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第2部 4章
83 最後の思い出
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「どうしたの?」
耳元でレイヴンの声がして、アリシアは目を瞬いた。
もう自室に戻ってきているのだ。ここは大応接間ではない。
どうやら宴のことを思い出している内に、思考の海に沈んでいたようだ。
レイヴンがアリシアを案じているのが、抱き締める腕から伝わってくる。
元々宴に出るアリシアを心配していたのだから、「なんでもない」では納得しないだろう。
だから別の話をすることにする。
「カナリー殿下のことを思い出していたのですわ。皆様に囲まれて、幸せそうでした」
「ああ」
途端にレイヴンも破顔する。
レイヴンも弟妹たちに囲まれたカナリーを思い出しているのだ。
カナリーは学園を卒業したら降嫁する。
宴に出るのはこれが最後だ。
初めはアリシアたちと同じテーブルにいたカナリーだったが、途中で他のテーブルにいる弟妹に呼ばれて移っていった。
そのあとは引っ張りだこである。
最後は沢山の弟妹たちに囲まれて、贈り物を渡されていたようだ。カナリーの目には涙が浮かんでいた。
「私も、嫁ぐ年の休暇は領地で一族の者たちに囲まれました。これで公爵家の領地へ戻ってくるのは最後なのだと。一族の中には領地を出ない者もいます。王宮には立ち入れない身分の者も。そんな者たちから、『これが最後だから』と、記念になるものをいただきました。とても嬉しかったのを覚えています」
「……そうだね。アリシアが公爵領に行くのはちょっと難しいね」
「はい。元からわかっていたことです。納得していて、不満もありません。ですがその時は、なぜかとても淋しくなりました」
「それは仕方のないことだよ。それだけアリシアが皆に愛されていたということだ」
レイヴンはアリシアを抱き締める腕に力を込める。
アリシアを実家の領地へ帰してやることはできない。二度と会えない者もいるだろう。
アリシアが淋しくない様に、これからはレイヴンが愛していく。
「愛しているよ、アリシア。これからは、僕が一緒にいるからね」
頬に口づけられて、アリシアはくすぐったそうに肩をすくめた。
宴では、他にも印象に残ったことがある。
それは国王がずっとマルグリットの隣にいたことだ。
昼餐の時は当然ながら、大応接間でも国王はマルグリットの隣に座っていた。
側妃たちは同じテーブルでも他のソファである。
途中、子どもたちに呼ばれて席を移ったこともあった。
それでもそこでの話が終わると、いつもマルグリットの隣へ戻っていく。
国王のあの姿勢もマルグリットの立場を強くする要因だろう。
「――少し早いけど、寝室に行く?」
問い掛けられて、アリシアは頬を染めた。
これから3日までは、誰も訪ねて来ない。
これまでの休暇と違って2人一緒に過ごしていると知ったマルグリットが、しばらく邪魔をしない様にと言ったからだ。
アイビスは意味が分からず頬を膨らませていたが、年頃の弟妹たちは顔を赤らめていた。
部屋を退出する前に、アイビスが「なぜお義姉様のところへ行っちゃいけないの?」とカナリーに訊いていた。
答えあぐねたカナリーが、「お兄様とお義姉様がとっても仲良くなったからよ」と言っていたけれど、聞こえなかったことにする。
「……湯浴みを、してきます」
アリシアがそう言うと、レイヴンが笑って何度も頬に口づける。
その唇がいつの間にか耳たぶを食み、首筋を辿っていく。
「僕が洗ってあげる」
耳元で囁かれて、アリシアはコクコクと頷いた。
レイヴンが楽しそうな笑い声を上げる。
休暇はまだ半分残っているのだ。
耳元でレイヴンの声がして、アリシアは目を瞬いた。
もう自室に戻ってきているのだ。ここは大応接間ではない。
どうやら宴のことを思い出している内に、思考の海に沈んでいたようだ。
レイヴンがアリシアを案じているのが、抱き締める腕から伝わってくる。
元々宴に出るアリシアを心配していたのだから、「なんでもない」では納得しないだろう。
だから別の話をすることにする。
「カナリー殿下のことを思い出していたのですわ。皆様に囲まれて、幸せそうでした」
「ああ」
途端にレイヴンも破顔する。
レイヴンも弟妹たちに囲まれたカナリーを思い出しているのだ。
カナリーは学園を卒業したら降嫁する。
宴に出るのはこれが最後だ。
初めはアリシアたちと同じテーブルにいたカナリーだったが、途中で他のテーブルにいる弟妹に呼ばれて移っていった。
そのあとは引っ張りだこである。
最後は沢山の弟妹たちに囲まれて、贈り物を渡されていたようだ。カナリーの目には涙が浮かんでいた。
「私も、嫁ぐ年の休暇は領地で一族の者たちに囲まれました。これで公爵家の領地へ戻ってくるのは最後なのだと。一族の中には領地を出ない者もいます。王宮には立ち入れない身分の者も。そんな者たちから、『これが最後だから』と、記念になるものをいただきました。とても嬉しかったのを覚えています」
「……そうだね。アリシアが公爵領に行くのはちょっと難しいね」
「はい。元からわかっていたことです。納得していて、不満もありません。ですがその時は、なぜかとても淋しくなりました」
「それは仕方のないことだよ。それだけアリシアが皆に愛されていたということだ」
レイヴンはアリシアを抱き締める腕に力を込める。
アリシアを実家の領地へ帰してやることはできない。二度と会えない者もいるだろう。
アリシアが淋しくない様に、これからはレイヴンが愛していく。
「愛しているよ、アリシア。これからは、僕が一緒にいるからね」
頬に口づけられて、アリシアはくすぐったそうに肩をすくめた。
宴では、他にも印象に残ったことがある。
それは国王がずっとマルグリットの隣にいたことだ。
昼餐の時は当然ながら、大応接間でも国王はマルグリットの隣に座っていた。
側妃たちは同じテーブルでも他のソファである。
途中、子どもたちに呼ばれて席を移ったこともあった。
それでもそこでの話が終わると、いつもマルグリットの隣へ戻っていく。
国王のあの姿勢もマルグリットの立場を強くする要因だろう。
「――少し早いけど、寝室に行く?」
問い掛けられて、アリシアは頬を染めた。
これから3日までは、誰も訪ねて来ない。
これまでの休暇と違って2人一緒に過ごしていると知ったマルグリットが、しばらく邪魔をしない様にと言ったからだ。
アイビスは意味が分からず頬を膨らませていたが、年頃の弟妹たちは顔を赤らめていた。
部屋を退出する前に、アイビスが「なぜお義姉様のところへ行っちゃいけないの?」とカナリーに訊いていた。
答えあぐねたカナリーが、「お兄様とお義姉様がとっても仲良くなったからよ」と言っていたけれど、聞こえなかったことにする。
「……湯浴みを、してきます」
アリシアがそう言うと、レイヴンが笑って何度も頬に口づける。
その唇がいつの間にか耳たぶを食み、首筋を辿っていく。
「僕が洗ってあげる」
耳元で囁かれて、アリシアはコクコクと頷いた。
レイヴンが楽しそうな笑い声を上げる。
休暇はまだ半分残っているのだ。
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