【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
459 / 697
第2部 4章

83 最後の思い出

しおりを挟む
「どうしたの?」

 耳元でレイヴンの声がして、アリシアは目を瞬いた。
 もう自室に戻ってきているのだ。ここは大応接間ではない。
 どうやら宴のことを思い出している内に、思考の海に沈んでいたようだ。

 レイヴンがアリシアを案じているのが、抱き締める腕から伝わってくる。
 元々宴に出るアリシアを心配していたのだから、「なんでもない」では納得しないだろう。
 だから別の話をすることにする。

「カナリー殿下のことを思い出していたのですわ。皆様に囲まれて、幸せそうでした」

「ああ」

 途端にレイヴンも破顔する。
 レイヴンも弟妹たちに囲まれたカナリーを思い出しているのだ。

 カナリーは学園を卒業したら降嫁する。
 宴に出るのはこれが最後だ。

 初めはアリシアたちと同じテーブルにいたカナリーだったが、途中で他のテーブルにいる弟妹に呼ばれて移っていった。
 そのあとは引っ張りだこである。
 最後は沢山の弟妹たちに囲まれて、贈り物を渡されていたようだ。カナリーの目には涙が浮かんでいた。

「私も、嫁ぐ年の休暇は領地で一族の者たちに囲まれました。これで公爵家の領地へ戻ってくるのは最後なのだと。一族の中には領地を出ない者もいます。王宮には立ち入れない身分の者も。そんな者たちから、『これが最後だから』と、記念になるものをいただきました。とても嬉しかったのを覚えています」

「……そうだね。アリシアが公爵領に行くのはちょっと難しいね」

「はい。元からわかっていたことです。納得していて、不満もありません。ですがその時は、なぜかとても淋しくなりました」

「それは仕方のないことだよ。それだけアリシアが皆に愛されていたということだ」

 レイヴンはアリシアを抱き締める腕に力を込める。
 アリシアを実家の領地へ帰してやることはできない。二度と会えない者もいるだろう。
 アリシアが淋しくない様に、これからはレイヴンが愛していく。

「愛しているよ、アリシア。これからは、僕が一緒にいるからね」

 頬に口づけられて、アリシアはくすぐったそうに肩をすくめた。
 
 宴では、他にも印象に残ったことがある。
 それは国王がずっとマルグリットの隣にいたことだ。

 昼餐の時は当然ながら、大応接間でも国王はマルグリットの隣に座っていた。
 側妃たちは同じテーブルでも他のソファである。
 途中、子どもたちに呼ばれて席を移ったこともあった。
 それでもそこでの話が終わると、いつもマルグリットの隣へ戻っていく。

 国王のあの姿勢もマルグリットの立場を強くする要因だろう。



「――少し早いけど、寝室に行く?」

 問い掛けられて、アリシアは頬を染めた。
 これから3日までは、誰も訪ねて来ない。
 これまでの休暇と違って2人一緒に過ごしていると知ったマルグリットが、しばらく邪魔をしない様にと言ったからだ。
 アイビスは意味が分からず頬を膨らませていたが、年頃の弟妹たちは顔を赤らめていた。

 部屋を退出する前に、アイビスが「なぜお義姉様のところへ行っちゃいけないの?」とカナリーに訊いていた。
 答えあぐねたカナリーが、「お兄様とお義姉様がとっても仲良くなったからよ」と言っていたけれど、聞こえなかったことにする。


「……湯浴みを、してきます」

 アリシアがそう言うと、レイヴンが笑って何度も頬に口づける。
 その唇がいつの間にか耳たぶを食み、首筋を辿っていく。

「僕が洗ってあげる」

 耳元で囁かれて、アリシアはコクコクと頷いた。
 レイヴンが楽しそうな笑い声を上げる。

 休暇はまだ半分残っているのだ。




しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...