【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
207 / 697
3章

62 散歩

しおりを挟む
 それからジェーンが議会に出る日までの数日はあっという間に過ぎた。
 その間ジェーンがアリシアのところへ来ることはなかった。

 ジェーンからは、議会の日に研修を休むことになるので休憩時間や夜の時間にその分の講義を受けることになったと知らせが来ている。
 それは本当のことなのだろうが、アリシアの葛藤をわかっているジェーンは、顔を合わせればアリシアが更に悩むと知っているので会わない様にしてくれているのだ。

 同じくアリシアの葛藤をわかっているレイヴンからは徹底的に甘やかされた。
 
 執務以外の時間は常に一緒にいたし、毎日贈り物が届けられる。
 以前の様に商人が来るのではなく、レイヴンが選んだものだ。
「やっぱり自分が選んだものを身につけてくれた方が嬉しいとわかったから」と照れくさそうに笑っていた。
 それとは別に毎日新しいワンピースが届けられ、夕食はアリシアの部屋で2人きりで摂る。

 2人で散歩をする時は、王太子宮ではなくレイヴンの執務室が近い中庭の方へ行く。
「2人が仲睦まじく過ごす様子をさり気なくアピールした方が良い」というレオナルドの助言に従ってのことだ。
 許可された者しか入ることができない王太子宮の庭園とは違って執務棟の辺りは王宮で仕事をしている者や所用で登城している者たちが行き来している。
 王太子宮で過ごしていてもそこで働く侍女やメイドを通じて2人の様子は社交界へ伝わっているのだが、やはり2人が仲睦まじい様子を直接見せた方が効果が高いということだ。

 王太子宮の庭園を歩く時は、通常のエスコートではなく指を絡めて手を繋いで歩く。
 人目につく場所ではそんな手の繋ぎ方をすることができないのでレイヴンは寂しそうにしているが、それでもアリシアへ向けられる視線は甘い。時々立ち止まって抱き寄せられたり、額に口づけられたりもする。
 その度にアリシアは小声で抗議をするが、レイヴンは「今は公務の時間じゃないよ」と笑っている。
 今のレイヴンは王太子ではなく、アリシアの夫なのだと言いたいらしい。

 そんな2人を見かけた貴族たちは目を見開いたり、顔を寄せ合いひそひそ話をしたりしている。

 社交界にはアリシアへの寵愛が本物だと信じている者もいれば、レイヴンとジェーンの噂を信じている者もいる。そして、その噂を利用しようとしている者もいる。
 すれ違う相手がどちらなのか、2人が気にする必要はない。
 レイヴンとアリシアは行き会った貴族たちの挨拶を受けながら親しそうに笑い合っていた。

「………?」

 アリシアはいくつもの花壇の向こう、レイヴンの執務室に近い回廊の柱の陰からこちらをじっと見ているキャロル・グーリッド伯爵令嬢の姿が見えた気がした。
 だけどただの伯爵令嬢であるキャロルが登城する理由も執務棟にいるような理由もない。

「どうかしたの?」

 レイヴンに訊かれたアリシアは、「なんでもありませんわ」と笑って答えた。
 キャロルの気持ちを知るアリシアは、なぜかレイヴンにはキャロルの話をしたくないと感じていた。




 そうしている内に議会の日になった。
 議場は王宮から一刻(約30分)程のところにある。
 いつもは見送りに出ることなどないアリシアだが、不安な気持ちのまま馬車止まりまでレイヴンについて来ていた。
 レイヴンはそんなアリシアを安心させようと明るく振る舞う。

「ルトビア公爵もいるし、レオナルドもいる。大丈夫だよ」

 アリシアをぎゅっと抱き締めると笑顔のまま馬車へ乗り込んだ。
 遠ざかる馬車をアリシアは不安な気持ちのまま見送った。
  



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...