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第2部 5章
46 クリスタル①
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馬車は今回も中央通りの手前で止まった。
人通りが多くて人気店が集まっている治安の良い通りだ。「この通りから出るな」というレオナルドからのお達しである。レイヴンもアリシアを危険な目に合わせたくないので不満はない。
レイヴンは馬車の中からにこにこである。アリシアと指を絡めて手を繋ぎ、離さない。
本当はレイヴンの胸元のボタンを留めたアリシアが可愛くて、寝室へ直行したくなった。
だけど今日のコンセプトは婚約者同士の2回目のデートである。
欲望を堪えるのも婚約者ならではだろうとぐっと飲み込んだのだ。
久しぶりの街は活気に溢れていた。馬車で通り過ぎるだけではこの熱気を感じることはできない。
呼び込みをする店主に店を覗いて揶揄う人たち、走りまわる子どもたち。
街を行き交う人々の声を聞いているだけで楽しい気分になる。
レイヴンとアリシアは手を繋いだままゆっくりと歩き出した。
街にいる間はまた「レイ」と「シア」と呼び合うことになっている。慣れない言葉遣いにアリシアの口数は少ないけれど、恥ずかしそうな表情がまた可愛い。
今回もレイヴンは色んな店を覗いては、気さくに店主と言葉を交わす。
去年も覗いた店もあれば、初めて見る店もあった。
「レイ、このお店…‥!」
あるお店の前でアリシアが足を止めた。レイヴンも見覚えのある雑貨屋だ。
去年はここでガラス細工の猫を2匹飼った。その猫は2人の寝室に飾られている。
「アリシアはあの猫がお気に入りだよね」
レイヴンがそう言うと、アリシアは嬉しそうに頷いた。
店の中に入ると、すぐにガラス細工の置き物が目に入った。
1年経っているので同じ猫はないようだ。その代わり、寝転がったり伸びをしていたりと違う格好をした猫が並んでいる。青色の首輪をした猫と緑色の首輪をした猫がじゃれているようなものもあった。
去年買った猫は澄ました顔をして並んで座っている。
思えば去年までのレイヴンとアリシアのようだ。
それなら今の2人はこのじゃれ合う猫のようだろうか。
アリシアはこの2匹の猫を買うことにした。
「一緒に飾ったら可愛いだろうね」
レイヴンの言葉に、アリシアは微笑んで頷いた。
少し歩くと、クリスタルを売っている店があった。
去年はなかった店で、おばあさんが1人で店番をしている。
「クリスタルには不思議な力があるんだ。持っていればきっと願いを叶えてくれるよ」
「まあ、素敵ですね」
魔除けやまじないのようなものだろうか。
ピンクのクリスタルには「恋愛成就」と書かれていて、黄色には「健康祈願」と書かれている。青色は「旅の安全」だ。平民向けの店なので、他領へ仕入れや行商に行く家族や恋人に贈るのだろう。
店先を離れると夏の太陽が照り付ける。
少し歩いたところでアリシアは足を止めた。
「ごめんなさい、少し疲れたみたい。休んでも良いかしら?」
「シア!具合が悪いの?!」
レイヴンがさっと顔色を変える。
我慢強いアリシアが疲れたと言うなんて、相当具合が悪い時だ。
慌てて人を呼ぼうとするレイヴンをアリシアが止めた。
「大丈夫、歩き疲れただけよ。少し休めば元気になるわ」
行き交う人の中には紛れ込んだ騎士もいる。
人を呼べばすぐに来てくれるだろうが、そうしたら騒ぎになって正体がバレるかもしれない。
折角のデートなのにそんな終わり方はしたくなかった。
「……それじゃあ、少しベンチで休もうか。それでも治らなければ帰ろう」
すぐ見えるところにペンチがあった。木陰になっていて陽を遮ることもできそうだ。
心配そうなレイヴンに手を引かれて、アリシアはベンチに腰掛けた。
「眠っても良いよ」
レイヴンがアリシアの背中へ腕をまわすと、アリシアは素直にレイヴンの肩へ頭を預ける。
