【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
137 / 697
2章

107 男爵令嬢と侯爵夫人①

しおりを挟む
「わ、わたしはアンジュを幸せにしようと…」

「違うわよね。何の努力も苦労もせずに、人のお金で贅沢な暮らしをしようとしただけよね」

「そんなことはありません!わたしは努力をしていました!ですがアンジュが言ったんです。わたしは頑張り過ぎだと!もっと自由に生きて良いと!!」

「アンジュ殿が言ったの?侯爵家の入り婿になってサンドラを食い物にしてやりましょうって?」

 アリシアがアンジュを睨んで言うとデミオンが慌てて否定する。

「違います!そうではなく…っ!」
 
 狼狽えるデミオンにアリシアは呆れたように大きく息を吐いた。

「あなた方2人のことはマルグリット様に聞きました」

 そう、国王とマルグリットは学園でサンドラやデミオン、アンジュと同じ学年だった。
 在学期間中の2人を良く知っているのだ。

 そしてマルグリットはその頃からアンジュを嫌っていた。
 男爵家の令嬢でありながら、公爵家の令息であるデミオンに言い寄り、唆す。
「あなたはいつも頑張り過ぎよ。そんなに頑張る必要ないわ。もっと力を抜きなさいよ」
 マルグリットはアンジュがデミオンにそう言っていたのを覚えている。
 それ以来2人はべったりとして過ごすようになり、デミオンの成績はどんどん落ちていった。

「ねえ、アンジュ殿。あなたは知っているかしら?男爵家と公爵家では求められる教養も礼儀作法もレベルが違うということを」

「…え?」

「やっぱり知らないのね」

 使節団の一員としてアルスタへ行くエミリーがなぜアルスタ語を学ばなければならないのか、と言うくらいなのだ。
 本当に知らないのだろう。

「身分や立場によって必要な教養や礼儀作法のレベルは違っているの。あなたは男爵家の令嬢だったから男爵家としての教育しか受けていない。デミオン殿が受けていたのは公爵家としての教育よ。…あなたたちの始まりは嘘じゃなかったと思うわ。男爵家としての教育しか受けていないあなたから見たデミオン殿は完璧だったのでしょう。それなのにまだ努力することを求められ、苦しんでいる。あなたにはそう見えたのね。そしてデミオン殿は初めて努力を認められ、もっと力を抜いて良いと言われた。嬉しかったのでしょう。それは私にもわかるわ」

 アリシアも厳しい妃教育を受けていた時、毎日が辛く苦しかった。
 だけどレオナルドがいつも「アリシアは頑張っているよ」と言ってアリシアの努力を認めてくれていた。
「家にいる時はゆっくりしようね」と労わってくれていた。
 それがとても嬉しかった。

 だけどアリシアはわかっていた。
 まだ自分が王太子妃として求められるレベルに達していないことを。
 頑張っているけれど、努力をしているけれど、もっともっと頑張らなければいけないことを。
 
「デミオン殿、あなたもわかっていたはずよ」

 マルグリットはアンジュが男を惑わす毒婦だという。
 確かにそうかもしれない。
 だけどアンジュは本心を言っていただけだ。
 デミオンは頑張り過ぎだと、そんなに頑張らなくても良いと、思っていたからそう言っていた。
 だけどそれは違うのだと、デミオンにはわかっていたはずだ。




しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

処理中です...