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第2話 偽りの友情と真実の裏切り
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冬の空は重く、灰色の雲が王都を覆っていた。
リリアナが王立貴族学院を去った翌日、社交界は早くも噂で持ちきりだった。
「アーデルハイト公爵令嬢が嫉妬で友人を突き飛ばした」
「王太子殿下が哀れなフェリシア嬢を救い、遂に真実の愛を勝ち取った」
人々の口は軽く、求められる真実は決して真実ではない。話に尾ひれがつき、いつの間にかリリアナは“悪女”として語られるようになっていた。
けれど、その渦中にいる彼女の姿を、誰も知らない。
王都のはずれ、雪に覆われた街道を一台の馬車が走っていた。車内では、厚いマントに身を包んだリリアナが、ぼんやりと窓の外を見つめていた。
「……寒いわね。」
小さく呟く声は、揺れる馬車の音にかき消されていく。
目的地はエルシャルト領。父が旧友に頼み、仮の身を置く先として紹介してくれた場所だという。
だが、父も、母も、あの日以来言葉を交わしてくれなかった。
“婚約破棄”という言葉が、どれほど貴族家の威信を傷つけるものかを、彼女は理解している。
家のために、彼女は静かに消えることを選んだ。
リリアナは膝の上に置いた手を握りしめた。
あの日の光景が、何度もまぶたの裏に浮かぶ。
アルベルトの冷酷な眼差し。
そしてフェリシアの涙交じりの声。
──「どうして、私にはあんなことを……」
初めて会ったとき、フェリシアはおっとりした優しい娘だった。
垢抜けないドレス、社交性の乏しい言葉遣い。それでも彼女は人懐こく、どこか守ってあげたくなる可憐さを持っていた。
リリアナはそんな彼女に、好感を抱いたのだ。
同じ令嬢たちが競争と打算で関係を築く中、フェリシアだけは違うように思えた。
(なのに……。)
ひとり馬車の中で息を吐くと、冷たい空気が頬をなでた。
記憶の中のフェリシアが笑う。
――ねえ、リリアナ様。殿下はどんな方なの?
――近くでお話ししていると、まるで心を見透かされてしまいそうで……。
最初は小さな興味だったはずだ。
それがいつからか、羨望に変わり、やがて嫉妬へと歪んでいったのだろう。
リリアナは静かに目を閉じた。
悲しみも怒りも通り越して、ただひたすら虚しかった。
***
一方その頃、王都の中央宮殿では、フェリシアが新しいドレスに身を包み、王太子アルベルトの隣で微笑んでいた。
ほのかに香る白薔薇の匂いが、侍女たちの間を漂う。
「殿下、リリアナ様の件……本当によろしかったのでしょうか?」
フェリシアが不安げに問いかけると、アルベルトは優しく微笑んだ。
「もういい。リリアナは過去の人だ。僕が選んだのは君だよ、フェリシア。」
その声音に安心したように彼女は頷く。しかし、瞳の奥では違う何かが灯っていた。満たされたはずなのに、物足りなさが残る。
見上げたアルベルトの横顔に、ほんの一瞬、焦りが浮かぶのをフェリシアは見逃さなかった。
(殿下は、リリアナ様のことを……本当に忘れられたのかしら?)
あの女の完璧な微笑。誰の前でも乱れず、清らかで、気高い姿。
どれほど貶めても、人々の記憶からはすぐに消えない。
フェリシアは唇を噛んだ。
「フェリシア、どうしたんだい?」
「……いいえ。少し、寒いだけですわ。」
震える指先を隠すように、フェリシアはそっと手を組んだ。
その心の奥には、もう“愛”などという甘いものは残っていなかった。
***
夜。
エルシャルト領に続く森の途中、馬車が小さな集落で足を止めた。
雪が深くなり、道がふさがれたからだ。
旅籠の灯りが滲む。リリアナは小さな荷を抱えて外に出た。
「お、お嬢様、足元にお気をつけて!」
老人の御者の声が背中からかかる。リリアナは微笑んで返し、白い息を吐いた。
しんしんと降る雪の音だけが、世界を包んでいる。
旅籠に入ると、暖炉の火がぱちぱちと燃えていた。
簡素な木の内装、すすけた壁。それでもどこか暖かく、人の気配がやさしい。
リリアナはカウンターの老婦人に部屋を頼み、ひとり客室に入った。
(明日には、領内に……。)
そう思った瞬間、ふと窓の外に影が揺れた。
黒い外套を羽織った男が、馬を降りて旅籠に入ってくる。
雪明かりに照らされて輝く黒髪。目を引くほど整った顔立ち。
だがその表情には一切の感情がなかった。
「……?」
リリアナが見つめると、男は一瞬だけこちらに視線をやる。
鋭い銀の瞳が彼女を射抜いたように思えた。
次の瞬間、胸が妙に早く打つ。
(誰……?)
