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2章
91 訊けない想い②
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私は一体何を言おうとしていたの。
自室に戻ったアリシアは混乱していた。
ーーマルグリット様は、陛下を愛しておられますか?
とても口に出して良い言葉ではない。
なぜそんな愚かなことを?
自分でもわからない。
あの直前までそんなこと考えてもいなかった。
それなのに。
退室しようとするマルグリットの後姿を見た瞬間、頭の中に浮かんでしまった。
学園の話をしていたからだろうか。
時の王太子に嫁いだマルグリットとアリシア。
その時の状況がよく似ているのだ。
当時王太子であった国王は学生時代サンドラを想っていた。
けれどその気持ちを告げることなく、決められた通りマルグリットと婚姻を結んだ。
レイヴンも学生時代ジェーンを想っていた。
少なくともアリシアはそれを信じていた。
それでもレイヴンとアリシアは結婚した。
アリシアはレイヴンが誰を想っていても気にならなかった。
レイヴンを想っていないからだ。
アリシアを正妃として扱ってくれるのなら、レイヴンが誰を想っていても関係ないと思っていた。
だけどマルグリットは?
マルグリットは、国王がサンドラを想っていても気にならなかったのだろうか。
それは陛下を愛していないから?
ーーマルグリット様は、陛下を愛しておられますか?
とても訊けるようなことではなかった。
アリシアは大きく息を吐いて邪念を追い払った。
昨日はほとんど執務をすることができなかったのだ。今日は仕事が溜まっている。
机に向かい、積まれている書類に目を通す。
王太子宮の管理は女主人であるアリシアの仕事だ。
ひと月の収支報告、人事管理、王太子宮内での揉め事なども報告される。
収支におかしなところはないか、新人研修の進捗状況や配置換えの報告、揉め事を起こした人物の処罰について。
王太子宮で働いているだけでも膨大な人数だ。一件ごとの書類が分厚い。
………。
収支報告に目を通していたはずの、アリシアの意識はまた逸れていく。
なぜ私はあんなことを?
本当はわかっている。
マルグリットはアリシアが望む 未来の姿なのだ。
今、国王には5人の側妃がいる。
それでもマルグリットの王妃としての立場は揺るぎない。
国王は王妃の立場を狙った側妃を幽閉してしまった。
側妃がそこまで増長したのは、国王の寵愛があったからだ。
これだけ寵愛されているのだから、私が王妃に――。
私の生んだ王子こそが王太子に相応しい――。
陛下もそれを望んでいるはず――。
けれど国王はどれほど側妃を寵愛していても、マルグリットの立場を脅かすことはなかった。
そしてそれこそがアリシアの求めている姿だ。
レイヴンが側妃を迎えても、その側妃をどれ程寵愛したとしても、アリシアの正妃としての立場は変わらない。
アリシアがそう信じていられたのは、レイヴンの「約束」があったことと、それを体現している国王がいたからだ。
だけどマルグリットの気持ちは?
アリシアは、レイヴンが側妃を迎えても気にならない。
それは愛していないから。
それではマルグリットは?
国王が側妃を迎えても、側妃のところへ通っていても、マルグリットは気にならないのだろうか。
それは、愛していないから?
それとも、愛しているから?
