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第17話 元婚約者の後悔
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王都の冬は長い。
雪こそ少ないが、冷たい風と噂だけが街の隅々まで吹き荒れる。
貴族街に建つ王太子の離宮は、その中心にあった。
厚い絨毯が敷かれた回廊を進む男――アルベルト・フォン・グロリア王太子の顔は疲れに満ちていた。
かつて誰もが羨んだその自信満々の微笑みは、今やただの仮面と化している。
「殿下、また筆頭貴族からの進言書が届いております。“リリアナ様の処遇について、早急なる決断を”とのことです。」
侍従の報告に、アルベルトは眉を顰めた。
机の上にはすでに同じような書状が山積みになっている。
書かれている内容は、どれも似たり寄ったりだった。
“かつて王家を恥じた女を許してはならない”
“追放後もなお、王国の威信を損ねる存在”
その文字を見れば見るほど、胸の奥が重苦しくなる。
「……いい、もう読まなくて構わない。」
「はっ。ですが殿下、陛下も近ごろご不快のご様子で――」
「放っておけ。」
アルベルトは書状を乱暴に払いのけた。
ペンが転がり、机にインクが散る。
その黒い雫の中に映る自らの顔が、酷く醜く見えた。
――俺は、何をしている?
王太子という座に就くために、完璧な婚約者を選んだはずだった。
リリアナ・アーデルハイト。
家柄も血筋も申し分ない。何より彼女の冷静さと気品は、王妃になるに相応しいと信じていた。
だが、彼女の“完璧さ”は次第に彼の傲慢を映す鏡になった。
自分がいかに未熟で、彼女の知恵と品格に支えられていたかを認めることができなかった。
だから――手軽な慰めに逃げた。
自分を褒め称え、理解してくれると甘言を囁いたフェリシアの笑顔に。
あの夜、フェリシアの作り話を信じたのは、本当に彼女を想っての行動だったのか。
否。
ただ、彼女の涙が自分の正しさを保証してくれると思ったからだ。
(俺は……弱かった。)
リリアナを見捨てた瞬間、心の奥が凍りついたことは覚えている。
けれど、誰にも言えなかった。
それを認めれば、自分こそが“愚かな王子”になるからだ。
***
窓の外では、鈍い灰色の雲が立ち込めていた。
外の庭には、人影がひとり。
フェリシアが庭木に花を生けながら、誰かへ微笑むように指を動かしている。
「殿下、フェリシア様がお待ちです。」
侍従の言葉に、アルベルトはため息をついて立ち上がった。
部屋を出ると、フェリシアは花束を抱えたまま振り返った。
「まあ、殿下。今日は遅かったのですね。」
いつもの柔らかな笑顔。
だが、アルベルトの目にはそれが妙に空虚に映った。
「……忙しかった。」
「仕方ありませんわ。王家の務めは重いもの。」
穏やかに話す彼女の声を聞きながらも、彼の心は少しずつ冷えていく。
「そういえば、リリアナ様の件――」
「その話はやめろ。」
思わず語気が強くなった。
フェリシアの動きが止まり、固まった笑みが微かに震える。
「……殿下?」
「聞きたくない。」
「でも――王都では、“彼女が貴方を許すつもりで謝罪の手紙を送った”という噂が出回っておりますよ。」
「……謝罪だと?」
フェリシアは頷き、花束を机に置いた。
「まあ、実際には誰かが創作した話かもしれませんわ。でも、人々は“殿下は慈悲深く、元婚約者にも哀れみをお掛けになった”と。」
その言葉に、アルベルトの胸が焼けるように痛んだ。
慈悲?哀れみ?
