【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
336 / 697
番外編・処罰の後

19 処罰の後(11-②)

しおりを挟む
「――私からは以上です。どうなさるのか、お2人でお考え下さい」

「待って!」

 一礼して退室しようとするマーサをエミリーは止めていた。
 
 そんなことを言うなんて意地悪だ、と思う。
 だけどこれまでマーサに意地悪をされたことはない。マーサに言われたことは、どれもエミリーの為になることだった。
 それにロバートも、エミリーが真面目に取り組んでいればマーサは見捨てないと言っていたのだ。

 これまで意地悪されたと思っていたことが、本当は違っていた。
 だからこれも、本当は違うのだ。

 それにマーサは気になることを言っていた。

「お義姉様の評判が悪いってどういうこと…?」

 振り返ったマーサが溜息を吐いた。
 今大切なのはそんなことではない、というのはエミリーにもわかっている。
 だけど気になってしまったのだ。

「…ジェーンお嬢様は淑女教育を受けていません。そんな状態で社交界へ出ればどうなるか。令嬢方の悪意ある視線や嘲笑をエミリー様もご存知でしょう」

「っ!」

 エミリーは嗤われたり嫌なことを言われるのは愛人の娘だからだと思っていた。
 だけどそれは貴族としての常識を知らなかったからだ。
 確かにジェーンにも家庭教師はついていなかった。エミリーとは違って追い払ったのではなく、初めから雇ってもらえなかったのだ。

「お義姉様も嗤われていたの…?」

「幸いなことにジェーンお嬢様にはルトビア公爵家の方々やロバート様が傍にいました。ですから貴族としての常識や決まりごとには問題がありません。ですが、立ち居振る舞いや作法は、作法の先生について長い年月をかけて身につけるものです。お嬢様にはそれがありません。それにエミリー様もご存知の通り…、お嬢様は暴力を受けていました。痛む箇所を庇う動きが癖になり、高位貴族の令嬢とはとても思えないような、拙い動きをされていました…」

 拙い動きと言われても、エミリーにはよくわからない。
 エミリーも淑女教育を受けていないので、ジェーンの作法や立ち居振る舞いを見ても悪いとは思わなかったのだ。
 だけどジョッシュは違う。
 ジョッシュは侯爵令嬢として相応しい作法や立ち居振る舞いを身につけていないジェーンが恥ずかしく、内心蔑んでいたのだ。

 12歳を過ぎてお茶会に招かれる様になった頃には、ジョッシュとジェーンの仲は冷え切っていたので、ほとんどの場合はエスコートもせず、それぞれで参加していた。
 だけどどうしても正式な婚約者を伴わなければならない時が年に数回はある。

 ジェーンをエスコートしていると、居合わせた令嬢や令息たちから蔑むような視線を向けられる。扇で口元を隠しながらくすくす笑い合う声が聞こえるようだった。
 なぜ、こんな出来の悪い令嬢が婚約者なのかと何度も思った。
 何もないところで躓いたり物を落としたりするのも、ジョッシュの気を引く為だと思ってうんざりしていたのだ。

 だけどあれは、ジョッシュの気を引く為なんかじゃない。
 怪我をしていたから、足が上がらなかったり手に力が入らなかったりしたせいだ。

 主催者への挨拶を済ませたら離れることができる。
 それだけを考えていたジョッシュは、痛みを堪えるジェーンの顔が微かに歪んでいたことにも気づかなかった。
 
 なぜあんなに酷い態度を取ることができたのだろう。
 侯爵令嬢としての振る舞いが出来ないのはエミリーも同じである。
 それなのにエミリーのことは愛しく感じるだけで少しも気にならなかったのだ。
 



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...