【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 5章

27 焦燥

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「アリシアの様子はどうですか?」

「普段通り変わりなく過ごしている、…ように見えるよ」

「……そうですか」

 レイヴンとレオナルドは揃って息を吐いた。
 舞踏会での出来事は2人とも知っている。
 アリシアは平気な振りをしているが、どれ程上手く繕っていても、2人は笑顔に隠された本音を読み取ることができる。アリシアが深く傷ついていることはわかっていた。

「これからしばらくはドレスの色を考えましょう。青は避けるべきです」

 舞踏会でアリシアは青色のドレスを着ていた。身につける宝石もサファイアである。
 これまではレイヴンの寵愛と2人の仲睦まじさを表すのに役立っていたドレスや装飾品も、今では逆の効果を齎していた。

 貴族たちが問題視しているのは、レイヴンが側妃を娶るのを拒んでいることだ。貴族たちの中には、寵愛を笠に着たアリシアが側妃を迎えるのに反対しているのでは、と考える者もいる。
 そんな彼らの前でレイヴンの寵愛を示すドレスを着ていれば反感を持たれるのも当然だった。
 
「………」

 しばらくとはいつまでなのか。
 問いただしたい衝動に襲われる。
 だけどレオナルドがその答えを持っていないのは明白だった。

 敷いて言えば、アリシアが身籠るかレイヴンが側妃を娶るまで、である。
 
「誰がどんな発言をしていたのか概ね把握していますが、現状ではどうすることもできませんね」

 レオナルドのその言葉に、レイヴンは不本意ながら頷くしかなかった。
「王太子妃に対して不敬である」と言うことはできる。
 だけど彼らの言い分が正しいのもまた事実だ。

 婚姻を結んで3年経っても子が生まれなければ議会が側妃候補を選ぶことは初めからわかっていた。
 妃としての最重要課題が世継ぎを生むことであることも、王太子が側妃を拒む時は妃から薦めるよう教えられていることも知っている。
 世継ぎが誕生していないのに側妃を拒んでいる現状は、レイヴンやアリシアが己の務めを放棄しているとも言えるのだ。

 それを示すように初めは反ルトビア公爵派だけだった非難の声も、今では未婚の娘を持つ貴族やルトビア公爵派の貴族たちまで広がっている。
 嘗て議会でジェーンを中傷した者たちのように罪を暴き出して処罰をしようとすれば、膨大な数の貴族を裁かなければならない。

「それでも僕は、側妃を娶るつもりはない。アリシアが懐妊してくれれば……」

 夜だけではなく朝目覚めてからもアリシアを抱くようになった。
 初めて求められた時は驚いたけれど、その理由は理解できる。
 最近ではアリシアが月のモノの時以外は夜も朝も交わっていた。

 とはいえアリシアの公務が減ったわけではない。
 午前中は休むように言ってもエレノアが起こしにこれば起き出して働いている。
 本当は疲れているだろうと思う。倒れてしまわないか心配だ。
 だけどアリシアの気持ちを思えば拒むことはできなかった。

「ディアナ嬢と会うのは良い気晴らしになったと思う。アリシアは本当に楽しそうだった」

「そうですね。僕もそう思います」

 レオナルドがふっと笑う。
 重苦しい空気が少しだけ緩んだ。
 
 


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