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3章
48 突然の訪問者②
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「殿下、妃殿下、申し訳ありません!!」
「お、お兄様ったら、こんな時間から…」
エレノアが犯してしまった失態に頭を下げ、カナリーは気まずいのを誤魔化そうと、レイヴンを揶揄おうとしていた。
気まずいのはレイヴンも同じである。
揶揄いに乗ったふりをして言い返そうとした時、「レ、レイヴン様…」というアリシアのか細い声が聞こえた。
同時に身動きして膝から降りようとしている。
恥ずかしがっているのだと思ったレイヴンが頬を緩めてアリシアを見ると、アリシアは真っ蒼な顔をしていた。
一瞬で理解する。
マルグリットは、アリシアにとってレイヴンの母や弟妹と会うのは公務なのだろうと言っていた。
レイヴンの膝に乗せられて戯れているところなど、公務で見せられるわけがない。
アリシアは必死に王太子妃としての自分を立て直そうとしている。
レイヴンはアリシアを放すのではなく、そのまま腕に抱き込んだ。
「レイヴン様!」
アリシアが抗議の声を上げた。
アリシアの矜持の為には放してあげた方が良いのだろう。
だけど今は公務の時間ではない。
「大丈夫だよ、アリシア」
焦ったように藻掻くアリシアの髪を撫で、耳元で囁く。
私的な時間に力を抜いて過ごしていたとしても誰も責めたりしない。
それより行いを改めないといけないのはカナリーの方だ。
宥める様にアリシアの髪を撫でながら、カナリーへ向き直る。
「カナリー、何をしに来た?」
先程とは違う兄の低く冷たい声にカナリーは戸惑った。
「わ、私はお義姉様とお話をしたくて…」
「なぜ先触れを出さない?」
「先触れ?」
「アリシアは王太子妃だ。僕の妃を軽んじることは許さない」
初め何を言われているのか分からなかったカナリーは、そこまで言われてハッとした。
王宮内であっても目上の者やあまり親しくない者を訪ねる時は先触れを出して都合を伺う。
親しい者や目下の者には出さなくても構わない。
カナリーは正殿にある母や弟妹たちの部屋を訪ねる時に先触れなど出さない。
他の者であってもこれまで出したことはなく、出すとすれば国王である父の私室を訪ねる時だけだ。
それほどまでマルグリット所生の王子・王女は立場が確立されている。
だけど例えば側妃がマルグリットを訪ねてきたり、側妃のところの弟妹がカナリーを訪ねて来る時は先触れが来ている。
それは同じ国王の子どもであっても、正妃と側妃の子どもでは立場が違うということだ。
立場の違いを明確にする為に定められた決まりだった。
カナリーが訪ねたのがレイヴンの部屋ならまだ良かった。
レイヴンは王太子だが兄である。親しい者に含まれる。
だけどここはアリシアの部屋だ。
アリシアは王太子妃で、親しくもない。
これではカナリーがアリシアを王太子妃として認めていないと言っているようなものだった。
「大変失礼致しました!義姉上…いえ、妃殿下」
カナリーにアリシアを貶める意図はない。先程口にした通り、話がしたいと思っただけだ。
これまで誰にも先触れを出したことがないカナリーは、その必要性と意味を考えていなかったのだ。
頭を下げながら、レイヴンが抱き込む前に見えていたアリシアの顔を思い出す。
アリシアは青褪めて怯えた表情をしていた。
それはカナリーが知っている完璧な――教科書の様な――王太子妃の姿ではなかった。
「お、お兄様ったら、こんな時間から…」
エレノアが犯してしまった失態に頭を下げ、カナリーは気まずいのを誤魔化そうと、レイヴンを揶揄おうとしていた。
気まずいのはレイヴンも同じである。
揶揄いに乗ったふりをして言い返そうとした時、「レ、レイヴン様…」というアリシアのか細い声が聞こえた。
同時に身動きして膝から降りようとしている。
恥ずかしがっているのだと思ったレイヴンが頬を緩めてアリシアを見ると、アリシアは真っ蒼な顔をしていた。
一瞬で理解する。
マルグリットは、アリシアにとってレイヴンの母や弟妹と会うのは公務なのだろうと言っていた。
レイヴンの膝に乗せられて戯れているところなど、公務で見せられるわけがない。
アリシアは必死に王太子妃としての自分を立て直そうとしている。
レイヴンはアリシアを放すのではなく、そのまま腕に抱き込んだ。
「レイヴン様!」
アリシアが抗議の声を上げた。
アリシアの矜持の為には放してあげた方が良いのだろう。
だけど今は公務の時間ではない。
「大丈夫だよ、アリシア」
焦ったように藻掻くアリシアの髪を撫で、耳元で囁く。
私的な時間に力を抜いて過ごしていたとしても誰も責めたりしない。
それより行いを改めないといけないのはカナリーの方だ。
宥める様にアリシアの髪を撫でながら、カナリーへ向き直る。
「カナリー、何をしに来た?」
先程とは違う兄の低く冷たい声にカナリーは戸惑った。
「わ、私はお義姉様とお話をしたくて…」
「なぜ先触れを出さない?」
「先触れ?」
「アリシアは王太子妃だ。僕の妃を軽んじることは許さない」
初め何を言われているのか分からなかったカナリーは、そこまで言われてハッとした。
王宮内であっても目上の者やあまり親しくない者を訪ねる時は先触れを出して都合を伺う。
親しい者や目下の者には出さなくても構わない。
カナリーは正殿にある母や弟妹たちの部屋を訪ねる時に先触れなど出さない。
他の者であってもこれまで出したことはなく、出すとすれば国王である父の私室を訪ねる時だけだ。
それほどまでマルグリット所生の王子・王女は立場が確立されている。
だけど例えば側妃がマルグリットを訪ねてきたり、側妃のところの弟妹がカナリーを訪ねて来る時は先触れが来ている。
それは同じ国王の子どもであっても、正妃と側妃の子どもでは立場が違うということだ。
立場の違いを明確にする為に定められた決まりだった。
カナリーが訪ねたのがレイヴンの部屋ならまだ良かった。
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だけどここはアリシアの部屋だ。
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これではカナリーがアリシアを王太子妃として認めていないと言っているようなものだった。
「大変失礼致しました!義姉上…いえ、妃殿下」
カナリーにアリシアを貶める意図はない。先程口にした通り、話がしたいと思っただけだ。
これまで誰にも先触れを出したことがないカナリーは、その必要性と意味を考えていなかったのだ。
頭を下げながら、レイヴンが抱き込む前に見えていたアリシアの顔を思い出す。
アリシアは青褪めて怯えた表情をしていた。
それはカナリーが知っている完璧な――教科書の様な――王太子妃の姿ではなかった。
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