――ああ、だめだわ。
アリシアは頭を振って思考の海から抜け出した。
私ったら、また何を考えているの。
気を入れなおして手元の書類に目を通す。
なぜ私はこんなことばかり考えているの。
それはわかっている。
『アリシアにも僕を愛して欲しい。僕を愛さないって決めないで。僕を締め出さないで。お願いだから…っ』
レイヴンの言葉が蘇って消えないからだ。
結局アリシアは午前中まともに仕事を進めることが出来なかった。
扉を叩く音がしてレイヴンの訪れを告げられる。
既に昼食の時間となり、いつもの様にレイヴンが迎えに来たのだ。
入室を求めるレイヴンに、アリシアは応えるのを躊躇った。
昨日の言葉に惑わされている今は、レイヴンに会いたくない。
このままでは午後も仕事が進まない。
「――ごめんなさい、お断りして…」
「アリシア!!」
言い終わる前にバンっ!!と音を立てて扉が開かれた。
扉の外に立っていたレイヴンにも聞こえていたようだ。
レイヴンは傍に控えるエレノアに、「出ていてくれ」と言い放つとアリシアの傍まで大股でやってくる。
エレノアは躊躇っていたがレイヴンに逆らうことはできない。
エレノアが退室したのを横目で見届けたレイヴンは、アリシアの傍で膝をついた。
その顔は哀し気に歪んでいる。
「昨日あんなことを言ったから、僕が嫌になった…?」
「え?!」
アリシアは思いがけない言葉に驚いたが、同時に気がついた。
これまでアリシアがレイヴンの訪れを断ったことなどなかったのだ。
初めて喧嘩をした時、レイヴンの訪れに気づかない振りをしたことはあったけれど、はっきりと断ったこは一度もない、
「アリシアは僕と一緒にいたくない?」
不安げに瞳を揺らすレイヴンにアリシアは慌てた。
「午前中に予定していた仕事が終わらなかったのです!なので今日は、昼食を摂りながら仕事を進めようかと思いまして」
アリシアがそう言うと、レイヴンは立ち上がって机にある書類を手に取った。
さっと目を通す。
いつも処理している、さほど難しくない案件だ。
「それもきっと僕があんなことを言ったからだね。これは王太子宮の収支報告書かな。今日中に終わらせないといけないのなら、僕が…」
「まぁ!とんでもありません!」
アリシアは更に慌てた。
「これは私の仕事ですわ。私の仕事を取り上げないで下さいませ」
「…そうだよね。ごめんね、アリシア」
レイヴンが項垂れる。
アリシアはレイヴンの手から書類を抜き取るとその手を握った。
「これは午後に致しますわ。昼食をいただきましょう」
レイヴンの顔を見て微笑むと、レイヴンも微かに笑顔になった。
このままじゃいけない。
午後の職務が終わると、今度は夕食の為にレイヴンが迎えに来る。
レイヴンの目を見つめて、アリシアは切り出した。
「レイヴン様、私、お願いがありますの――」
自室に戻ったアリシアは混乱していた。
ーーマルグリット様は、陛下を愛しておられますか?
とても口に出して良い言葉ではない。
なぜそんな愚かなことを?
自分でもわからない。
あの直前までそんなこと考えてもいなかった。
それなのに。
退室しようとするマルグリットの後姿を見た瞬間、頭の中に浮かんでしまった。
学園の話をしていたからだろうか。
時の王太子に嫁いだマルグリットとアリシア。
その時の状況がよく似ているのだ。
当時王太子であった国王は学生時代サンドラを想っていた。
けれどその気持ちを告げることなく、決められた通りマルグリットと婚姻を結んだ。
レイヴンも学生時代ジェーンを想っていた。
少なくともアリシアはそれを信じていた。
それでもレイヴンとアリシアは結婚した。
アリシアはレイヴンが誰を想っていても気にならなかった。
レイヴンを想っていないからだ。
アリシアを正妃として扱ってくれるのなら、レイヴンが誰を想っていても関係ないと思っていた。
だけどマルグリットは?
マルグリットは、国王がサンドラを想っていても気にならなかったのだろうか。
それは陛下を愛していないから?
ーーマルグリット様は、陛下を愛しておられますか?
とても訊けるようなことではなかった。
アリシアは大きく息を吐いて邪念を追い払った。
昨日はほとんど執務をすることができなかったのだ。今日は仕事が溜まっている。
机に向かい、積まれている書類に目を通す。
王太子宮の管理は女主人であるアリシアの仕事だ。
ひと月の収支報告、人事管理、王太子宮内での揉め事なども報告される。
収支におかしなところはないか、新人研修の進捗状況や配置換えの報告、揉め事を起こした人物の処罰について。
王太子宮で働いているだけでも膨大な人数だ。一件ごとの書類が分厚い。
………。
収支報告に目を通していたはずの、アリシアの意識はまた逸れていく。
なぜ私はあんなことを?