王族として、ひとを踏みにじっておきながら、それを“慈悲”の色に塗る。
自分が今まで築いてきた名誉が、どれも薄っぺらい化粧でしかなかったことを思い知らされる。
「……おかしいな。」
「え?」
「俺は、あいつの“謝罪”など欲しいと思ったことはない。」
その声は低く震えていた。
「本当に謝るべきは、俺のほうだ。」
フェリシアの顔から血の気が引いた。
「殿下、それは――」
「リリアナを……俺は間違えていた。」
はじめて口にしたその言葉が、胸の奥に刺さる。
封じ込めてきた後悔が、押し寄せる潮のように心を呑み込んでいく。
しかし、その声を遮るようにフェリシアが叫んだ。
「おやめください、殿下! あの女は貴方を見下していたのですよ!」
「違う。見下していたのは俺のほうだ。」
「なぜ今さら! あの女がどんな噂を広めたかご存じですか!?」
「それを作ったのはお前だろう、フェリシア。」
沈黙。
花束が床に落ち、白い花びらが散る。
フェリシアの唇が震えた。
「……どうして、そんなことを。」
「どうして、だと? もう隠せない。王家の耳に、真実が少しずつ届いている。彼女が王都を去る前に残した侍女の証言――“リリアナ様は殿下を責めず、ただ静かに微笑んで門を出られた”と。」
フェリシアは崩れるように座り込んだ。
「そんな……私の努力は、何だったの……?」
「努力?」
アルベルトの声には、怒りよりも哀しみがあった。
「お前は俺を支えてくれた。だが、俺が本当に求めていたのは、嘘ではなく真実だったんだ。」
「……殿下。」
「俺は愚かだった。誰の言葉も信じず、心ある者を捨ててまで王座を選んだ。
けれど今、王都に残っている俺の名は“冷酷な王太子”だ。
そしてリリアナは、民の間で“真実を語らぬ高潔な人”と呼ばれている。」
フェリシアの涙が頬を伝う。
「私、ただ貴方に振り向いてほしかったのよ……。」
「振り向いていたさ、一瞬だけな。」
その言葉に、フェリシアの肩が震えた。
「だが、その刹那の幻が、俺たちの人生を壊した。」
重い沈黙が流れる。
窓の外の風が、冷たく鳴った。
アルベルトは立ち上がり、ゆっくりと窓辺に歩み寄る。
雪のない王都の夜空を眺めながら、静かに呟いた。
「……リリアナ。
もし、どこかでこの声が届くなら……俺のすべての過ちを赦すとは言わない。
ただ一度でいい、もう一度お前の笑顔を見たい。」
その背中に、フェリシアの泣き声が重なる。
だが、彼は振り向かなかった。
その涙も、優しさも、もう彼の中には届かない。
かつて“完璧な王子”と讃えられた男の胸には、取り返しのつかない空洞だけが残った。
***
夜が更けて、風が止んだ。
アルベルトは書斎に戻り、一通の書簡に目を落とした。
それは、エルシャルト公爵からの正式な文。
封には雪の紋章が押されている。
――「この領の客人は、我が庇護のもとにある。
再びその名を汚す行いがあれば、王国といえど容赦なく討つ。」
文を読み終えた瞬間、アルベルトの口元がかすかに笑う。
「やはりお前か、セドリック・エルシャルト。」
その名を呼ぶ声には、懐かしさと嫉妬が混じっていた。
――昔から、俺の持たぬものを持つ男だった。
灯火が揺れる。
その炎の中に、雪の国の女の顔が浮かんだ気がした。
白いドレスに青い宝石。
強く、美しく、もう決して振り返らない背中。
アルベルトはゆっくりと目を閉じ、深く息を吐く。
その吐息は、悔恨と同時に、遠い恋の終焉の証でもあった。
続く
雪こそ少ないが、冷たい風と噂だけが街の隅々まで吹き荒れる。
貴族街に建つ王太子の離宮は、その中心にあった。
厚い絨毯が敷かれた回廊を進む男――アルベルト・フォン・グロリア王太子の顔は疲れに満ちていた。
かつて誰もが羨んだその自信満々の微笑みは、今やただの仮面と化している。
「殿下、また筆頭貴族からの進言書が届いております。“リリアナ様の処遇について、早急なる決断を”とのことです。」
侍従の報告に、アルベルトは眉を顰めた。
机の上にはすでに同じような書状が山積みになっている。
書かれている内容は、どれも似たり寄ったりだった。
“かつて王家を恥じた女を許してはならない”
“追放後もなお、王国の威信を損ねる存在”
その文字を見れば見るほど、胸の奥が重苦しくなる。
「……いい、もう読まなくて構わない。」
「はっ。ですが殿下、陛下も近ごろご不快のご様子で――」
「放っておけ。」
アルベルトは書状を乱暴に払いのけた。
ペンが転がり、机にインクが散る。
その黒い雫の中に映る自らの顔が、酷く醜く見えた。
――俺は、何をしている?
