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第6話 孤独の令嬢と鋼の公爵
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朝の光が静かに雪を照らし、エルシャルトの空は淡い銀色に染まっていた。
冬の冷気が部屋の中まで忍び込み、暖炉の火がぱちぱちと小さく音を立てる。
リリアナは椅子に腰を下ろし、温かい紅茶の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
この三日あまり、公爵邸での生活にも少しずつ慣れてきたとはいえ、まだどこか夢のような感覚が残っている。
王都ではあれほど華やかだった自身の人生が、いまでは異国の静けさに包まれている。
顔を上げれば、窓の外では兵士たちが雪を払い、整然と庭の通路を整備していた。
一糸乱れぬ動き。まるで、主人であるセドリックの性格をそのまま映しているようだった。
「閣下は本日、領民との会合にお出かけになります。」
朝食の席でロイがそう告げると、リリアナは小さく頷いた。
「毎日ご多忙なのですね。」
「ええ。閣下は領地の改革に熱心なお方でして、戦場で鍛えた統率力を民政にも向けておられるのです。冷徹と評されはしますが、それは公正を重んじるゆえです。」
ロイの言葉に、リリアナは胸の奥で小さくうなずいた。
表面の冷たさの下には、理と慈悲がある――そんな印象を受けていた。
けれど同時に、その完璧さがどこか遠い存在にも感じられた。
彼と向き合うたび、鋭利な刃物のような気配に触れる気がする。
礼を尽くしても、その心の奥を覗くことはできない。
(人を信じて傷ついた私が、誰かを信じる余裕なんてないのに……。なのに、なぜあの方の言葉だけは心に残るのかしら。)
ふと窓ガラスに映る自分の顔を見つめ、苦笑した。
強く生きると誓っても、やはり心の傷は深い。
***
昼過ぎ、リリアナは書庫を借りて本を読み始めた。
王都にいた頃から文学は好きだった。貴族の義務として身につけた淑女の嗜みでもあり、唯一、孤独な時間を慰めてくれるものでもあった。
「お読み物はお好きなのですね。」
声に振り向くと、侍女のエミリアが盆を持って立っていた。
「ええ。本の中だけは裏切らないから。」
思わず口にした言葉に、エミリアは少し困ったように微笑んだ。
「まぁ、お嬢様。そんなことをおっしゃらないでくださいませ。世の中、誠実な人もおりますわ。」
「……そうだといいわね。」
リリアナは穏やかに笑い、またページをめくる。
知らない世界の物語を追いながらも、思考の片隅にはあの銀の瞳がちらついて離れなかった。
***
午後、雪が少し弱まったころ、邸の中庭から馬の嘶きが聞こえた。
窓をのぞくと、セドリックが馬に跨がり、黒い外套を翻していた。
その姿は黒曜石の刃のように精悍で、見惚れるほど美しい。
ふと、彼がこちらを見上げ、わずかに目を細めた。
一瞬の視線。ほんの一秒にも満たないのに、胸の奥が跳ねた。
(……見られた?)
慌ててカーテンを閉めた自分に気づき、リリアナは顔を覆った。
「何をしているの、私……。」
小さなため息だけが部屋の中を漂った。
***
その夜、夕食の場でセドリックと顔を合わせた。
彼は外套を脱ぎ、銀の髪に少し雪が残っている。
「今日は寒さが厳しかったでしょう。お疲れ様です。」
リリアナが声をかけると、セドリックは短く「構わん」と返し、手元のスープを口に運んだ。
沈黙が流れる。
いつかの彼の言葉――「嘘をつくな」――がリリアナの頭をよぎる。
その無骨な誠実さに、どうしようもなく惹かれている自分がいた。
「公爵様。」
「なんだ。」
「この国では……人は、どうやって助け合っているのですか?」
唐突な質問に彼の眉が動いた。
「どういう意味だ。」
「王都では、誰もが見栄と打算で動いていました。ですがここでは、あの兵士たちも、屋敷の方々も、皆どこか誇りを持っています。貴方のもとに仕えることを誇りにしているように見えました。」
セドリックはしばらく黙り、ワイングラスを回した。
「この地は厳しい。雪も、飢えも、敵もある。だからこそ、互いを信じなければ生きていけない。王都のように口先では回らない。」
「……信じること、ですか。」
「そうだ。俺は嘘を嫌うが、それは信じるためでもある。疑うより苦しくても、信じるほうを選ぶ。」
静かな声が胸に沁みた。
リリアナは無意識に掌を握る。
心にまだ残る痛みが、少しずつ形を変えていくようだった。
「貴方の言葉には、強さがありますね。」
「強くなければ、この地を守れん。」
「羨ましいです。私にはそんな強さはありません。」
「そう見えるか? 君はもう十分強い。」
「……私が?」
セドリックは頷く。
「裏切られ、誇りを傷つけられても立っている。それを強さと言わずして何と言う。」
