【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
346 / 697
番外編・処罰の後

29 処罰の後(18)

しおりを挟む
 持って行くものと残していくものをどんどんより分けていく。
 そうはいってもほとんどが残していくものだ。カルヴィエ前伯爵が用意してくれた家は小さくて沢山のものを持って行くことは出来ない。

 ジョッシュと話し合って購入していた嫁入り調度品はすべて手放すことにした。新しい家に持って行ってもきっと中に入りきらないし、見せる人もいない。
 幸い既に購入したものは好きにして良いと言われているので、持って行ってから持て余すよりも売り払って手頃な品に買い替え、残りを当面の生活費に充てることにした。



 クレールに頼むと以前来ていた買取業者が来てくれることになった。
 業者が来る前日、エミリーは久しぶりに調度品が保管されている部屋へ入り、調度品を眺めた。


 ジェーンの嫁入り調度品のはずなのに、選んだのはアンジェとエミリーだ。
「いずれあなたのものになるのだから」と言われて、何の疑いもなくはしゃぎながら選んでいた。
 ジョッシュと結婚するのはエミリーだと信じていたからだ。

 今はジェーンと婚約しているけれど、本当に愛し合っているのは私たち。
 お父様もお母様も、私の方がジョッシュ様に相応しいと言ってくれているもの。

 この邸の中で、エミリーはお姫さまだった。望みはすべて叶えられている。
 だからこの望みも叶うのだと信じていた。

 愛人になるつもりなんて、少しもなかった。


 結果的に、望みは叶った。
 だけどあの頃想像していたものとは全く違う形になっている。
 あんなに輝いて見えていたハーヴィーの調度品にも今は全く惹かれない。
 何もなくなった部屋や廊下を見慣れた今、派手な色遣いで大柄の模様が描かれた調度品はエミリーの目にも悪趣味に映った。侯爵家に相応しくないというのが良くわかる。

 エミリーは調度品と一緒に並べられたウェディングドレスへ視線を向けた。
 このデザインもアンジュとエミリーが一緒に選んだ。

 処罰の日、アリシアやマルグリットは、デミオンとアンジュがこのドレスをジェーンに着せて参列者へ痣が見えるようにして、ジョッシュを怒らせるつもりだと言った。
 だけどエミリーはこのドレスをジェーンが着るとは思っていなかった。
 エミリーが着るつもりで選んだ、娼婦の様なドレスだ。

 ドレスを作り直すことはできない。
 エミリーはこのドレスで結婚式を挙げる。
 それを思うと参列者が少なくて良かったのかもしれない。

「………」

 エミリーは無言のまま部屋の中を見渡すと、部屋を出た。
 エミリーが犯した罪や間違いが詰め込まれたような部屋だ。
 だけどやっぱりエミリーはあの時の母を恋しく思う。
 今でも使用人棟では日に何度もアンジュの悲鳴が聞こえているという。

 足音に怯えるアンジュを訪ねて行くことはできない。
 デミオンもきっとエミリーを歓迎しないだろう。また怒鳴られるかもしれない。
 2人とは会わないまま、エミリーはこの邸を出ていく。


 
 エミリーは頭を振って物思いを断ち切った。
 調度品は既に運び出されて、あの部屋に残っているのはドレスだけだ。
 手元にあるリボンをぎゅっと握り締める。アンジュに選んでもらったお気に入りのリボンだ。
 今のアンジュに会えなくても、思い出の中のアンジュにはいつでも会える。

 そこでエミリーはハッとした。
 考える前にマーサを呼んでいた。

「マーサ!すぐに来てちょうだい!急いで!!」

 最近のエミリーがこんな風に使用人を呼ぶことはない。
 何事かとマーサは急いで駆けつけた。

「片づけをしているの!この部屋にお義姉様のものがないか見てちょうだい!」

「っ!!」

 エミリーはジェーンのものを何でも奪ってきた。
 最初は羨ましかったから。いつの頃からか逆恨みをして。
 奪うのが目的だったから、奪った後は大切にしなかった。もうどれがジェーンのものだったのか覚えていない。
 最近はエミリーの興味を引くものを持っていなかったから、最近のものはない。

「できるだけ、お義姉様に返すわ。返せるものがあればいいのだけど」

「エミリー様が欲しかったものではないのですか?」

「…良いのよ。どうせ置いていくものだもの」

 残されたものからジェーンが見つけ出すこともあるだろう。
 だけどできるだけ、返すことにしたかった。

 
 部屋中をくまなく探すとジェーンのものが少し出てきた。
 数着のドレスと少しの装飾品、数冊の本だ。
 だけどどれもジェーンが社交界に出るようになってからのもので、サンドラとの思い出の品はない。
 諦めかけた時、エミリーは幼い頃の宝箱を見つけた。
 宝石箱ではなく、エミリーの宝物を入れた宝箱だ。

「…このブローチには見覚えがありますね」

 マーサがエメラルドのついた小さなブローチを取り上げた。
 エメラルドはジェーンやエミリーの瞳の色だ。ルトビア公爵家の瞳の色とも言える。

「ジェーンお嬢様と妃殿下がお揃いのブローチが欲しいと言って、奥様と公爵夫人が話し合って作られたブローチだと思います」

「お母様との思い出のブローチなのね!良かった!!」

 この宝箱は幼い頃に使っていたものだ。
 あの頃は本当にジェーンのものが羨ましくて奪っていた。エミリーの瞳の色と同じ色のブローチが羨ましくて、手に入れたのが嬉しくて、宝箱へ入れていたのだろう。
 成長すると共にこの宝箱は開かなくなっていた。

「お義姉様にお返ししてね。そしてできれば…ごめんなさいと伝えて欲しいの」

 目を伏せたエミリーにマーサはふっと笑う。

「エミリー様がジェーンお嬢様と顔を合わせることはもうないでしょうが、ジェーンお嬢様に文を書くことはできますよ。ジェーンお嬢様はいずれこの邸に戻ってくるのですから」

 マーサの言葉にエミリーはパッと顔を上げた。
 これまでジェーンに文を書こうと思ったことなんて、一度もなかった。だから思いつかなかったのだ。
 だけど文でなら自分の言葉で謝ることができる。
 例え許してもらえなくても、謝りたい。

「…そうよね。そうするわ」

 そう言ったエミリーにマーサは頷いて部屋を出て行った。



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...