【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

86 レイヴンの願いは②

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「それは……、どういう……」

 アリシアは困惑した。
 国王や王太子の結婚式はすべてが決められている。
 ウェディングドレスもヴェールもブーケで使われる花も、代々伝統のものが受け継がれているのだ。
 だけどレイヴンは淋しそうに首を振った。

「確かに決まっているものはあるけど、全く自由にならないわけじゃないよ。母上は可能な限り現代的な流行を取り入れようと女官たちと闘ったって言っていたし、アリシアの時は自分も一緒に闘おうと楽しみにしていらした」

「まあ……」

 結婚式で着るドレスに夢を持っている女性は多い。マルグリットも生涯で一度だけ着ることができるドレスを楽しみにしていた。
 伝統と格式を重んじる王家の結婚式だとわかっている。それでも少しでも自分の好みを取り入れようと、反対する女官たちと闘った。女官たちは礼節に則った式を準備し、恙なく終わらせることが仕事なのだ。
 
「アリシアも自分の好みを言って良かったんだ。母上も……、このままで良いのか、何度も訊いていたと思う」

「………………」

 アリシアは式の準備をしていた時のことを思い出した。
 確かにマルグリットから「本当にこのままで良いの?」と何度も尋ねられた。アリシアは何故そんなことを訊かれるのかわからずに戸惑いながら「はい。問題ありません」と答えていた。
 その答えを聞いたマルグリットは、レイヴンと同じような淋しそうな表情をしていた。

「アリシアにとっては楽しみにするような式ではなかったと思う。僕との結婚も……、そうと決められているから、それに従っただけだよね。だけど僕は少しでもアリシアに結婚式を楽しんで欲しかった。想う相手じゃなくても、ウェディングドレスを着られて嬉しいって思って欲しかった……」

 王妃や王太子妃は離縁を認められていない。国王や王太子によって廃妃にされることはあるが、その時も離宮か修道院へやられるので再嫁することはできないのだ。
 つまりあの結婚式が、アリシアの挙げられる生涯唯一の結婚式だった。

「そんなことを思ってらっしゃったのですか……」

 アリシアは絶句した。
 だってアリシアは本当に不満などなかったのだ。
 確かに流行最先端のドレスではないけれど、それだけに伝統の重みがある。自身が国史の一部になるのだと、身を持って感じられた。

「……誤解をさせてしまい、申し訳ありません。ですが私が何も言わなかったのは、結婚式やドレスをどうでもいいと思っていたからではないのです。あのウェディングドレスを本当に気に入っていました。……レイヴン様も国史の講義で習われたでしょう?私、あのドレスを見た時本当に感動致しました。歴史書に載っていた通りのウェディングドレスだったのですから」

 アリシアは妃教育で国史の講義を受けた時、歴史書に載っている初代国王と王妃の結婚式の肖像画を見た。
 その時に見たドレスがアリシアの目の前に用意されているのだ。感動で身震いした程である。

「……本当に?」

 レイヴンが信じられないといった顔で問いかける。
 だけど本当に本当なのだ。
 アリシアは最新のものも好きだが伝統的なものも好きだ。
 伝統的な品にはその品を大切にしてきた人たちの思いが詰まっている。その品をアリシアも大切に使わせていただく。そしてのちの人にその思いを引き継いでいく。

「レイヴン様に哀しい思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。あの時ちゃんとお話すれば良かったですね」

 レイヴンは少しも責めなかったけれど、あの頃アリシアがマルセルを想っていることを知っていたのだ。
 そのアリシアが少しも意見を言わずに、言われるまま式の準備をしている。
 レイヴンには気乗りしていないように見えたのだろう。

「そんな……っ!アリシアは悪くないよ!僕がもっとちゃんと訊けば良かったんだ!!」

 しゅんとして視線を下げるアリシアにレイヴンは慌てて否定した。
 結局は会話不足。あの頃の2人はずっとそうだった。

「……結婚式、致しましょうか」

 あの時の誤解は解けた。
 アリシアの好みに合った、アリシアが嬉しいと思える結婚式がしたいというレイヴンの希望は元から叶っていたことになる。
 だけどレイヴンが哀しい思いをしていた結婚式をやり直したい。

「アリシア……」

 レイヴンが目を潤ませる。
 結婚式をやり直すといってもどうすれば良いのかアリシアにはわからない。
 だけどやり直したいと強く思った。



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