【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 4章

83 最後の思い出

「どうしたの?」

 耳元でレイヴンの声がして、アリシアは目を瞬いた。
 もう自室に戻ってきているのだ。ここは大応接間ではない。
 どうやら宴のことを思い出している内に、思考の海に沈んでいたようだ。

 レイヴンがアリシアを案じているのが、抱き締める腕から伝わってくる。
 元々宴に出るアリシアを心配していたのだから、「なんでもない」では納得しないだろう。
 だから別の話をすることにする。

「カナリー殿下のことを思い出していたのですわ。皆様に囲まれて、幸せそうでした」

「ああ」

 途端にレイヴンも破顔する。
 レイヴンも弟妹たちに囲まれたカナリーを思い出しているのだ。

 カナリーは学園を卒業したら降嫁する。
 宴に出るのはこれが最後だ。

 初めはアリシアたちと同じテーブルにいたカナリーだったが、途中で他のテーブルにいる弟妹に呼ばれて移っていった。
 そのあとは引っ張りだこである。
 最後は沢山の弟妹たちに囲まれて、贈り物を渡されていたようだ。カナリーの目には涙が浮かんでいた。

「私も、嫁ぐ年の休暇は領地で一族の者たちに囲まれました。これで公爵家の領地へ戻ってくるのは最後なのだと。一族の中には領地を出ない者もいます。王宮には立ち入れない身分の者も。そんな者たちから、『これが最後だから』と、記念になるものをいただきました。とても嬉しかったのを覚えています」

「……そうだね。アリシアが公爵領に行くのはちょっと難しいね」

「はい。元からわかっていたことです。納得していて、不満もありません。ですがその時は、なぜかとても淋しくなりました」

「それは仕方のないことだよ。それだけアリシアが皆に愛されていたということだ」

 レイヴンはアリシアを抱き締める腕に力を込める。
 アリシアを実家の領地へ帰してやることはできない。二度と会えない者もいるだろう。
 アリシアが淋しくない様に、これからはレイヴンが愛していく。

「愛しているよ、アリシア。これからは、僕が一緒にいるからね」

 頬に口づけられて、アリシアはくすぐったそうに肩をすくめた。
 
 宴では、他にも印象に残ったことがある。
 それは国王がずっとマルグリットの隣にいたことだ。

 昼餐の時は当然ながら、大応接間でも国王はマルグリットの隣に座っていた。
 側妃たちは同じテーブルでも他のソファである。
 途中、子どもたちに呼ばれて席を移ったこともあった。
 それでもそこでの話が終わると、いつもマルグリットの隣へ戻っていく。

 国王のあの姿勢もマルグリットの立場を強くする要因だろう。



「――少し早いけど、寝室に行く?」

 問い掛けられて、アリシアは頬を染めた。
 これから3日までは、誰も訪ねて来ない。
 これまでの休暇と違って2人一緒に過ごしていると知ったマルグリットが、しばらく邪魔をしない様にと言ったからだ。
 アイビスは意味が分からず頬を膨らませていたが、年頃の弟妹たちは顔を赤らめていた。

 部屋を退出する前に、アイビスが「なぜお義姉様のところへ行っちゃいけないの?」とカナリーに訊いていた。
 答えあぐねたカナリーが、「お兄様とお義姉様がとっても仲良くなったからよ」と言っていたけれど、聞こえなかったことにする。


「……湯浴みを、してきます」

 アリシアがそう言うと、レイヴンが笑って何度も頬に口づける。
 その唇がいつの間にか耳たぶを食み、首筋を辿っていく。

「僕が洗ってあげる」

 耳元で囁かれて、アリシアはコクコクと頷いた。
 レイヴンが楽しそうな笑い声を上げる。

 休暇はまだ半分残っているのだ。




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