一瞬、喉が詰まりそうになった。
誰もそう言ってくれなかった。
否定も同情もなく、ただそのままを認めてくれる言葉。
「ありがとう……ございます。」
ようやく絞り出した声は震えていた。
セドリックは表情を変えず、ただ一言「礼は要らん」とだけ答えた。
***
食後、廊下を歩いていると、大広間の扉が微かに開いていた。
中では、セドリックが兵士に命令を下している。
「北の関所の守備を強化しろ。補給隊には民からの寄付分を回せ。」
その声には冷たさではなく、静かな熱があった。
「閣下。あの婦人からの訴えは――」
「明日の朝、俺が直接聞く。文で処理するな。目で見てから判断する。」
そのやり取りに、リリアナは立ち尽くした。
冷酷な公爵などという噂は、どれほど表面的なものだったのだろう。
出会った夜の鋭い瞳。その奥には、こんな誠実さがあったのか。
(あの方は、本当に“冷たい”のではなく……自らを律しているのね。)
胸が熱くなった。
気づけば、もう寒さは感じなかった。
扉の陰から廊下に戻ろうとしたとき、不意に声がした。
「覗き見とは感心せんな。」
背後からの低い声に、リリアナは息をのんだ。
振り返れば、すでにセドリックがこちらを見ていた。
どうやら気づかれていたらしい。
「す、すみません……! 声が聞こえてしまって——」
「いい。どうせ隠すことでもない。」
そう言って大股で近づき、彼はリリアナの頭上でふと止まる。
見下ろす銀の瞳が、月光を反射して柔らかに光る。
「……寒くないのか。」
「え……?」
「顔が赤い。熱でも出たかと思った。」
「ちが……寒さのせいです!」
思わず言い返すと、セドリックの唇がわずかに緩んだ気がした。
「この国の冬は長い。油断するな。」
「はい……。」
その声は穏やかで、ほんの少し笑っていたように聞こえた。
その晩、部屋に戻ったリリアナは、胸に手を当てたままベッドに腰を下ろした。
彼の銀の瞳が、暗闇の中でも鮮明に思い浮かぶ。
――冷たいと思っていた人の瞳が、今は不思議と温かく見える。
もしかするとこの邸での生活は、孤独ではないのかもしれない。
そう思った瞬間、頬に小さな笑みが浮かんだ。
続く
冬の冷気が部屋の中まで忍び込み、暖炉の火がぱちぱちと小さく音を立てる。
リリアナは椅子に腰を下ろし、温かい紅茶の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
この三日あまり、公爵邸での生活にも少しずつ慣れてきたとはいえ、まだどこか夢のような感覚が残っている。
王都ではあれほど華やかだった自身の人生が、いまでは異国の静けさに包まれている。
顔を上げれば、窓の外では兵士たちが雪を払い、整然と庭の通路を整備していた。
一糸乱れぬ動き。まるで、主人であるセドリックの性格をそのまま映しているようだった。
「閣下は本日、領民との会合にお出かけになります。」
朝食の席でロイがそう告げると、リリアナは小さく頷いた。
「毎日ご多忙なのですね。」
「ええ。閣下は領地の改革に熱心なお方でして、戦場で鍛えた統率力を民政にも向けておられるのです。冷徹と評されはしますが、それは公正を重んじるゆえです。」
ロイの言葉に、リリアナは胸の奥で小さくうなずいた。
表面の冷たさの下には、理と慈悲がある――そんな印象を受けていた。
けれど同時に、その完璧さがどこか遠い存在にも感じられた。
彼と向き合うたび、鋭利な刃物のような気配に触れる気がする。
礼を尽くしても、その心の奥を覗くことはできない。
(人を信じて傷ついた私が、誰かを信じる余裕なんてないのに……。なのに、なぜあの方の言葉だけは心に残るのかしら。)
ふと窓ガラスに映る自分の顔を見つめ、苦笑した。
強く生きると誓っても、やはり心の傷は深い。
***
昼過ぎ、リリアナは書庫を借りて本を読み始めた。
王都にいた頃から文学は好きだった。貴族の義務として身につけた淑女の嗜みでもあり、唯一、孤独な時間を慰めてくれるものでもあった。
「お読み物はお好きなのですね。」
声に振り向くと、侍女のエミリアが盆を持って立っていた。
「ええ。本の中だけは裏切らないから。」
思わず口にした言葉に、エミリアは少し困ったように微笑んだ。
「まぁ、お嬢様。そんなことをおっしゃらないでくださいませ。世の中、誠実な人もおりますわ。」
「……そうだといいわね。」
リリアナは穏やかに笑い、またページをめくる。
知らない世界の物語を追いながらも、思考の片隅にはあの銀の瞳がちらついて離れなかった。
***
午後、雪が少し弱まったころ、邸の中庭から馬の嘶きが聞こえた。
窓をのぞくと、セドリックが馬に跨がり、黒い外套を翻していた。
その姿は黒曜石の刃のように精悍で、見惚れるほど美しい。
ふと、彼がこちらを見上げ、わずかに目を細めた。
一瞬の視線。ほんの一秒にも満たないのに、胸の奥が跳ねた。
(……見られた?)
