【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 4章

9 アリシアの希望③

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 アダムは娘を溺愛する父親ではない。
 そんな気持ちはアリシアがレイヴンの婚約者に選ばれた時に封印してしまった。
 アリシアが嫁いでしまえば王太子妃――いずれは王妃――と宰相になる。
 父親の気持ちのままでは宰相としての務めが果たせないこともあるのだ。

 レイヴンは王太子として必ず世継ぎを儲けなければならない。もしこのままアリシアが懐妊しなければ、レイヴンへ側妃を娶り世継ぎを儲けるよう率先して薦めなければならない立場だ。
 アダムにも人並の権力欲はある。
 国王の外祖父に、という思いもある。
 だけどその思いに固執してしまえば、権力を得るどころか周りからの反感を買い、立場を失うことになる。
 勿論それはアリシアも理解しているだろう。

 ただ娘を思う父親として、レイヴンが側妃を迎えてそちらに子ができた時に、アリシアが正妃としての立場を保てるよう足場を固める機会を認めても良いのではないだろうか。

「実はもう、陛下には話をしているんだ」

 レイヴンの声がして、思考に沈んでいたアダムは顔を上げた。
 レイヴンにはレオナルドが応対している。

「陛下はなんと?」

「…あまり良い反応をされなかった。最近女性の継承権を認めるよう法を改定したばかりだ。続けて慣例を破るのは臣下の反発を招くと言われて」

「王妃様は?」

「妃殿下はご自身が苦労された経験から賛成しておられる。すべては陛下のお考え次第だけれど、変えられるものなら変えた方が良いと」

 マルグリットの苦労というのは、領民との関係だけではない。
 レイヴンとアリシアが同じ年だということがそれを物語っている。

 サンドラやデミオンと学園で同学年の国王とマルグリットは、アダムの1つ年下だ。
 つまりアダムが結婚した翌年に、国王とマルグリットは婚姻を結んだということである。

 アリシアには3つ年上の兄がいる。
 更にはデミオンより1つ年下のライアンに、レオナルドより年上の息子が3人もいる。
 
 昔から学術でも剣術でもライアンを羨んだり妬んだりしたことはない。
 そんなアダムでも子どものことではライアンを羨み、妬んだことがある程だ。オレリアはアシュリーを祝いながらも焦りを滲ませていた。
 それが世継ぎを生まなければならないマルグリットなら尚更だろう。
 実際に国王が最初の側妃を娶ったのは、結婚して3年経ってもマルグリットが身籠らなかったからだ。

 幸いマルグリットよりも先に側妃が身籠ることはなかったけれど、マルグリットにはアリシアと違って夫からの寵愛がなかった。
 この頃、社交界ではサンドラに心を残す国王が、あまりマルグリットと寝所を共にしていないと噂が立っていた。サンドラが社交界から極端に距離を置いたのも、この頃からである。

 国王もサンドラが幸せな結婚生活を送っていれば、気持ちを捨てることもできただろう。
 サンドラも王宮に赴く時は夫婦仲が上手くいっているように振舞おうとした。だけどそんなサンドラに協力するようなデミオンではない。

 これは間接的にルトビア公爵家が国王とマルグリットの間を邪魔しているともいえた。
 だからアリシアの祖母である前公爵夫人は、アリシアがレイヴンの婚約者に選ばれなかったとしても、何か有事の際にはルトビア公爵家がマルグリットの後ろ盾になると決めていた。


「わたしからも陛下に話をしてみましょう」

「宰相?」

 驚いた顔をするレイヴンにアダムは頷いてみせた。
 ちらっと視線を向けるとライアンも小さく頷いていた。

 ライアンやアシュリーも当時の噂は知っている。
 マルグリットの苦悩も、母の決意も知っているのだ。

「わたしは妃殿下の父親ですから、進言するより雑談として話した方が良いでしょう。本日は良い例を見せてもらいました。わたしも雑談としてデミオンのとんでもない施策や領民との関係を陛下にお話してみます」

「そうしてもらえると助かる。有難い」

 アダムはもう一度しっかりと頷いた。
 隣でオレリアがアリシアへ心配そうな目を向けていた。



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