【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

23 花嫁衣裳と調度品③

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 レイヴンに手を握られて、アリシアは驚いて顔を見上げた。
 最近は抱き締められたり腰を抱かれても驚かなくなったけれど、手を握られるのは初めてだ。
 見上げたレイヴンの横顔は少し強張って見えた。


 レイヴンは並べられたドレスや装飾品を見ながら、2年前に挙げた結婚式を思い出していた。
 王太子と王太子妃となる2人の結婚式には決まり事や制約が多い。
 
 花嫁のドレスはベルラインで、重ねられたレースに国花であるカトレアが刺繍される。
 ブーケに使われる花もカトレアで、色は高貴な紫と決まっている。
 髪型はプリンセススタイルで、王太子妃のティアラをつける。
 ベールはロングの金糸ベールだ。
 首飾りやイヤリング、ブレスレットには白の真珠しか使えない。
 自由に選べるものはなかった。

 それでもレイヴンは、少しでもアリシアの望みを叶えたいと、王室のデザイナーへ好みの形やデザインを伝えるようにと伝えていた。
 だけどアリシアはそれを社交辞令と受け取ったのか、そもそも結婚式に興味が無いのか、希望を口にすることはなく、こちらから提示された物をただ受け入れていた。
 
 母のマルグリットが結婚した時には、決められた枠組みの中でも少しでも自分の好みに近づけようと、古参の女官やデザイナーと何度もぶつかったと言っていた。
 特に手強かったのが当時の王妃であり今は王太后となっている祖母で、伝統を重んじる祖母と新しいものを取り入れようとするマルグリットは、何度も激しくぶつかったのだと教えてくれた。
 
 王家として絶対に守らなければならない伝統はある。
 それでも時代に合わせた変化を取り入れられる部分もある。

 自身の経験から、可能な限り希望が受け入れられるように、アリシアの味方になると言ってくれていたマルグリットは、希望を口にしないアリシアにがっかりしていた。
 それと同時に、マルグリットが心配していた「人形のような義娘むすめ」に近づいているアリシアに、酷くショックを受けていた。
 マルグリットに、「なぜこうなるまでに関係を修復しなかったのか」と叱責されたレイヴンは、ただ項垂れて聞いているしかなかった。
 
 なぜもっと早くに歩み寄り、関係を修復しなかったのか。
 それを一番後悔しているのはレイヴンだ。

 レイヴンはアリシアと結婚する日を待ち望んでいたし、結婚式で隣に立つアリシアの花嫁姿を、何度も夢に見ていた。
 2人で当日の手順や流れを確認しながら、予行練習を行いながら、レイヴンは隣に立つアリシアの横顔を何度も盗み見る。だけどその横顔から読み取れる感情はない。
 
 アリシアにも結婚式で少しでも幸せを感じて欲しい。
 幸せな思い出にして欲しい。
 
 それでもあの頃のレイヴンは、それを言葉にして伝えることができなかった。
 もっと早く素直に気持ちを伝えていれば、もっと違った結婚式になっていたはずだ。
 
 アリシアは今、ジェーンの好みにそぐわないドレスや装飾品に怒りを露わにしている。
 アリシアにも結婚式に夢や憧れがあるはずだ。
 レイヴンとの結婚式は、少しでもアリシアの夢や憧れを叶えられていたのだろうか。



「ご歓談中失礼いたします。皆さま、お茶の支度が整いました。ぜひ応接間へお越しください」

 自己嫌悪に陥いるレイヴンの思考を打ち破ったのは、場違いなジョッシュの明るい声だった。
 この部屋で歓談している者などいない。
 ピリピリした空気を感じ取ったのか、ジョッシュは一瞬顔を引き攣らせたが、すぐに元の笑顔に戻る。
 ジェーンの傍に来ると、図々しくもその肩に腕をまわした。

「花嫁衣裳を見ていただきましたか。素晴らしいでしょう。美しい花嫁になりますよ」

 ジョッシュはにこにこしているが、肩に腕をまわされたジェーンは暗い顔で俯いている。 

 この花嫁衣裳を本当に素晴らしいと思っているのなら本物の馬鹿だ。

 ジョッシュがどれだけ楽し気に振舞っても、誰一人としてにこりともしない。
 焦ったジョッシュは並べられた品々の素晴らしさを誇らしげに語っていたが、相手にする者はいなかった。




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