慌ててカーテンを閉めた自分に気づき、リリアナは顔を覆った。
「何をしているの、私……。」
小さなため息だけが部屋の中を漂った。
***
その夜、夕食の場でセドリックと顔を合わせた。
彼は外套を脱ぎ、銀の髪に少し雪が残っている。
「今日は寒さが厳しかったでしょう。お疲れ様です。」
リリアナが声をかけると、セドリックは短く「構わん」と返し、手元のスープを口に運んだ。
沈黙が流れる。
いつかの彼の言葉――「嘘をつくな」――がリリアナの頭をよぎる。
その無骨な誠実さに、どうしようもなく惹かれている自分がいた。
「公爵様。」
「なんだ。」
「この国では……人は、どうやって助け合っているのですか?」
唐突な質問に彼の眉が動いた。
「どういう意味だ。」
「王都では、誰もが見栄と打算で動いていました。ですがここでは、あの兵士たちも、屋敷の方々も、皆どこか誇りを持っています。貴方のもとに仕えることを誇りにしているように見えました。」
セドリックはしばらく黙り、ワイングラスを回した。
「この地は厳しい。雪も、飢えも、敵もある。だからこそ、互いを信じなければ生きていけない。王都のように口先では回らない。」
「……信じること、ですか。」
「そうだ。俺は嘘を嫌うが、それは信じるためでもある。疑うより苦しくても、信じるほうを選ぶ。」
静かな声が胸に沁みた。
リリアナは無意識に掌を握る。
心にまだ残る痛みが、少しずつ形を変えていくようだった。
「貴方の言葉には、強さがありますね。」
「強くなければ、この地を守れん。」
「羨ましいです。私にはそんな強さはありません。」
「そう見えるか? 君はもう十分強い。」
「……私が?」
セドリックは頷く。
「裏切られ、誇りを傷つけられても立っている。それを強さと言わずして何と言う。」
一瞬、喉が詰まりそうになった。
誰もそう言ってくれなかった。
否定も同情もなく、ただそのままを認めてくれる言葉。
「ありがとう……ございます。」
ようやく絞り出した声は震えていた。
セドリックは表情を変えず、ただ一言「礼は要らん」とだけ答えた。
***
食後、廊下を歩いていると、大広間の扉が微かに開いていた。
中では、セドリックが兵士に命令を下している。
「北の関所の守備を強化しろ。補給隊には民からの寄付分を回せ。」
その声には冷たさではなく、静かな熱があった。
「閣下。あの婦人からの訴えは――」
「明日の朝、俺が直接聞く。文で処理するな。目で見てから判断する。」
そのやり取りに、リリアナは立ち尽くした。
冷酷な公爵などという噂は、どれほど表面的なものだったのだろう。
出会った夜の鋭い瞳。その奥には、こんな誠実さがあったのか。
(あの方は、本当に“冷たい”のではなく……自らを律しているのね。)
胸が熱くなった。
気づけば、もう寒さは感じなかった。
扉の陰から廊下に戻ろうとしたとき、不意に声がした。
「覗き見とは感心せんな。」
背後からの低い声に、リリアナは息をのんだ。
振り返れば、すでにセドリックがこちらを見ていた。
どうやら気づかれていたらしい。
「す、すみません……! 声が聞こえてしまって——」
「いい。どうせ隠すことでもない。」
そう言って大股で近づき、彼はリリアナの頭上でふと止まる。
見下ろす銀の瞳が、月光を反射して柔らかに光る。
「……寒くないのか。」
「え……?」
「顔が赤い。熱でも出たかと思った。」
「ちが……寒さのせいです!」
思わず言い返すと、セドリックの唇がわずかに緩んだ気がした。
「この国の冬は長い。油断するな。」
「はい……。」
その声は穏やかで、ほんの少し笑っていたように聞こえた。
その晩、部屋に戻ったリリアナは、胸に手を当てたままベッドに腰を下ろした。
彼の銀の瞳が、暗闇の中でも鮮明に思い浮かぶ。
――冷たいと思っていた人の瞳が、今は不思議と温かく見える。
もしかするとこの邸での生活は、孤独ではないのかもしれない。
そう思った瞬間、頬に小さな笑みが浮かんだ。
続く
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