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番外編・処罰の後
19 処罰の後(11-②)
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「――私からは以上です。どうなさるのか、お2人でお考え下さい」
「待って!」
一礼して退室しようとするマーサをエミリーは止めていた。
そんなことを言うなんて意地悪だ、と思う。
だけどこれまでマーサに意地悪をされたことはない。マーサに言われたことは、どれもエミリーの為になることだった。
それにロバートも、エミリーが真面目に取り組んでいればマーサは見捨てないと言っていたのだ。
これまで意地悪されたと思っていたことが、本当は違っていた。
だからこれも、本当は違うのだ。
それにマーサは気になることを言っていた。
「お義姉様の評判が悪いってどういうこと…?」
振り返ったマーサが溜息を吐いた。
今大切なのはそんなことではない、というのはエミリーにもわかっている。
だけど気になってしまったのだ。
「…ジェーンお嬢様は淑女教育を受けていません。そんな状態で社交界へ出ればどうなるか。令嬢方の悪意ある視線や嘲笑をエミリー様もご存知でしょう」
「っ!」
エミリーは嗤われたり嫌なことを言われるのは愛人の娘だからだと思っていた。
だけどそれは貴族としての常識を知らなかったからだ。
確かにジェーンにも家庭教師はついていなかった。エミリーとは違って追い払ったのではなく、初めから雇ってもらえなかったのだ。
「お義姉様も嗤われていたの…?」
「幸いなことにジェーンお嬢様にはルトビア公爵家の方々やロバート様が傍にいました。ですから貴族としての常識や決まりごとには問題がありません。ですが、立ち居振る舞いや作法は、作法の先生について長い年月をかけて身につけるものです。お嬢様にはそれがありません。それにエミリー様もご存知の通り…、お嬢様は暴力を受けていました。痛む箇所を庇う動きが癖になり、高位貴族の令嬢とはとても思えないような、拙い動きをされていました…」
拙い動きと言われても、エミリーにはよくわからない。
エミリーも淑女教育を受けていないので、ジェーンの作法や立ち居振る舞いを見ても悪いとは思わなかったのだ。
だけどジョッシュは違う。
ジョッシュは侯爵令嬢として相応しい作法や立ち居振る舞いを身につけていないジェーンが恥ずかしく、内心蔑んでいたのだ。
12歳を過ぎてお茶会に招かれる様になった頃には、ジョッシュとジェーンの仲は冷え切っていたので、ほとんどの場合はエスコートもせず、それぞれで参加していた。
だけどどうしても正式な婚約者を伴わなければならない時が年に数回はある。
ジェーンをエスコートしていると、居合わせた令嬢や令息たちから蔑むような視線を向けられる。扇で口元を隠しながらくすくす笑い合う声が聞こえるようだった。
なぜ、こんな出来の悪い令嬢が婚約者なのかと何度も思った。
何もないところで躓いたり物を落としたりするのも、ジョッシュの気を引く為だと思ってうんざりしていたのだ。
だけどあれは、ジョッシュの気を引く為なんかじゃない。
怪我をしていたから、足が上がらなかったり手に力が入らなかったりしたせいだ。
主催者への挨拶を済ませたら離れることができる。
それだけを考えていたジョッシュは、痛みを堪えるジェーンの顔が微かに歪んでいたことにも気づかなかった。
なぜあんなに酷い態度を取ることができたのだろう。
侯爵令嬢としての振る舞いが出来ないのはエミリーも同じである。
それなのにエミリーのことは愛しく感じるだけで少しも気にならなかったのだ。
「待って!」
一礼して退室しようとするマーサをエミリーは止めていた。
そんなことを言うなんて意地悪だ、と思う。
だけどこれまでマーサに意地悪をされたことはない。マーサに言われたことは、どれもエミリーの為になることだった。
それにロバートも、エミリーが真面目に取り組んでいればマーサは見捨てないと言っていたのだ。
これまで意地悪されたと思っていたことが、本当は違っていた。
だからこれも、本当は違うのだ。
それにマーサは気になることを言っていた。
「お義姉様の評判が悪いってどういうこと…?」
振り返ったマーサが溜息を吐いた。
今大切なのはそんなことではない、というのはエミリーにもわかっている。
だけど気になってしまったのだ。
「…ジェーンお嬢様は淑女教育を受けていません。そんな状態で社交界へ出ればどうなるか。令嬢方の悪意ある視線や嘲笑をエミリー様もご存知でしょう」
「っ!」
エミリーは嗤われたり嫌なことを言われるのは愛人の娘だからだと思っていた。
だけどそれは貴族としての常識を知らなかったからだ。
確かにジェーンにも家庭教師はついていなかった。エミリーとは違って追い払ったのではなく、初めから雇ってもらえなかったのだ。
「お義姉様も嗤われていたの…?」
「幸いなことにジェーンお嬢様にはルトビア公爵家の方々やロバート様が傍にいました。ですから貴族としての常識や決まりごとには問題がありません。ですが、立ち居振る舞いや作法は、作法の先生について長い年月をかけて身につけるものです。お嬢様にはそれがありません。それにエミリー様もご存知の通り…、お嬢様は暴力を受けていました。痛む箇所を庇う動きが癖になり、高位貴族の令嬢とはとても思えないような、拙い動きをされていました…」
拙い動きと言われても、エミリーにはよくわからない。
エミリーも淑女教育を受けていないので、ジェーンの作法や立ち居振る舞いを見ても悪いとは思わなかったのだ。
だけどジョッシュは違う。
ジョッシュは侯爵令嬢として相応しい作法や立ち居振る舞いを身につけていないジェーンが恥ずかしく、内心蔑んでいたのだ。
12歳を過ぎてお茶会に招かれる様になった頃には、ジョッシュとジェーンの仲は冷え切っていたので、ほとんどの場合はエスコートもせず、それぞれで参加していた。
だけどどうしても正式な婚約者を伴わなければならない時が年に数回はある。
ジェーンをエスコートしていると、居合わせた令嬢や令息たちから蔑むような視線を向けられる。扇で口元を隠しながらくすくす笑い合う声が聞こえるようだった。
なぜ、こんな出来の悪い令嬢が婚約者なのかと何度も思った。
何もないところで躓いたり物を落としたりするのも、ジョッシュの気を引く為だと思ってうんざりしていたのだ。
だけどあれは、ジョッシュの気を引く為なんかじゃない。
怪我をしていたから、足が上がらなかったり手に力が入らなかったりしたせいだ。
主催者への挨拶を済ませたら離れることができる。
それだけを考えていたジョッシュは、痛みを堪えるジェーンの顔が微かに歪んでいたことにも気づかなかった。
なぜあんなに酷い態度を取ることができたのだろう。
侯爵令嬢としての振る舞いが出来ないのはエミリーも同じである。
それなのにエミリーのことは愛しく感じるだけで少しも気にならなかったのだ。
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