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2章

106 思い描いた未来②

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 アンジュは男爵家ではあっても貴族の家に生まれ、きちんと育てられた。
 勉強や難しいことは嫌いだったが、それでも最低限の教育は受けている。
 
 アンジュはエミリーとは違い、公爵家の次男であるデミオンが爵位を継げないことを知っていた。アンジュの家には兄がいるので、男爵家の入り婿になることもできない。
 だからアンジュは、デミオンと結婚したら平民と同じように自分も仕事をして生活をするのだと思っていた。

「私、今回のことがあってから、父に当時のことを聞いてみましたの。アンジュ殿、あなたがどのように聞いているのかわからないけれど、あなた方の学園卒業が迫っていた当時、確かにキャンベル侯爵家からデミオン殿に婚姻の申入れがあったわ。だから祖母…前公爵夫人は、デミオン殿に申入れを受けるのかそれとも断るのか、選ぶよう言ったのよ。そしてデミオン殿は侯爵家の入り婿になることを選んだ。わかるかしら?誰かに強制されたわけではなく、デミオン殿が自分で入り婿になることを選んだのよ」

「だからそれは!アンジュを幸せにする為ですっ!!」

 デミオンが叫ぶ。

「アンジュ殿はそんなことを望んでいなかったと言っているわよ」

 応えるアリシアの声は冷たい。

「キャンベル侯爵家は入り婿になってくれる方を探していた。前公爵夫人はデミオン殿の将来を案じていらした。それも当然よね」

 アリシアは大きく息をつく。

「どこの家の方でも爵位を継ぐ方以外は卒業後の身の振り方について真剣に考えているものよ。法曹界を目指す方や医師を志す方は卒業後に専門の学校へ進まれるし貴族院を目指す方、官吏になる方、騎士団へ入られる方、商人として商会を立ち上げる方、様々に努力をしておられたでしょう。皆、己の将来を考えていたからよ。だけどデミオン殿は何もしていなかったでしょう。毎日アンジュ殿と遊び歩き、家庭教師が来る日も家に帰らず、卒業後引き立てて頂けないかと前公爵夫人がお招きしたさきの宰相殿との晩餐も連絡なく欠席したそうね。礼儀を欠いただけでなく前公爵夫人の顔も潰したとさきの宰相殿は大層お怒りだったとか」

 その代わり弟の不始末を詫びる為に同席したアダムを大層気に入り、結果的にさきの宰相に引き立てられたアダムが今、宰相となっているのだけれど。

「男爵令嬢と一緒になりたいと言う割に、一緒になる為に必要なことを何もしないあなたを前公爵夫人は大層案じておられたそうよ。だから前公爵夫人は最後に選ばせたのよ。生計を立てる手段も無いまま、それでも男爵令嬢と一緒になるのか、男爵令嬢とは手を切り、キャンベル侯爵家の入り婿になるのか。前公爵夫人はあなたに仰ったのよね?キャンベル侯爵家の入り婿となるなら今後一切アンジュ殿と関わってはならないと。宰相、そうですわよね?」

「はい。間違いありません」

 アダムが頷く。

「前公爵夫人はキャンベル侯爵家の入り婿となるなら今後一切アンジュ殿とは関わってはならないと仰った。デミオン殿はそれを受け入れられた。それなのに、実際には婚姻を結んだ後もデミオン殿はアンジュ殿と関係を続けていた。前公爵夫人がお怒りになるのも当然よね。ねえ、アンジュ殿。前公爵夫人はあなたやデミオン殿を嫌っていたけれど、今の話を聞いていて悪いのは前公爵夫人だと思う?それともデミオン殿かしら?」

「それは…っ」

 アンジュが言葉に詰まる。
 それが答えだった。
 


 
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