【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

23 リトマインのお部屋①

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 アリシアはこの日、半日以上部屋を空けていた。

 マルグリットが行っている公務を何れアリシアが継承する時が来る。
 その時の為にマルグリットの執務室で一緒に執務を行いながら、マルグリットの公務を教えられる日が月に数日設けられているのだ。

 その日予定されていた執務を終えたアリシアがマルグリットの部屋から自室へ戻ろうとしていると、後ろからレイヴンに呼び止められた。

 レイヴンの休憩時間には少し早いはずだが、アリシアが戻ると聞いて時間をずらして来たらしい。
 アリシアは昼食をマルグリットと一緒に食べた為、レイヴンとは朝会ったきりだった。

 追いついてきたレイヴンがアリシアを抱き寄せる。
 愛し気に頬へ口づけた後、アリシアを部屋までエスコートしてくれた。

「ちょっと待って、アリシア。アリシアに見せたいものがあるんだ」

 アリシアの部屋の手前で足を止めたレイヴンがそんなことを言う。
 どことなく嬉しそうだ。
 不思議に思いながらも促されるまま着いていくと、レイヴンはアリシアの部屋と向かいあった部屋の扉を開いた。

「――え?」

「アリシアの部屋だよ」

 部屋の中を一望したアリシアが戸惑った声を出す。
 対してレイヴンはにこにこと笑っている。
 
 その部屋はすべての調度品がリトマインの製品で揃えられていた。
 アリシアがかつて手に入れたいと熱望していたチェストもある。
 只々驚いて部屋を見ていたアリシアは、ある一点で視線を止めた。

「これは…、部屋を移れということでしょうか」

 アリシアの硬い声に、レイヴンは驚いてアリシアの顔を見た。
 その表情は強張っている。
 アリシアの視線の先にあるのは天蓋付きのベッドだった。

 今、アリシアが使っている部屋は王太子妃の部屋である。
 その部屋から移るということは、王太子妃として扱われなくなるということだ。
 部屋が移ったくらいでその身分が変わることはないが、「王太子妃として正当に扱われること」を強く意識しているアリシアにとって耐えがたいことである。
 そして王太子妃として扱われないのなら、その続き部屋にある寝室を――王太子とその正妃の為の寝室を使うことはできない。
 
 アリシアをここへ移して、王太子妃の部屋へ入る者がいるのだろうか。

「違うよ、アリシア!!そんなわけないだろう?!」
 
 アリシアの視線を追ったレイヴンが、その理由を理解して慌てて否定した。
 顔を強張らせたアリシアをレイヴンが抱き締める。

「ごめん、アリシア。そんなつもりじゃなかったんだ!!部屋を移って欲しいんじゃない。この部屋も・・・・・アリシアの部屋なんだ!アリシアがリトマインを好きだと言っていたから、その…、離宮に移ったら調度品を全部リトマインにしたいと言っていたから…、リトマインの調度品が揃った部屋ならアリシアが喜んでくれるかと思ったんだ。ベッドも、同じシリーズの製品だから………」

 レイヴンの声が小さくなっていく。

 レイヴンはアリシアが離宮に移るなんて耐えられない。
 そんなことは絶対に認められない。

 だからアリシアが専用で使う部屋をもう1つ増やすことにした。
 離宮とは比べ物にならないが、1部屋だけでもアリシアが好きな調度品を揃えることはできる。

 今アリシアが使っている部屋の調度品は、アリシアが嫁いでくる前にマルグリットとレイヴンが選んだ。
 公爵家へは結婚するまでにアリシアの希望を出して欲しいと伝えていたが、返ってきたのは「特にない」との返答だった。
 レイヴンがアリシアの部屋へ頻繁に入るようになったのはこの数か月のことだが、買い替えられた物も買い足された物もないようだ。
 あの部屋をアリシアが気に入ってくれているのか、いないのか、レイヴンにはわからない。 

 アリシアの望みを叶えたい。
 アリシアに喜んで欲しい。

 リトマインを揃えればアリシアが喜んでくれると思っていた。

「…部屋を移るのではないのですか?」

「違うよ、アリシア。移るんじゃない。アリシアが使える部屋を増やしたんだ」

「………良かった…」

 強張っていたアリシアの体から力が抜ける。
 力が抜けたアリシアを横抱きにして、レイヴンはその新しい部屋へと足を踏み入れた。



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