そうしていると涼しい風が通り抜けていく。
2人はしばらく風を感じることにした。
人通りが多くて人気店が集まっている治安の良い通りだ。「この通りから出るな」というレオナルドからのお達しである。レイヴンもアリシアを危険な目に合わせたくないので不満はない。
レイヴンは馬車の中からにこにこである。アリシアと指を絡めて手を繋ぎ、離さない。
本当はレイヴンの胸元のボタンを留めたアリシアが可愛くて、寝室へ直行したくなった。
だけど今日のコンセプトは婚約者同士の2回目のデートである。
欲望を堪えるのも婚約者ならではだろうとぐっと飲み込んだのだ。
久しぶりの街は活気に溢れていた。馬車で通り過ぎるだけではこの熱気を感じることはできない。
呼び込みをする店主に店を覗いて揶揄う人たち、走りまわる子どもたち。
街を行き交う人々の声を聞いているだけで楽しい気分になる。
レイヴンとアリシアは手を繋いだままゆっくりと歩き出した。
街にいる間はまた「レイ」と「シア」と呼び合うことになっている。慣れない言葉遣いにアリシアの口数は少ないけれど、恥ずかしそうな表情がまた可愛い。
今回もレイヴンは色んな店を覗いては、気さくに店主と言葉を交わす。
去年も覗いた店もあれば、初めて見る店もあった。
「レイ、このお店…‥!」
あるお店の前でアリシアが足を止めた。レイヴンも見覚えのある雑貨屋だ。
去年はここでガラス細工の猫を2匹飼った。その猫は2人の寝室に飾られている。
「アリシアはあの猫がお気に入りだよね」
レイヴンがそう言うと、アリシアは嬉しそうに頷いた。
店の中に入ると、すぐにガラス細工の置き物が目に入った。
1年経っているので同じ猫はないようだ。その代わり、寝転がったり伸びをしていたりと違う格好をした猫が並んでいる。青色の首輪をした猫と緑色の首輪をした猫がじゃれているようなものもあった。
去年買った猫は澄ました顔をして並んで座っている。
思えば去年までのレイヴンとアリシアのようだ。
それなら今の2人はこのじゃれ合う猫のようだろうか。
アリシアはこの2匹の猫を買うことにした。
「一緒に飾ったら可愛いだろうね」
レイヴンの言葉に、アリシアは微笑んで頷いた。
少し歩くと、クリスタルを売っている店があった。
去年はなかった店で、おばあさんが1人で店番をしている。
「クリスタルには不思議な力があるんだ。持っていればきっと願いを叶えてくれるよ」
「まあ、素敵ですね」
魔除けやまじないのようなものだろうか。
ピンクのクリスタルには「恋愛成就」と書かれていて、黄色には「健康祈願」と書かれている。青色は「旅の安全」だ。平民向けの店なので、他領へ仕入れや行商に行く家族や恋人に贈るのだろう。
店先を離れると夏の太陽が照り付ける。
少し歩いたところでアリシアは足を止めた。
「ごめんなさい、少し疲れたみたい。休んでも良いかしら?」
「シア!具合が悪いの?!」
レイヴンがさっと顔色を変える。
我慢強いアリシアが疲れたと言うなんて、相当具合が悪い時だ。
慌てて人を呼ぼうとするレイヴンをアリシアが止めた。
「大丈夫、歩き疲れただけよ。少し休めば元気になるわ」
行き交う人の中には紛れ込んだ騎士もいる。
人を呼べばすぐに来てくれるだろうが、そうしたら騒ぎになって正体がバレるかもしれない。
折角のデートなのにそんな終わり方はしたくなかった。
「……それじゃあ、少しベンチで休もうか。それでも治らなければ帰ろう」
すぐ見えるところにペンチがあった。木陰になっていて陽を遮ることもできそうだ。
心配そうなレイヴンに手を引かれて、アリシアはベンチに腰掛けた。
「眠っても良いよ」
レイヴンがアリシアの背中へ腕をまわすと、アリシアは素直にレイヴンの肩へ頭を預ける。
そうしていると涼しい風が通り抜けていく。
2人はしばらく風を感じることにした。
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