【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
534 / 697
第2部 5章

48 指輪①

しおりを挟む
 木陰で休んだ後はまた手を繋いで歩き出した。
 レイヴンはアリシアを気遣いながら、慎重にゆっくりと進む。
 アリシアは「疲れた」と言っただけで、「体調が悪い」とは一言も言っていない。だけど普段の行いから、具合が悪いのだと信じ込まれてしまっている。
「充分休んだからもう大丈夫よ」と言ってみたが、レイヴンの心配そうな様子は変わらなかった。

 店を覗きながら歩いていくと見覚えのあるカフェがあった。去年入ったカフェである。
 人気は今も続いているらしく若い女性が何人も並んでいる。

「今日は違う店にしようね」

 アリシアの体調を気にするレイヴンに、暑い日差しの中で並ぶと言う選択肢はない。ちらっと視線を向けただけで通り過ぎてしまう。
 アリシアもあそこで並ぶと女性たちの目がレイヴンに集まると知っているので並びたいとは思わなかった。

 レイヴンはアリシアの願い通り体形がわかり辛い恰好をしてくれている。それなのにすれ違った女性が何人も振り返ってはレイヴンを見つめているのにアリシアは気がついていた。
 レイヴンが人目を惹く端正な顔立ちをしているのはアリシアにもわかっている。

 今も側妃の座を諦めない令嬢の中には、レイヴンに想いを寄せている令嬢もいるだろう。
 実際に側妃を娶ってしまえば、レイヴンが言ったような、白い結婚を続けるのは難しい。世継ぎの誕生を待ち望む貴族たちを前にそんな態度を貫けば、貴族たちの心は離れ、そっぽを向いてしまうだろう。
 レイヴンがそんな危険を冒すはずがない。
 そして一度閨を共にすれば情が生まれる。
 身分や地位が目当てではないだけに、令嬢たちは愛してもらえるかもしれない望みを捨てることができないのだ。

 アリシアは浮かんできたその考えにそっと蓋をした。
 レイヴンの人気が高いのは、以前からわかっていたことだ。


 
 思い出のカフェには入れなくても、中央通りには他にもカフェがいくつもある。
 あのカフェのように平日の昼間でも客が並ぶような人気店は少数なので、拘らなければすぐに入ることができた。

「シア、何か食べられそうかな?」

「ええ、勿論よ」

 アリシアとしてはどこも悪くないのだから何でも食べられる。
 寧ろお腹が空いてきていた。

「わたし、皆が普段食べるようなものを食べてみたいのだけど……」

「食事ってこと?」

 頷くアリシアにレイヴンは考える。
 アリシアの体調次第ではあるけれど、王太子宮に戻った後は去年のように寝室へ籠るつもりだ。ちゃんとした夕食ではなく、軽食を用意しておくよう言いつけてきている。
 それならここで軽く食事をしておいた方が良いのかもしれない。

 そうなると問題はどこで食べるかである。
 大衆食堂や酒場はトラブルに巻き込まれやすいと聞いているのでアリシアを連れて行くわけにはいかない。
 だけど平民が普段食事をするようなところをレイヴンは知らなかった。

「すみません。食事をしたいのですが、どこか良いお店を知りませんか?」

 通りすがりの人に声を掛けたレイヴンにアリシアは驚いた。
 だが声を掛けられた男性が小さく目礼するのをみると、通行人に紛れている騎士のようだ。店の場所と名前を教えられた後、礼を言ったレイヴンに軽く頭を下げて行ってしまった。

「彼のこと、よくわかったわね」

「やっぱり他の人とは姿勢が違うからね」

 騎士とわからないように変装していても、すっと伸びた姿勢やちょっとした動作から騎士であることがわかるらしい。さすがにレイヴンも鍛えているだけのことはある。
 彼が教えてくれたのは、こじんまりとした家庭的なレストランだった。
 



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...