王太子という座に就くために、完璧な婚約者を選んだはずだった。
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家柄も血筋も申し分ない。何より彼女の冷静さと気品は、王妃になるに相応しいと信じていた。
だが、彼女の“完璧さ”は次第に彼の傲慢を映す鏡になった。
自分がいかに未熟で、彼女の知恵と品格に支えられていたかを認めることができなかった。
だから――手軽な慰めに逃げた。
自分を褒め称え、理解してくれると甘言を囁いたフェリシアの笑顔に。
あの夜、フェリシアの作り話を信じたのは、本当に彼女を想っての行動だったのか。
否。
ただ、彼女の涙が自分の正しさを保証してくれると思ったからだ。
(俺は……弱かった。)
リリアナを見捨てた瞬間、心の奥が凍りついたことは覚えている。
けれど、誰にも言えなかった。
それを認めれば、自分こそが“愚かな王子”になるからだ。
***
窓の外では、鈍い灰色の雲が立ち込めていた。
外の庭には、人影がひとり。
フェリシアが庭木に花を生けながら、誰かへ微笑むように指を動かしている。
「殿下、フェリシア様がお待ちです。」
侍従の言葉に、アルベルトはため息をついて立ち上がった。
部屋を出ると、フェリシアは花束を抱えたまま振り返った。
「まあ、殿下。今日は遅かったのですね。」
いつもの柔らかな笑顔。
だが、アルベルトの目にはそれが妙に空虚に映った。
「……忙しかった。」
「仕方ありませんわ。王家の務めは重いもの。」
穏やかに話す彼女の声を聞きながらも、彼の心は少しずつ冷えていく。
「そういえば、リリアナ様の件――」
「その話はやめろ。」
思わず語気が強くなった。
フェリシアの動きが止まり、固まった笑みが微かに震える。
「……殿下?」
「聞きたくない。」
「でも――王都では、“彼女が貴方を許すつもりで謝罪の手紙を送った”という噂が出回っておりますよ。」
「……謝罪だと?」
フェリシアは頷き、花束を机に置いた。
「まあ、実際には誰かが創作した話かもしれませんわ。でも、人々は“殿下は慈悲深く、元婚約者にも哀れみをお掛けになった”と。」
その言葉に、アルベルトの胸が焼けるように痛んだ。
慈悲?哀れみ?
王族として、ひとを踏みにじっておきながら、それを“慈悲”の色に塗る。
自分が今まで築いてきた名誉が、どれも薄っぺらい化粧でしかなかったことを思い知らされる。
「……おかしいな。」
「え?」
「俺は、あいつの“謝罪”など欲しいと思ったことはない。」
その声は低く震えていた。
「本当に謝るべきは、俺のほうだ。」
フェリシアの顔から血の気が引いた。
「殿下、それは――」
「リリアナを……俺は間違えていた。」
はじめて口にしたその言葉が、胸の奥に刺さる。
封じ込めてきた後悔が、押し寄せる潮のように心を呑み込んでいく。
しかし、その声を遮るようにフェリシアが叫んだ。
「おやめください、殿下! あの女は貴方を見下していたのですよ!」
「違う。見下していたのは俺のほうだ。」
「なぜ今さら! あの女がどんな噂を広めたかご存じですか!?」
「それを作ったのはお前だろう、フェリシア。」
沈黙。
花束が床に落ち、白い花びらが散る。
フェリシアの唇が震えた。
「……どうして、そんなことを。」
「どうして、だと? もう隠せない。王家の耳に、真実が少しずつ届いている。彼女が王都を去る前に残した侍女の証言――“リリアナ様は殿下を責めず、ただ静かに微笑んで門を出られた”と。」
フェリシアは崩れるように座り込んだ。
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「努力?」
アルベルトの声には、怒りよりも哀しみがあった。
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「……殿下。」
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けれど今、王都に残っている俺の名は“冷酷な王太子”だ。
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夜が更けて、風が止んだ。
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再びその名を汚す行いがあれば、王国といえど容赦なく討つ。」
文を読み終えた瞬間、アルベルトの口元がかすかに笑う。
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その名を呼ぶ声には、懐かしさと嫉妬が混じっていた。
――昔から、俺の持たぬものを持つ男だった。
灯火が揺れる。
その炎の中に、雪の国の女の顔が浮かんだ気がした。
白いドレスに青い宝石。
強く、美しく、もう決して振り返らない背中。
アルベルトはゆっくりと目を閉じ、深く息を吐く。
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続く
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