断罪まで90日:効率厨の悪役令嬢は爆速で国外脱出を完遂する!

月兎

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D-81:偽装の代償と、暴かれたデッドライン

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 ガントチャートの余白に『フェーズ1.5:物流偽装(デコイ)』と書き込んだ私のペン先は、興奮でわずかに震えていた。

 デッドラインまで、あと八十一日の夜。

 ゼノス様にGPS(魔力追跡)を付けられたのなら、それを利用して彼の「視界」を情報のゴミ箱に変えてやるまでよ。

「マルタ、今すぐバレット工房へ伝令を。……予備の商用馬車十二台に、私の魔力を転写した『擬似信号発信機』を搭載させなさい」

 私の影――つまり私の魔力特性を模したダミー信号を王都中にバラ撒く。

 前世のIT現場で学んだ「囮サーバー」の概念を、私はこの異世界の流通網に実装しようとしている。

 十二台の馬車が、それぞれ私の『黒耀』と同じリズムで魔力を放ちながら、王都の主要ルートをデタラメに走り回る。

 これでゼノス様の水晶体は、どこに私がいるのか判別不能な「ブリザード状態」になるはず。

 私はその夜、一度も眠ることなく、羊の代わりに窓の外を横切るダミー馬車たちを数え続けた。

 そして――運命の「残り八十日」の朝が来た。



***

 結論だけ言うと、ダミー馬車作戦はうまく機能した。

「……完璧だわ。ノイズ(囮)は計算通りに発生している」

 私はガントチャートの『フェーズ1』に、ようやく完了のチェックを入れた。

 引き続き、資産の現金化も、偽造通行証の仕込みも、このノイズに紛れてすべて完了した。

 私の「本当の脱出ルート」は、もう誰にも見えない。

 私は勝利を確信し、冷めた紅茶を口に含んだ。

 ……だが。

「お、お嬢様、大変です!」

 マルタが血相を変えて飛び込んできたのは、その直後だった。

「王都が、王都の流通網が完全に死んでいます!」

 私は手にしていたティーカップを置き、眉をひそめる。

「……流通網が死んだ?なぜ?」

「お嬢様がご用意した、十二台のダミー馬車のせいです」
 マルタは説明した。
「お嬢様が全車に『最短経路アルゴリズム』を叩き込み、二十四時間一秒の狂いもなく巡回させ続けたせいで、王都の主要な五つの交差点と三つの橋が完全に封鎖されてしまったんです!」

 私は絶句した。

 ……あ、そうか。やってしまった。

 王都全体の交通量からすれば、十二台なんて微々たるもの。

 けれど、物流には『チョークポイント(急所)』がある。

「お嬢様の囮馬車は、魔法で定速維持されているから絶対に止まりませんし、一ミリも譲りません!それが狭い橋の上や城門の入り口で、一般の馬車と数センチの隙間もなく噛み合ってしまったんです……」

 まさに『デッドロック』状態。

「……後ろから押しても魔法の慣性でびくともせず、今や王都中の馬車が数キロにわたって数珠つなぎです!」

 ……そうだった。
 私は前世の癖で、道路というインフラを「理論上の最大値」で計算してしまった。

 現実の道路には、御者同士の譲り合いや、速度のゆらぎという『バッファ(余裕)』が必要だ。なのにそれを排除して、十二台すべてを最も重要な交差点に、分単位のズレもなく同時に突っ込ませてしまったのだ。

「ジャミングの精度を上げすぎて、ネットワーク(流通網)そのものを物理的に落としてしまったわ……」

 私が冷や汗を流していると、背後のテラスから、低く、愉悦を孕んだ声がした。

「面白い試みだったな、アニエス嬢。だが結果的には、君の『影』が街の心臓を止めるようになってしまった」

 振り返ると、ゼノス様が手すりに腰掛け、真っ赤に点滅する監視水晶を弄んでいた。

「閣下……。気づいていらっしゃったなら、なぜ私の計画を止めなかったのですか」

「君がどこまでやるか興味があったのでね」

「……」

「とにかく、街中が混乱している裏で、君自身の主要資産と『未来の予定』だけが、八十日後の夜を境に、あまりにも綺麗に消滅している」

 心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。

 彼は街中の喧騒を無視し、私の「帳簿上の空白」という一点だけを見抜いていた。

「アニエス。なぜ君は、この国から『消える』準備をしている?理由を説明しろ。……できないなら、この場で君を『物流妨害および国家反逆容疑』で緊急拘束する。そして私の目の届く地下牢で、一生『管理』されることになるだろう」

 詰め寄るゼノス様の瞳は、冷徹な監査役のそれではなく、獲物を追い詰めた捕食者の熱を帯びていた。

 万事休す。

 そう思った瞬間、屋敷の外で誰かの到来を告げるラッパが鳴り響いた。

「お嬢様、王宮からの早馬です!『王都を襲った未曾有の物流麻痺を解決できるのは、物流の天才であるアニエス嬢のみ。直ちに参内し、事態を収拾せよ』との王命です!」

 するとゼノスが、皮肉げに唇を吊り上げた。

「……逃げる準備が整ったところで、君が引き起こした『完璧な混乱』のせいで、国全体が君を鎖で繋ごうとしているわけだ」

 私は天を仰いだ。

(最悪の事態だわ……)



 デッドラインまで、あと八十日。

 国外脱出のための策略が、逆に脱出をきわめて困難にさせてしまった。

「……いいわ。物流を殺したのが私なら、それを利用してさらに巨大な『逃走経路』を再構築して差し上げます!」
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