男は宿の主と短く言葉を交わし、二階に上がっていった。
その背中には、ただ者ではない威圧感があった。
***
夜更け。
リリアナは寝台の上で目を閉じられずにいた。
遠くで風の音が鳴る。
何かを失ってしまった心は、やすらぎを見つけることができない。
枕元の鞄から、一枚のハンカチが転がり落ちた。
それはアルベルトから贈られたもの。今ではただの古びた布にすぎない。
(もう、忘れましょう……。)
そう呟いて灯を落としたとき、下の階で何かが割れる音がした。
「……?」
廊下に出ると、宿の者たちが慌てて走っている。
階段の上から覗くと、あの黒髪の男が倒れた男たちを踏み越えていた。
血の気配。盗賊のような者たちが三人ほど、床に転がっている。
「ここで休むのは察しが悪いな。辺境まで来るような旅人を狙うとは。」
男の声は低く、冷たい。
その鋭さに宿の者たちは息をひそめた。
「お、お客様……! た、助けていただきありがとうございます。」
主が頭を下げる中、男は面倒そうに手を振った。
「礼はいらない。」
そして、階段の上の影──つまりリリアナ──に目を向けた。
「……見物していて楽しいか?」
リリアナははっとして、階段の手すりから手を離した。
「い、いえ……。ただ……心配で……。」
男は一歩踏み出し、彼女の前に立った。
近づいて見れば、その瞳はまるで鋼のような銀色。
そこには冷たさだけがありながら、どこか静かな強さもあった。
「旅人のようだな。」
「はい……エルシャルト領へ向かう途中です。」
「ふむ。」
男は短く応じ、顎に手を添えた。
なぜだか、その眼差しに測られているような気がする。
そして、静かに言う。
「気をつけろ。あの先は、優しくない土地だ。」
「……あなたは?」
一瞬の沈黙。
雪の向こうで、遠雷が鳴った。
「通りすがりの者だ。」
それだけ告げて、男は階段を下りていった。
***
翌朝。
雪が止み、澄んだ青空が広がっていた。
リリアナが宿を出ると、広場の向こうで黒い外套の男が馬に乗っていた。
銀の瞳が一瞬こちらを見据え、わずかに会釈をする。
そのまま、彼は北の森へと馬を走らせた。
「……不思議な方。」
呟いてから馬車に乗り込み、御者に声をかける。
「行きましょう。エルシャルト公爵領へ。」
リリアナはまだ知らなかった。
あの男こそが、これから彼女の運命を変える人物――
“冷徹公爵”セドリック・エルシャルト、その人であることを。
続く
リリアナが王立貴族学院を去った翌日、社交界は早くも噂で持ちきりだった。
「アーデルハイト公爵令嬢が嫉妬で友人を突き飛ばした」
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人々の口は軽く、求められる真実は決して真実ではない。話に尾ひれがつき、いつの間にかリリアナは“悪女”として語られるようになっていた。
けれど、その渦中にいる彼女の姿を、誰も知らない。
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「……寒いわね。」
小さく呟く声は、揺れる馬車の音にかき消されていく。
目的地はエルシャルト領。父が旧友に頼み、仮の身を置く先として紹介してくれた場所だという。
だが、父も、母も、あの日以来言葉を交わしてくれなかった。
“婚約破棄”という言葉が、どれほど貴族家の威信を傷つけるものかを、彼女は理解している。
家のために、彼女は静かに消えることを選んだ。
リリアナは膝の上に置いた手を握りしめた。
あの日の光景が、何度もまぶたの裏に浮かぶ。
アルベルトの冷酷な眼差し。
そしてフェリシアの涙交じりの声。
──「どうして、私にはあんなことを……」
初めて会ったとき、フェリシアはおっとりした優しい娘だった。
垢抜けないドレス、社交性の乏しい言葉遣い。それでも彼女は人懐こく、どこか守ってあげたくなる可憐さを持っていた。
リリアナはそんな彼女に、好感を抱いたのだ。
同じ令嬢たちが競争と打算で関係を築く中、フェリシアだけは違うように思えた。
(なのに……。)
ひとり馬車の中で息を吐くと、冷たい空気が頬をなでた。
記憶の中のフェリシアが笑う。
――ねえ、リリアナ様。殿下はどんな方なの?
