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3章
160 壮行会・昼の部③
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ジェーンは薄いピンクのドレスを着ていた。
外交官として職務を行う為のドレスだ。華美ではないが女性らしい華やかさがある。
未婚なので髪はハーフアップにしていて飾りは銀色の髪留め1つ。胸元にはペンダントトップに小さな赤い宝石がついた首飾りが見えた。
あの赤い宝石はルビーである。
キャンベル侯爵家はルビーの加工や販売、輸出事業で富を築いた一族だ。ジェーンは侯爵家の跡取りである自分に誇りを持っている。
国王の言葉を受けてのスピーチだが、聴衆の大半は民衆なのでカテーシーは行わない。ここでの礼は胸に手を当てて軽く頭を下げるものだ。
一礼して頭を上げたジェーンはゆっくりとしっかりした声で話し出した。
有料席で舞台を見ていた令嬢たちはジェーンの美しい所作に息を飲んだ。
ジェーンの立ち居振る舞いの拙さは有名だった。つい数か月前にも議会で拙いカテーシーを見せいている。
それが信じられない程今のジェーンは美しい所作を見せていた。
令嬢たちは最近社交界で聞いた話を思い出す。
アリシアのお茶会に出た夫人たちがジェーンの所作を褒め称えていたのだ。
夫人たちにはそんな嘘を吐く理由がない。だけど幼い頃から時間をかけて身につける所作が短期間で身に着くとは思えず、信じていなかったのだ。
ジェーンはスピーチも巧みである。
討論の技術は学生時代も評価されていた。人に聞かせるための話術はレオナルドに鍛えられている。
ジェーンが語るのは未来の希望だ。アルスタは長年の同盟国で、互いに助け合って発展してきた。
その関係を強化する為に使節団はアルスタへ行く。
学べるだけのものを学び、取り入れられるものはすべて取り入れて帰ってくる。こちらの特産品や工芸品を紹介して、より多くの人に興味を持ってもらいたい。
アナトリアの未来の為に力を尽くすことをジェーンはここで誓った。
舞台に上がったジェーンは輝いていた。
洗練された所作は努力の賜物である。今のジェーンを嘲笑う者などいるはずがない。
演台で話すジェーンを見ながら、アリシアは涙を止めることができなかった。
王太子妃として人前で感情を見せてはいけない。
そう思っているのに、堪えようとしても涙が溢れてくる。
アリシアたちが望み続けていたジェーンの姿がそこにあった。
必死に嗚咽を堪えるアリシアをレイヴンが抱き寄せた。
少しでも人の目から隠せれば良い。
レイヴンの意図を察したアリシアがレイヴンの胸に頬を寄せる。
王太子夫妻の様子を見ていた人は寄り添う2人の姿を見ることになった。
広場の後ろの方で、民衆に紛れて舞台を見ている人影があった。
元婚約者のジョッシュである。
ジョッシュはこれまで使節団の壮行会に興味を持ったことなど無かった。
だけど今年はジェーンがスピーチをすると兄から教えられた。それを聞いたジョッシュはじっとしていることができなかったのだ。
ジェーンを疎んじ、婚約者としての義務をほとんど果たさなかったジョッシュだが、その理由の1つに所作の拙さがあった。
ジェーンをエスコートしていると、一緒にいるジョッシュも嗤われていることが何度もあった。
その度に恥ずかしい思いをしていたジョッシュは、何故こんなみっともない令嬢が婚約者なのかとうんざりしていたのだ。
だけど今はその理由がわかっている。
キャンベル侯爵夫妻がジェーンを疎んじ、淑女教育を受けさせていなかったからだ。
それどころか暴力を振るわれていたジェーンは全身に酷い怪我を負っていた。
何もないところでよく躓くのも、よく物を落とすのも傷が痛むせい。
社交界で嗤われているのを誰よりも気にしていたのはジェーンだった。
2人から解放されたジェーンは必死で淑女教育に取り組んだのだろう。
半年ぶりのジェーンは眩しい程輝いていた。
普通であればあの美しい所作を身につけるのに10年以上の時が掛かる。
今の姿を見ると、ジェーンが侯爵令嬢としての淑女教育を受けたいと切望していたのだとわかる。
ジョッシュは歓声を受けて頭を下げるジェーンに背中を向けた。
エミリーにはここへ来ることを伝えていない。
同じ両親に育てられながら、2人は反対の道へ進んだ。
最近やっと平民としての生活に馴染んできたエミリーが、美しくなったジェーンを見たらまた心を乱すかもしれない。
