貴方の道具として頑張ります

きるる

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母の故郷と一番に聴かせたい人 5

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「お前」


マリカと呼ばれた令嬢からお前呼びされたウルスナは嬉しくない思いになる。


リノからお前と何度呼ばれても全然平気なのに、目の前の令嬢のそれは何となく釈然としない気持ちになるが、ウルスナは心の中でさらっと流した。


「リグリアーノ様とはどのような関係?」


聞いたことのない名前にウルスナは僅かに首を傾げると、苛立ちを浮かべたマリカが続けた。


「わたくしね、最近リグリアーノ様が良くここ周辺に訪れる情報を得て調べさせていたの。そしたらお前と一緒にここに入っていく姿を見かけたと何度か報告を受けたわ」
「厚かましいわね」
「本当に。身の程知らずですこと」


左右のご令嬢が何やら言っているが、そもそも何を言っているのかウルスナにはわからない。


「貧相な見た目のお前は何様?何故リグリアーノ様といるの?」
「りぐりあーの様とは誰ですか?」
「…リグリアーノ様を知らない?」
「はい」
「馬鹿にしてるの?」
「いえ、その人を――――」


ウルスナが説明する前にザッと前に進み出た真ん中の女性が「無礼な女!」と言いながらドンッとウルスナを突き飛ばし、ウルスナは後退って後ろに尻餅をついてしまう様子を三人がせせら笑う。


「惨めなお姿だこと」
「口答えなんて厚かましいことするからよ」
「あなたがここで会っている方のお名前すら知らないなんて愚かにも程があるわ」


上から見下される令嬢の顔はユーチェとそっくりだ。


「麗しいほどの容貌と王族特有の眩い銀色の髪に毛先は宝石より美しいエメラルド色。鮮やかな美しい瞳のリグリアーノ・バロアス様。この国の第三王子よ!」


聞いたことも見たこともある容姿にウルスナは瞠目した。


(…王、子?りぐりあーの…――――り、の…?)


王子とは国の国王の息子。
即ち王族で一番身分が高い者のことだ。

まさかのリノ――――リグリアーノの正体にウルスナは愕然として固まってしまった。


「わたくしは伯爵家。お前の爵位は?」
「…」


道具のウルスナは答えられない。
その様子を当然言えない身分なのだと判断したマリカが侮蔑の視線を向ける。


「わたくしはリグリアーノ様の婚約者候補なの。これからあの方との仲をゆっくりと深めていくのよ。お前のような見窄らしく無様に座っている者が周りを彷徨いていては困るのよ!」


婚約者候補。

婚約者とは婚姻に向けて約束を交わした者同士のこと。


リグリアーノは婚約し―――――婚姻する。


愛する相手を見つける。


ウルスナの心臓にズキンと今までに無い痛みがぐさりと刺さった感覚に思わず眉を顰めてしまう。

目の前には美しいドレスの裾と豪華な刺繍。美しいものに纏われているのに、それに見合わない上から注がれる嘲笑と軽視。


「今後二度とリグリアーノ様と関わらないでちょうだい。お前のようなものが周りをうろうろされてたらあの方も迷惑この上ないわ、無礼者が!」
「ふふ、情けないお姿」
「哀れなものね」


マリカを先頭にした三人がウルスナの横を通る際にわざとぶつかりながら「おお、汚らわしい。もうこのドレス着られないわ」だとか「貧相が移りそう」だとか「無様なお姿」だとかしっかり聞こえるように言い捨てて去っていった。

ウルスナは尻餅をついたまま呆然としていたが、我に返り立ち上がって服を叩く。

ウルスナはリグリアーノの素性を知らなかった。
それは―――知る必要がないと判断されていたからに他ならない。
道具には要らない情報なのだ。


(…部屋に戻―――ううん、気分、転換…に行きたい)


そのまま戻ろうとしたが一人で部屋に居たくなくて、ウルスナは着替えてから改めて楽器店に向かった。





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