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第2部 4章
90 貴族の要求①
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「え…?」
そう呟いたまま、アリシアは動きを止めていた。
結婚してもうすぐ3年になるのに子どもがいない。
側妃の話が出るのは当然のことで、理解しているし納得している、つもりでいた。
それなのに。
何も考えることができないまま、気がつけば涙が零れ落ちていた。
「アリシア」
マルグリットが席を立ち、アリシアの隣へ座る。
そっと手を伸ばして両手でアリシアの手を包みこんだ。
「よく聞いてちょうだい。議会が側妃候補の選定を進めているのは事実よ。卒業後すぐの輿入れを求めていることも。だけどレイヴンは拒んでいるの。『側妃はいらない』と言って、必死に抵抗しているわ」
「……え?」
焦点が定まっていなかったアリシアの瞳が視界を取り戻す。
マルグリットが強い視線でアリシアを見つめていた。
2人の視線がしっかりと重なり合う。
「良いこと?レイヴンは側妃を持つことができるけれど、それは持つことができるだけで、持たなければならないわけではないの。側妃は迎えない、妃は正妃1人だけ、という国王は過去にもいたのよ」
そう言いながら、レイヴンがそれを貫くのは難しいだろうとマルグリットは思っていた。
側妃を迎えなかった国王には結婚してすぐに生まれた王子がいた。王子の存在がその主張を後押ししたのだ。
後継のいる国王に無理矢理側妃を迎えさせても混乱が生じるだけ、貴族たちにそう思わせることができた。
だけどレイヴンには子どもがいない。
結婚して3年。
議会が側妃を娶るよう求めるのはわかっていた。
だけど本当はもう少し猶予があるはずだったのだ。
本来の流れでは、議会が側妃候補を選定して王太子へ打診する。
王太子がその候補を受け入れればそのまま話が進められるが、気に入らなければ選定のしなおしになる。
マルグリットはレイヴンに、側妃を娶るつもりがないのなら、議会が候補者を選んでも「気に入らない」と拒否し続けるよう忠告するつもりでいた。側妃を娶ること自体を拒否するよりも、選り好みしていると思われた方が受け入れられやすい。
そうして時間を稼ぐうちにアリシアが懐妊すれば、と思っていたのだ。
それなのに急激に話が進んでしまった。
「少し前に陛下がルーファス殿を王宮へ呼んでいたのは知っているかしら?それからコリンズ伯爵家のマルセル殿も」
「ええ、それは……。聞いています」
突然出たマルセルの名前にアリシアはどきりとした。
それはおかしな意味ではなく、レイヴンが聞けば嫌な思いをするだろうと思うからだ。
だけどそんなことは知らないマルグリットは気づかずに話し続ける。
「陛下はジェーン嬢のことがあってから、自分が気づかずにいた才能が他にもあるのではないか、と思うようになられたの。それで改めてこれまでの実績や評判、学園での成績を見直されたのよ。その中で特に気になったのがルーファス殿とマルセル殿。お2人との話は新鮮だったようで、あなたたちがメトワへ発った後も度々王宮に呼んでおられたの」
それが他の貴族の目を惹いた。
派閥内の娘を側妃にしたい者たちの良い口実になったのだ。
「ルーファス殿はあなたの従兄でしょう。少し前にもあなたの従姉が有利になるよう法が変わったばかり。王家はルトビア公爵家の血縁ばかりを優遇している、と声が上がって……。バランスを取る為にも、王太子に他の派閥から側妃を迎えるよう要求されたのよ」
そう呟いたまま、アリシアは動きを止めていた。
結婚してもうすぐ3年になるのに子どもがいない。
側妃の話が出るのは当然のことで、理解しているし納得している、つもりでいた。
それなのに。
何も考えることができないまま、気がつけば涙が零れ落ちていた。
「アリシア」
マルグリットが席を立ち、アリシアの隣へ座る。
そっと手を伸ばして両手でアリシアの手を包みこんだ。
「よく聞いてちょうだい。議会が側妃候補の選定を進めているのは事実よ。卒業後すぐの輿入れを求めていることも。だけどレイヴンは拒んでいるの。『側妃はいらない』と言って、必死に抵抗しているわ」
「……え?」
焦点が定まっていなかったアリシアの瞳が視界を取り戻す。
マルグリットが強い視線でアリシアを見つめていた。
2人の視線がしっかりと重なり合う。
「良いこと?レイヴンは側妃を持つことができるけれど、それは持つことができるだけで、持たなければならないわけではないの。側妃は迎えない、妃は正妃1人だけ、という国王は過去にもいたのよ」
そう言いながら、レイヴンがそれを貫くのは難しいだろうとマルグリットは思っていた。
側妃を迎えなかった国王には結婚してすぐに生まれた王子がいた。王子の存在がその主張を後押ししたのだ。
後継のいる国王に無理矢理側妃を迎えさせても混乱が生じるだけ、貴族たちにそう思わせることができた。
だけどレイヴンには子どもがいない。
結婚して3年。
議会が側妃を娶るよう求めるのはわかっていた。
だけど本当はもう少し猶予があるはずだったのだ。
本来の流れでは、議会が側妃候補を選定して王太子へ打診する。
王太子がその候補を受け入れればそのまま話が進められるが、気に入らなければ選定のしなおしになる。
マルグリットはレイヴンに、側妃を娶るつもりがないのなら、議会が候補者を選んでも「気に入らない」と拒否し続けるよう忠告するつもりでいた。側妃を娶ること自体を拒否するよりも、選り好みしていると思われた方が受け入れられやすい。
そうして時間を稼ぐうちにアリシアが懐妊すれば、と思っていたのだ。
それなのに急激に話が進んでしまった。
「少し前に陛下がルーファス殿を王宮へ呼んでいたのは知っているかしら?それからコリンズ伯爵家のマルセル殿も」
「ええ、それは……。聞いています」
突然出たマルセルの名前にアリシアはどきりとした。
それはおかしな意味ではなく、レイヴンが聞けば嫌な思いをするだろうと思うからだ。
だけどそんなことは知らないマルグリットは気づかずに話し続ける。
「陛下はジェーン嬢のことがあってから、自分が気づかずにいた才能が他にもあるのではないか、と思うようになられたの。それで改めてこれまでの実績や評判、学園での成績を見直されたのよ。その中で特に気になったのがルーファス殿とマルセル殿。お2人との話は新鮮だったようで、あなたたちがメトワへ発った後も度々王宮に呼んでおられたの」
それが他の貴族の目を惹いた。
派閥内の娘を側妃にしたい者たちの良い口実になったのだ。
「ルーファス殿はあなたの従兄でしょう。少し前にもあなたの従姉が有利になるよう法が変わったばかり。王家はルトビア公爵家の血縁ばかりを優遇している、と声が上がって……。バランスを取る為にも、王太子に他の派閥から側妃を迎えるよう要求されたのよ」
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