本当はわかっている。
マルグリットはアリシアが望む 未来の姿なのだ。
今、国王には5人の側妃がいる。
それでもマルグリットの王妃としての立場は揺るぎない。
国王は王妃の立場を狙った側妃を幽閉してしまった。
側妃がそこまで増長したのは、国王の寵愛があったからだ。
これだけ寵愛されているのだから、私が王妃に――。
私の生んだ王子こそが王太子に相応しい――。
陛下もそれを望んでいるはず――。
けれど国王はどれほど側妃を寵愛していても、マルグリットの立場を脅かすことはなかった。
そしてそれこそがアリシアの求めている姿だ。
レイヴンが側妃を迎えても、その側妃をどれ程寵愛したとしても、アリシアの正妃としての立場は変わらない。
アリシアがそう信じていられたのは、レイヴンの「約束」があったことと、それを体現している国王がいたからだ。
だけどマルグリットの気持ちは?
アリシアは、レイヴンが側妃を迎えても気にならない。
それは愛していないから。
それではマルグリットは?
国王が側妃を迎えても、側妃のところへ通っていても、マルグリットは気にならないのだろうか。
それは、愛していないから?
それとも、愛しているから?
――ああ、だめだわ。
アリシアは頭を振って思考の海から抜け出した。
私ったら、また何を考えているの。
気を入れなおして手元の書類に目を通す。
なぜ私はこんなことばかり考えているの。
それはわかっている。
『アリシアにも僕を愛して欲しい。僕を愛さないって決めないで。僕を締め出さないで。お願いだから…っ』
レイヴンの言葉が蘇って消えないからだ。
結局アリシアは午前中まともに仕事を進めることが出来なかった。
扉を叩く音がしてレイヴンの訪れを告げられる。
既に昼食の時間となり、いつもの様にレイヴンが迎えに来たのだ。
入室を求めるレイヴンに、アリシアは応えるのを躊躇った。
昨日の言葉に惑わされている今は、レイヴンに会いたくない。
このままでは午後も仕事が進まない。
「――ごめんなさい、お断りして…」
「アリシア!!」
言い終わる前にバンっ!!と音を立てて扉が開かれた。
扉の外に立っていたレイヴンにも聞こえていたようだ。
レイヴンは傍に控えるエレノアに、「出ていてくれ」と言い放つとアリシアの傍まで大股でやってくる。
エレノアは躊躇っていたがレイヴンに逆らうことはできない。
エレノアが退室したのを横目で見届けたレイヴンは、アリシアの傍で膝をついた。
その顔は哀し気に歪んでいる。
「昨日あんなことを言ったから、僕が嫌になった…?」
「え?!」
アリシアは思いがけない言葉に驚いたが、同時に気がついた。
これまでアリシアがレイヴンの訪れを断ったことなどなかったのだ。
初めて喧嘩をした時、レイヴンの訪れに気づかない振りをしたことはあったけれど、はっきりと断ったこは一度もない、
「アリシアは僕と一緒にいたくない?」
不安げに瞳を揺らすレイヴンにアリシアは慌てた。
「午前中に予定していた仕事が終わらなかったのです!なので今日は、昼食を摂りながら仕事を進めようかと思いまして」
アリシアがそう言うと、レイヴンは立ち上がって机にある書類を手に取った。
さっと目を通す。
いつも処理している、さほど難しくない案件だ。
「それもきっと僕があんなことを言ったからだね。これは王太子宮の収支報告書かな。今日中に終わらせないといけないのなら、僕が…」
「まぁ!とんでもありません!」
アリシアは更に慌てた。
「これは私の仕事ですわ。私の仕事を取り上げないで下さいませ」
「…そうだよね。ごめんね、アリシア」
レイヴンが項垂れる。
アリシアはレイヴンの手から書類を抜き取るとその手を握った。
「これは午後に致しますわ。昼食をいただきましょう」
レイヴンの顔を見て微笑むと、レイヴンも微かに笑顔になった。
このままじゃいけない。
午後の職務が終わると、今度は夕食の為にレイヴンが迎えに来る。
レイヴンの目を見つめて、アリシアは切り出した。
「レイヴン様、私、お願いがありますの――」
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