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リノで在るならば何でも 6
しおりを挟むウルスナとしては自分のピアノの経験は勿論、音楽の知識も殆どない。信じられないことばかりだが、この先もピアノに関われるならとても嬉しいことだ。
もう一つはマーギルがミュージの村と連絡を取っていた。
母の名前を出すと素晴らしいピアノの弾き手だったらしく、父とは村を飛び出すような形で婚姻し、ずっと連絡を取っていなかったのだという。母が亡くなったことも知らされず、村の者達はとても嘆きウルスナさえ良ければ何時でも戻ってきて良いと聞かされ驚いた。
それでもウルスナはリグリアーノの傍に居たい。
マーギルは分かっているとでも言う風に微笑み、村の者が近いうちにウルスナに会いに来ると言われた。母との思い出が小さい頃のものしかないウルスナは色々聞いてみたい気持ちになる。
「じゃあ決まりだね。ウルスナは私と兄妹になる」
「…あ、そういうことになる、のですね」
「…」
「リグリアーノ。これがウルスナにとって一番良い方法だとわかっているだろう?」
「…わかってる」
そう言いながらもリグリアーノは不機嫌そうな顔を崩さない。
「やれやれ、心の狭い男だな。ウルスナ、これからよろしくね」
目元の黒子がとても色っぽいゼルネストが美しく微笑みながら立ち上がり手を差し出してきたので、ウルスナも立ち上がって手を伸ばした瞬間ふわりと体が浮いた。
「っ、おい!」
ウルスナはゼルネストに抱き上げられ子供抱っこされた。リグリアーノが慌てて立ち上がろうとするのを「まあまあ、挨拶だけだよ」とマーギルに止められている。
「煩い男だな。ウルスナ、顔だけ良くてこんな器の小さい男で良いのかい?」
「…どんなリノさんでも、リノさんなら良いんです」
ウルスナの言葉に困ったように微笑みながらゼルネストが耳に顔を近づけて声を潜めた。
「私はあんな形でウルスナと出逢ったけど、抱かなくて良かったと心底思っている」
「っ!」
「これからは兄と妹としてずっと居られるからね」
「…兄?」
「そう。ウルスナは私の可愛い妹だ」
ウルスナは一人っ子だったので、兄妹というものに少なからず憧れがあった。顔を離したゼルネストはそれは美しく微笑みながら頭を撫でてくれる。
「…妹」
「そう。これからはお兄様って呼んで」
「お兄様…」
「ふふ。良いね」
ゼルネストは顔を近づけウルスナの頬にちゅっと口づけをした。
「おいっふざけるな!」
「やれやれ。私はウルスナの兄になるんだから頬への口づけなんて普通だよ。そうだ、ウルスナ。私と繁縁を結ぼうか」
「は!?」
「繁縁?」
繁縁とは親友だったり、恋慕ではなく心から慕う相手とより深い繋がりを持つ為に申請するものだということが書いてあった。
「そう。血が繋がらなくても身内としての繋がりを深くしたい時にも適用できるからね」
「断る」
「お前の意志は関係ないよ」
「ふざけるな」
ウルスナの体がふわんっと横から掻っ攫われ、リグリアーノの腕の中にいた。
「これで暫く遊べそうだ」とくすくすと笑うゼルネストが「また一緒に演奏しようね。繁縁も何時でも待ってるから」とウルスナを覗きこもうとした瞬間、ぐいんっと視界が変わり腹を抱えて笑うマーギルが目に入る。
「いやあ、リグリアーノのそんな姿を見られるとは…長生きはするもんだ」
「…何をおっしゃられているんです。まだ倍以上生きるでしょうに」
リグリアーノは不貞腐れながらも、マーギルへの対応はちゃんと戻している様子に流石王族だと感心する。
「そう言えば婚約者候補を謳った罪人の娘はどうなったんだ?」
ゼルネストの言葉にリグリアーノはどさりとウルスナを抱えたままソファに座る。
「捕縛済みだ」
「それは何より。ウルスナも嫌な思いをしたね」
「…聞いた時はとても悲しかったですが、嘘だと聞いたのでもう大丈夫です」
「…でもお前突き飛ばされたんだろ?」
「あ、はい。そう言えばそうですね」
「…忘れていたんだね」
「令嬢なのに無作法な者がいるものだ」
マーギルが首を振りながら嘆く。
「お前がやり返したいなら好きにして良い」
「捕縛って捕まえたってことですよね?」
「ああ。伯爵が人攫いを斡旋する首謀者だったから諸々終わりだ」
「令嬢の人もですか?」
「そりゃな。平民以下に堕ちるし、本人が色々やらかした情報もあるから奴隷になるかもな」
「それならそれが罰になるので」
父達同様ウルスナに関わらないのならどうでも良い。
「じゃあ俺に託せ」
「はい」
リグリアーノの好きにしてもらえれば良いと頷いた。
後日コニッシュビット侯爵家に顔を出しに行く日程を決め、ウルスナはそれまでに最低限通用するマナーをヘレンに教えてもらおうと心に決める。
「前侯爵、搬入は滞りなく?」
帰り際にリグリアーノがマーギルに声をかける。
「ああ、問題ない。夕方までに完了する」
「感謝致します」
「いやいや。人は変わるものだ。嬉しいものを見せてもらった。ではな」
微笑みながら手を振りマーギル達は去って行った。
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