――近くでお話ししていると、まるで心を見透かされてしまいそうで……。
最初は小さな興味だったはずだ。
それがいつからか、羨望に変わり、やがて嫉妬へと歪んでいったのだろう。
リリアナは静かに目を閉じた。
悲しみも怒りも通り越して、ただひたすら虚しかった。
***
一方その頃、王都の中央宮殿では、フェリシアが新しいドレスに身を包み、王太子アルベルトの隣で微笑んでいた。
ほのかに香る白薔薇の匂いが、侍女たちの間を漂う。
「殿下、リリアナ様の件……本当によろしかったのでしょうか?」
フェリシアが不安げに問いかけると、アルベルトは優しく微笑んだ。
「もういい。リリアナは過去の人だ。僕が選んだのは君だよ、フェリシア。」
その声音に安心したように彼女は頷く。しかし、瞳の奥では違う何かが灯っていた。満たされたはずなのに、物足りなさが残る。
見上げたアルベルトの横顔に、ほんの一瞬、焦りが浮かぶのをフェリシアは見逃さなかった。
(殿下は、リリアナ様のことを……本当に忘れられたのかしら?)
あの女の完璧な微笑。誰の前でも乱れず、清らかで、気高い姿。
どれほど貶めても、人々の記憶からはすぐに消えない。
フェリシアは唇を噛んだ。
「フェリシア、どうしたんだい?」
「……いいえ。少し、寒いだけですわ。」
震える指先を隠すように、フェリシアはそっと手を組んだ。
その心の奥には、もう“愛”などという甘いものは残っていなかった。
***
夜。
エルシャルト領に続く森の途中、馬車が小さな集落で足を止めた。
雪が深くなり、道がふさがれたからだ。
旅籠の灯りが滲む。リリアナは小さな荷を抱えて外に出た。
「お、お嬢様、足元にお気をつけて!」
老人の御者の声が背中からかかる。リリアナは微笑んで返し、白い息を吐いた。
しんしんと降る雪の音だけが、世界を包んでいる。
旅籠に入ると、暖炉の火がぱちぱちと燃えていた。
簡素な木の内装、すすけた壁。それでもどこか暖かく、人の気配がやさしい。
リリアナはカウンターの老婦人に部屋を頼み、ひとり客室に入った。
(明日には、領内に……。)
そう思った瞬間、ふと窓の外に影が揺れた。
黒い外套を羽織った男が、馬を降りて旅籠に入ってくる。
雪明かりに照らされて輝く黒髪。目を引くほど整った顔立ち。
だがその表情には一切の感情がなかった。
「……?」
リリアナが見つめると、男は一瞬だけこちらに視線をやる。
鋭い銀の瞳が彼女を射抜いたように思えた。
次の瞬間、胸が妙に早く打つ。
(誰……?)
男は宿の主と短く言葉を交わし、二階に上がっていった。
その背中には、ただ者ではない威圧感があった。
***
夜更け。
リリアナは寝台の上で目を閉じられずにいた。
遠くで風の音が鳴る。
何かを失ってしまった心は、やすらぎを見つけることができない。
枕元の鞄から、一枚のハンカチが転がり落ちた。
それはアルベルトから贈られたもの。今ではただの古びた布にすぎない。
(もう、忘れましょう……。)
そう呟いて灯を落としたとき、下の階で何かが割れる音がした。
「……?」
廊下に出ると、宿の者たちが慌てて走っている。
階段の上から覗くと、あの黒髪の男が倒れた男たちを踏み越えていた。
血の気配。盗賊のような者たちが三人ほど、床に転がっている。
「ここで休むのは察しが悪いな。辺境まで来るような旅人を狙うとは。」
男の声は低く、冷たい。
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「礼はいらない。」
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「……見物していて楽しいか?」
リリアナははっとして、階段の手すりから手を離した。
「い、いえ……。ただ……心配で……。」
男は一歩踏み出し、彼女の前に立った。
近づいて見れば、その瞳はまるで鋼のような銀色。
そこには冷たさだけがありながら、どこか静かな強さもあった。
「旅人のようだな。」
「はい……エルシャルト領へ向かう途中です。」
「ふむ。」
男は短く応じ、顎に手を添えた。
なぜだか、その眼差しに測られているような気がする。
そして、静かに言う。
「気をつけろ。あの先は、優しくない土地だ。」
「……あなたは?」
一瞬の沈黙。
雪の向こうで、遠雷が鳴った。
「通りすがりの者だ。」
それだけ告げて、男は階段を下りていった。
***
翌朝。
雪が止み、澄んだ青空が広がっていた。
リリアナが宿を出ると、広場の向こうで黒い外套の男が馬に乗っていた。
銀の瞳が一瞬こちらを見据え、わずかに会釈をする。
そのまま、彼は北の森へと馬を走らせた。
「……不思議な方。」
呟いてから馬車に乗り込み、御者に声をかける。
「行きましょう。エルシャルト公爵領へ。」
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あの男こそが、これから彼女の運命を変える人物――
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続く
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