことが嬉しくて勝手に頬が動いてしまう。

ウルスナは何度も頷きながらチャックを閉めて、また開けるを繰り返す。

それを無言で見ていたリノが「それ小さいから簡単に失くしそうだな」と言われ、ウルスナはその可能性があるのだと気づく。

これだけはどうしても失くしたくない。
でもちゃんと仕舞っていても絶対に失くさないという保証はない。

やはりここから出すのは諦めようと考えていると、ちりんという小さな音色にウルスナはパッと顔を上げた。

リノがローブの懐から出した硬貨入れらしきもの。

美しい光沢のあるエメラルド色の小さめの硬貨入れの金具部分に付いているのは紐付きの鈴だった。

小さい素敵な音色の鈴を、リノは紐を解いてなんとウルスナに渡してきたのだ。


「え…」
「やるよ。これでもし落としたとしても音が鳴るだろ」


差し出された鈴はウルスナの小指ほどの小さな鈴で紐はリノの瞳の色に近い紅色だ。


「でも、リノさんの硬貨入れが…」
「別にこれまだ持ってるし」


そう言ってウルスナの手の前に鈴を差し出され、ウルスナは目を丸くしたまま思わず手の平を上に向ける。

ちりん。

小さな可愛い高めの音色。

ウルスナはじっとその小さな鈴を見ながら、忙しなく高まる鼓動にゆっくりと深呼吸してしまう。

ウルスナにとっては母以外から初めてもらった贈り物にあまりに嬉しくて左右に口が引き攣れながらも無意識に口が動く。


「…ありがとう、ございます」
「別に。ブサイクな顔」
「はい。ブサイクです」


ブサイクでも良い。
リノが言うブサイクは嫌じゃない。
寧ろ何だか嬉しい。

リノは硬貨入れをローブの懐に仕舞うと「二日後。その間に気晴らしでも行けば」と言って扉に向かうのをウルスナは引き攣り続ける頬を押さえながら声をかける。


「あの…、街、にピアノ…楽器のお店はありますか?」


ウルスナの言葉に振り向いたリノが首を傾げる。


「あるな。行ったこと殆どないけど」
「そこに、楽譜も売ってますか?」
「さあ。行って聞いてみたら?」


リノは踵を返して出て行った。

ウルスナは暫く呆然としながらも、ちりんと鳴る鈴の音色に目を向けて机に向かう。

母から貰った硬貨入れの金具にリノから貰った鈴を付けてから持ち上げて、ちりんと鳴らす。

心に何とも言えない充足感が満ちる。

心臓のトクトクとした温かい鼓動と、小さな鈴の音。

ウルスナの頬は暫くピクピクしっぱなしであった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。 *こちらは元の小説の途中に、エピソードを追加したものです。 文字数が倍になっています。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...