どうか幸せに。
ジョッシュは少しも打ち解けることのなかったかつての婚約者へ心の中で告げると、妻の元へ戻る為に歩き出した。
外交官として職務を行う為のドレスだ。華美ではないが女性らしい華やかさがある。
未婚なので髪はハーフアップにしていて飾りは銀色の髪留め1つ。胸元にはペンダントトップに小さな赤い宝石がついた首飾りが見えた。
あの赤い宝石はルビーである。
キャンベル侯爵家はルビーの加工や販売、輸出事業で富を築いた一族だ。ジェーンは侯爵家の跡取りである自分に誇りを持っている。
国王の言葉を受けてのスピーチだが、聴衆の大半は民衆なのでカテーシーは行わない。ここでの礼は胸に手を当てて軽く頭を下げるものだ。
一礼して頭を上げたジェーンはゆっくりとしっかりした声で話し出した。
有料席で舞台を見ていた令嬢たちはジェーンの美しい所作に息を飲んだ。
ジェーンの立ち居振る舞いの拙さは有名だった。つい数か月前にも議会で拙いカテーシーを見せいている。
それが信じられない程今のジェーンは美しい所作を見せていた。
令嬢たちは最近社交界で聞いた話を思い出す。
アリシアのお茶会に出た夫人たちがジェーンの所作を褒め称えていたのだ。
夫人たちにはそんな嘘を吐く理由がない。だけど幼い頃から時間をかけて身につける所作が短期間で身に着くとは思えず、信じていなかったのだ。
ジェーンはスピーチも巧みである。
討論の技術は学生時代も評価されていた。人に聞かせるための話術はレオナルドに鍛えられている。
ジェーンが語るのは未来の希望だ。アルスタは長年の同盟国で、互いに助け合って発展してきた。
その関係を強化する為に使節団はアルスタへ行く。
学べるだけのものを学び、取り入れられるものはすべて取り入れて帰ってくる。こちらの特産品や工芸品を紹介して、より多くの人に興味を持ってもらいたい。
アナトリアの未来の為に力を尽くすことをジェーンはここで誓った。
舞台に上がったジェーンは輝いていた。
洗練された所作は努力の賜物である。今のジェーンを嘲笑う者などいるはずがない。
演台で話すジェーンを見ながら、アリシアは涙を止めることができなかった。
王太子妃として人前で感情を見せてはいけない。
そう思っているのに、堪えようとしても涙が溢れてくる。
アリシアたちが望み続けていたジェーンの姿がそこにあった。
必死に嗚咽を堪えるアリシアをレイヴンが抱き寄せた。
少しでも人の目から隠せれば良い。
レイヴンの意図を察したアリシアがレイヴンの胸に頬を寄せる。
王太子夫妻の様子を見ていた人は寄り添う2人の姿を見ることになった。
広場の後ろの方で、民衆に紛れて舞台を見ている人影があった。
元婚約者のジョッシュである。
ジョッシュはこれまで使節団の壮行会に興味を持ったことなど無かった。
だけど今年はジェーンがスピーチをすると兄から教えられた。それを聞いたジョッシュはじっとしていることができなかったのだ。
ジェーンを疎んじ、婚約者としての義務をほとんど果たさなかったジョッシュだが、その理由の1つに所作の拙さがあった。
ジェーンをエスコートしていると、一緒にいるジョッシュも嗤われていることが何度もあった。
その度に恥ずかしい思いをしていたジョッシュは、何故こんなみっともない令嬢が婚約者なのかとうんざりしていたのだ。
だけど今はその理由がわかっている。
キャンベル侯爵夫妻がジェーンを疎んじ、淑女教育を受けさせていなかったからだ。
それどころか暴力を振るわれていたジェーンは全身に酷い怪我を負っていた。
何もないところでよく躓くのも、よく物を落とすのも傷が痛むせい。
社交界で嗤われているのを誰よりも気にしていたのはジェーンだった。
2人から解放されたジェーンは必死で淑女教育に取り組んだのだろう。
半年ぶりのジェーンは眩しい程輝いていた。
普通であればあの美しい所作を身につけるのに10年以上の時が掛かる。
今の姿を見ると、ジェーンが侯爵令嬢としての淑女教育を受けたいと切望していたのだとわかる。
ジョッシュは歓声を受けて頭を下げるジェーンに背中を向けた。
エミリーにはここへ来ることを伝えていない。
同じ両親に育てられながら、2人は反対の道へ進んだ。
最近やっと平民としての生活に馴染んできたエミリーが、美しくなったジェーンを見たらまた心を乱すかもしれない。
どうか幸せに。
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