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1章

1 婚約者選定①

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 レイヴンと初めて会ったのはお互いに8歳の時だった。
 王宮に同じ年頃の令嬢が集められ、お茶会が開かれていた。

 レイヴンの母であり、王妃であるマルグリット主催のこのお茶会は、王太子・レイヴンの婚約者選びの為だといわれており、精いっぱい着飾った令嬢たちがマルグリットやレイヴンの気を引こうと懸命になっている。

 当然ルトビア公爵家へも招待状が届けられ、アリシアも参加していたが、王太子妃になりたいというような気持ちはなかった。
 ただ3つ年上の兄、レオナルドがその優秀さを買われてレイヴンと共に王宮で学んでいるのだ。
 アリシアは大好きな兄の話題によく出てくるレイヴンに興味があった。

 初めて会ったレイヴンは、さらさらの金髪に切れ長で空色の目。陶器のように白い肌に紅をさしたような色味の唇。女であるアリシアが恥ずかしくなってしまう程整った顔をしていて絵本に出てくる王子様そのものだ。
 ただ整いすぎた顔立ちの為、無表情にしていると不機嫌に見える。それも兄に聞いていた通りだった。

 令嬢たちが必至に話しかけているがレイヴンは無表情に相槌を打つ程度であり、不機嫌そうなその顔や態度に令嬢たちの腰が引けている。

 いや、本当に不機嫌なのか。

 下心たっぷりにすり寄って来る令嬢たちにうんざりしているようだ。
 レイヴンは無表情のまま順番に全てのテーブルをまわっていく。

「お初にお目にかかります。私はルトビア公爵家の長女でアリシア・ルトビアと申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 順番が来た時、アリシアはカテーシーをして挨拶をした。兄から聞いていた王子様だと思うと自然と笑みがこぼれた。
 アリシアがこの日レイヴンと言葉を交わしたのはそれだけだった。

 だからその数日後。
 両親と共に王宮に呼ばれ、謁見室でにこやかな表情のマルグリットからレイヴンの婚約者に内定したと告げられた時には心底驚いた。

 国王夫妻と並ぶレイヴンはやはり絵本の中の王子様だ。
 この美しい人の婚約者になれたのかと思うと喜びがこみ上げてきた。
 それに大好きな兄が週の半分以上王宮に上がり、レイヴンと共に過ごしているのだ。兄の話題には大抵レイヴンが出てくる。
 これまではレイヴンに兄を取られたような寂しさがあった。けれどこれで自分も仲間に入れるといった様な、おかしな喜びもあった。

 自分でもわからない内に舞い上がっていたのだと思う。
 それにこの日はレイヴンもお茶会の時とは違い、優し気な笑顔を見せていた。

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