465 / 697
第2部 4章
89 議会の動き②
しおりを挟む
「アリシア、最近悩んでいることはないかしら?」
長い沈黙の後マルグリットにそう訊かれたアリシアは、目を瞬かせてマルグリットを見返した。最近、レイヴンにも「何か悩んでいることがあるなら話して欲しい」と何度も言われている。
だけど心当たりのないアリシアは戸惑うしかない。寧ろ何度「何もありません」と答えても、納得してくれないことが密かな悩みになっていた。
だけどまさかそんなことを話すわけにはいかないだろう。
アリシアは困ったように小首を傾げてマルグリットを見つめていた。
レイヴンにとって不幸だったのは、レイヴンとアリシアの考え方に大きな隔たりがあることだ。
もしレイヴンが、メトワの城で肖像画を見た時に感じたことや、牧場の森であったこと、新年を迎えた日にアリシアが感じたことなどを知っていれば、子ができないことや、レイヴンが側妃を迎えるかもしれないことを不安に感じているのだと受け取っただろう。
だけどアリシアはそうではない。
少なくともこの時点では、アリシアにその自覚がなかった。
アリシアは妃としての最も重要な務めは跡継ぎを生むことだと教えられている。
だけどアリシアがその務めを果たせないなら、他の女性に果たしてもらうしかない。
結婚後3年経っても子が生まれなければ、議会が推薦する女性か、レイヴンが気に入った女性を側妃として迎え入れることになるのは初めからわかっていたのだ。
だからレイヴンにどんな女性が良いのか、候補を選んでもらおうとした。
結局レイヴンは候補を選んでくれなかったけれど、それならば議会が選んだ女性を迎え入れるしかない。
レイヴンは「側妃は要らない」と言っている。
アリシアはそれを信じていないわけではない。
レイヴンは今、アリシアを愛してくれているし、「側妃は要らない」というのも本心だろう。
だけどレイヴンの気持ちはどうあれ、跡継ぎがいない以上、レイヴンの気持ちだけで避けれる問題ではないのだ。
だからアリシアは側妃を迎え入れた時のことを考え、準備をしようとしている。
どうすれば円満な関係を築けるのか考えているのだ。
これは現実的な準備であり、悩みではなかった。
少なくともこの時までは。
「……やっぱり何も聞いていないのね」
アリシアの顔を見ていたマルグリットは溜息を吐いた。
マルグリットもこんな役目を担いたいわけではない。
だけど何も知らずにいて、突然決定事項だと知らされるよりは、心の準備をしていた方が良いと思うのだ。
「レイヴンの側妃について、議会が話を進めているの。レイヴンは希望を出していないから、側妃は今年学園を卒業する令嬢の中から選ぶことになるわ。それでね……。一部の貴族が、側妃に選ばれた令嬢が学園を卒業したらすぐに婚姻を結ぶよう求めているのよ」
「え……?」
アリシアの唇から小さな呟きが漏れる。
マルグリットが目を細めて、アリシアを痛々しそうに見ていた。
その頃扉の向こう側では、慌てて部屋へ入ろうとするレイヴンを国王が止めていた。
夫が初めての側妃を迎える。
同じ経験をしたマルグリットに任せるべきだと思ったのかもしれない。
長い沈黙の後マルグリットにそう訊かれたアリシアは、目を瞬かせてマルグリットを見返した。最近、レイヴンにも「何か悩んでいることがあるなら話して欲しい」と何度も言われている。
だけど心当たりのないアリシアは戸惑うしかない。寧ろ何度「何もありません」と答えても、納得してくれないことが密かな悩みになっていた。
だけどまさかそんなことを話すわけにはいかないだろう。
アリシアは困ったように小首を傾げてマルグリットを見つめていた。
レイヴンにとって不幸だったのは、レイヴンとアリシアの考え方に大きな隔たりがあることだ。
もしレイヴンが、メトワの城で肖像画を見た時に感じたことや、牧場の森であったこと、新年を迎えた日にアリシアが感じたことなどを知っていれば、子ができないことや、レイヴンが側妃を迎えるかもしれないことを不安に感じているのだと受け取っただろう。
だけどアリシアはそうではない。
少なくともこの時点では、アリシアにその自覚がなかった。
アリシアは妃としての最も重要な務めは跡継ぎを生むことだと教えられている。
だけどアリシアがその務めを果たせないなら、他の女性に果たしてもらうしかない。
結婚後3年経っても子が生まれなければ、議会が推薦する女性か、レイヴンが気に入った女性を側妃として迎え入れることになるのは初めからわかっていたのだ。
だからレイヴンにどんな女性が良いのか、候補を選んでもらおうとした。
結局レイヴンは候補を選んでくれなかったけれど、それならば議会が選んだ女性を迎え入れるしかない。
レイヴンは「側妃は要らない」と言っている。
アリシアはそれを信じていないわけではない。
レイヴンは今、アリシアを愛してくれているし、「側妃は要らない」というのも本心だろう。
だけどレイヴンの気持ちはどうあれ、跡継ぎがいない以上、レイヴンの気持ちだけで避けれる問題ではないのだ。
だからアリシアは側妃を迎え入れた時のことを考え、準備をしようとしている。
どうすれば円満な関係を築けるのか考えているのだ。
これは現実的な準備であり、悩みではなかった。
少なくともこの時までは。
「……やっぱり何も聞いていないのね」
アリシアの顔を見ていたマルグリットは溜息を吐いた。
マルグリットもこんな役目を担いたいわけではない。
だけど何も知らずにいて、突然決定事項だと知らされるよりは、心の準備をしていた方が良いと思うのだ。
「レイヴンの側妃について、議会が話を進めているの。レイヴンは希望を出していないから、側妃は今年学園を卒業する令嬢の中から選ぶことになるわ。それでね……。一部の貴族が、側妃に選ばれた令嬢が学園を卒業したらすぐに婚姻を結ぶよう求めているのよ」
「え……?」
アリシアの唇から小さな呟きが漏れる。
マルグリットが目を細めて、アリシアを痛々しそうに見ていた。
その頃扉の向こう側では、慌てて部屋へ入ろうとするレイヴンを国王が止めていた。
夫が初めての側妃を迎える。
同じ経験をしたマルグリットに任せるべきだと思ったのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる