192 / 697
3章
47 突然の訪問者①
しおりを挟む
夕食はアリシアの部屋 でで摂った。
アリシアと1日、ほとんど2人きりになれないレイヴンが、せめて夕食は2人だけで食べたいと言ったからだ。
部屋で食べる夕食は簡単なものなので侍女もすべて下がらせる。
それに食堂で出されるフルコースの食事とは違ってすべて一度にテーブルへ乗せられるので、短時間で食べ終えることができる。
食事を終えた後、レイヴンはアリシアを膝に乗せて幸せな時間を堪能していた。
話題になっているのはノティスとジェーンのことだ。
アリシアは、ジェーンとのお茶会にノティスが参加することを許可して欲しいと言っていたが、元々ジェーンとノティスの婚約を薦めたのはレイヴンである。2人が交流を持つことに反対する理由がない。
ただレイヴンは、アリシアが定期的に他の男と過ごすことになるのが気に入らないだけだ。
「…レイヴン様の弟君ですよ?」
アリシアは困ったようにそう言うが、弟でも男である。
やっぱり気に入らない。
アリシアに不機嫌な顔を見せたくないレイヴンは顔を背けるが、間近でレイヴンを見上げているアリシアから隠せるはずがなかった。
「困った方ですね」
苦笑しながらレイヴンの頭へ手をまわしたアリシアがそっと撫でる。
「…っ!」
普段アリシアから触れてくれることはほとんどない。
だけど偶にこうして甘やかそうとしてくれる。
今日一緒に過ごせなかったことをアリシアも淋しく思ってくれているのかな、と思うと、レイヴンの胸に暖かいものが込み上げてくる。
「好きだよ、アリシア」
込み上げる感情のまま告げると、アリシアは花が綻ぶように笑ってくれた。
そうしていても、アリシアには気掛かりなことがある。
ノティスやジェーンには話したことだが、このまま2人が婚約した時にそれを邪推する者がいることだ。
『王太子がジェーンを公妾とする為に、後ろ盾が無く立場の弱い異母弟に夫の座を押し付けた』
こうした噂がまた流れるのだろう。
アリシアがその話をすると、レイヴンは泣きそうな顔になった。
「事実ではないのですから、私は気にしません。ジェーンも気にしないでしょう。ですがノティス殿下はどうでしょうか。殿下は人の悪意に敏感になっておられますから、気にしないのは難しいでしょうね」
ノティスにはおかしな噂は笑って受け流すようにと教えたが、今のノティスには難しいと思う。
そしてレイヴンも気にするのだろう。
最近の噂でも、気に病んでいるのはアリシアではなくレイヴンだ。度々今みたいな泣きそうな顔をしている時がある。
「レイヴン様は今も色々気にされているようですけれど、気になさらなくてよろしいのですよ?私たちの周りにはそんな噂を信じる者などおりませんもの」
アリシアはレイヴンへそう言い聞かせながら、頭へまわしていた手を滑らせてレイヴンの頬に触れる。
レイヴンがその手に手を重ねて握りこんだ。
「愛している、アリシア。僕がこんな風に過ごしたいと思うのは君だけだよ」
近づいた唇が唇にそっと触れた、その時。
小さく扉を叩く音がして、扉が開いた。
「失礼致します、妃殿下。お客様がいらっ…あっ!」
「失礼致しますわ、お義姉様。…え?」
来客を先導して入室したエレノアが、「しまった」という顔で硬直していた。
続いて入ってきたカナリーも、信じられないものを見たという顔で固まっている。
反射的に顔を上げたレイヴンとアリシアも、同時に扉の方へ顔を向けていた。
「カナリー?!」
「カナリー殿下?!」
部屋の入り口では状況を理解したカナリーが顔を赤く染めている。
その姿を見たアリシアもまた、サッと顔色を変えていた。
アリシアと1日、ほとんど2人きりになれないレイヴンが、せめて夕食は2人だけで食べたいと言ったからだ。
部屋で食べる夕食は簡単なものなので侍女もすべて下がらせる。
それに食堂で出されるフルコースの食事とは違ってすべて一度にテーブルへ乗せられるので、短時間で食べ終えることができる。
食事を終えた後、レイヴンはアリシアを膝に乗せて幸せな時間を堪能していた。
話題になっているのはノティスとジェーンのことだ。
アリシアは、ジェーンとのお茶会にノティスが参加することを許可して欲しいと言っていたが、元々ジェーンとノティスの婚約を薦めたのはレイヴンである。2人が交流を持つことに反対する理由がない。
ただレイヴンは、アリシアが定期的に他の男と過ごすことになるのが気に入らないだけだ。
「…レイヴン様の弟君ですよ?」
アリシアは困ったようにそう言うが、弟でも男である。
やっぱり気に入らない。
アリシアに不機嫌な顔を見せたくないレイヴンは顔を背けるが、間近でレイヴンを見上げているアリシアから隠せるはずがなかった。
「困った方ですね」
苦笑しながらレイヴンの頭へ手をまわしたアリシアがそっと撫でる。
「…っ!」
普段アリシアから触れてくれることはほとんどない。
だけど偶にこうして甘やかそうとしてくれる。
今日一緒に過ごせなかったことをアリシアも淋しく思ってくれているのかな、と思うと、レイヴンの胸に暖かいものが込み上げてくる。
「好きだよ、アリシア」
込み上げる感情のまま告げると、アリシアは花が綻ぶように笑ってくれた。
そうしていても、アリシアには気掛かりなことがある。
ノティスやジェーンには話したことだが、このまま2人が婚約した時にそれを邪推する者がいることだ。
『王太子がジェーンを公妾とする為に、後ろ盾が無く立場の弱い異母弟に夫の座を押し付けた』
こうした噂がまた流れるのだろう。
アリシアがその話をすると、レイヴンは泣きそうな顔になった。
「事実ではないのですから、私は気にしません。ジェーンも気にしないでしょう。ですがノティス殿下はどうでしょうか。殿下は人の悪意に敏感になっておられますから、気にしないのは難しいでしょうね」
ノティスにはおかしな噂は笑って受け流すようにと教えたが、今のノティスには難しいと思う。
そしてレイヴンも気にするのだろう。
最近の噂でも、気に病んでいるのはアリシアではなくレイヴンだ。度々今みたいな泣きそうな顔をしている時がある。
「レイヴン様は今も色々気にされているようですけれど、気になさらなくてよろしいのですよ?私たちの周りにはそんな噂を信じる者などおりませんもの」
アリシアはレイヴンへそう言い聞かせながら、頭へまわしていた手を滑らせてレイヴンの頬に触れる。
レイヴンがその手に手を重ねて握りこんだ。
「愛している、アリシア。僕がこんな風に過ごしたいと思うのは君だけだよ」
近づいた唇が唇にそっと触れた、その時。
小さく扉を叩く音がして、扉が開いた。
「失礼致します、妃殿下。お客様がいらっ…あっ!」
「失礼致しますわ、お義姉様。…え?」
来客を先導して入室したエレノアが、「しまった」という顔で硬直していた。
続いて入ってきたカナリーも、信じられないものを見たという顔で固まっている。
反射的に顔を上げたレイヴンとアリシアも、同時に扉の方へ顔を向けていた。
「カナリー?!」
「カナリー殿下?!」
部屋の入り口では状況を理解したカナリーが顔を赤く染めている。
その姿を見たアリシアもまた、サッと顔色を変えていた。
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる