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第2部 6章
90 挙式準備②
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ドレスの図案が出来上がってもそれで終わりではない。それを実現する為に、式部職の女官長と交渉をするのだ。
本物のドレスではないので好きなようにして良いような気がするが、それでは義娘と一緒に闘うというマルグリットの夢を果たすことができない。
マルグリットから本当の式のように監督して欲しいと依頼を受けた女官長も乗り気になって本気でダメ出しをしてきていた。
女官長の方にも理由があるのだ。
マルグリットが嫁いだ時から同じ職を務めている女官長は既に高齢で、引退を視野に入れている。クロウが正妃を娶る頃には間違いなく引退しているだろう。
次を任せる女官は決めているものの、その女官には唯一足りない経験があった。
それが結婚式の準備で正妃となる令嬢の要望を取り入れつつ、伝統の形を保つというものだ。
女官長にも最高のドレスで結婚式を迎えたいという令嬢の気持ちはわかる。だけど王室には守らなければならない伝統がある。
そのふたつの間で格式と伝統を守りながらできる限り令嬢の希望を取り入れる。それが女官長に課せられた使命だった。
その使命を果たす溜めには、まずどこまでが変えても許される境界なのか知らなくてはならない。
過去の記録をすべて読み、把握して令嬢からの要望と照らし合わせる。そして規定に合わないものは断固として却下する。
女官長がその姿を後継の女官に見せられる機会は、アリシアが嫁いでくるその時だけだったのだ。
だけどアリシアは何も望まず、女官長が提示したものをすべて受け入れてしまった。
女官長は最後の教育の機会を失ってしまっていたのだ。
そこに今回の騒ぎである。
女官長にとって、これは願ってもないチャンスだ。
この機会を無駄にはできない。
後継となる女官を後ろに従えた女官長は気合に満ち溢れていた。
「……女官長の言葉に従ってはいかがでしょうか」
何度目かのダメ出しにあった後、アリシアはしょんぼりと俯いた。
元々用意されたドレスに不満はないのだ。それなのに手を加えようとして却下される。交渉が苦手なわけではないが、心の底で「必要ない」と思う議論を繰り返すのは酷く疲れた。
「アリシアがこのドレスを好きならそれで良いよ。僕はアリシアが好きだと思えるドレスを着て欲しいんだ。無理に変える必要なんてない」
レイヴンは隣に座るアリシアを抱き寄せた。
アリシアが疲れたところを人に見せるのは珍しい。繕えないほど疲れているのだとわかる。
レイヴンが望んだのは、アリシアが好きだと思えるドレスを着ることだ。元の形が好きならそのままで良い。
だけどマルグリットは違うようだ。
「あら、ここで諦めてしまうの? もう少しパニエの形を変えれば通りそうなのよ?」
マルグリットの隣ではデザイナーがいくつ目かになる図案を書いている。
スカートの形を変えるだけではバランスが崩れてしまうので、それに合わせて袖の形も変えていく。酷く骨の折れる作業だと思うが、デザイナーは嫌な顔を見せることなく一心に鉛筆を走らせている。
「……クロウが迎える正妃は諦めないかもしれないわ」
マルグリットの言葉にアリシアはハッとした。
余程のことがない限り次の王太子はクロウである。つまりクロウが迎える令嬢が、次の王太子妃になる。
クロウの正妃となる令嬢が、アリシアのように伝統のドレスを好きになるかわからない。マルグリットのようにぎりぎりまで手を加えようとするかもしれない。
その時令嬢の味方になって闘うのはアリシアなのだ。
そのアリシアがすぐに諦めてしまったら。
これはアリシアの為だけではなく、未来の義娘の為の予行練習でもあるのだ――。
「……ありがとうございます、お義母様。私、頑張りますわ」
顔を上げたアリシアは、それまでと違って闘志を漲らせていた。
そんなアリシアを見てマルグリットは満足そうに頷いた。
本物のドレスではないので好きなようにして良いような気がするが、それでは義娘と一緒に闘うというマルグリットの夢を果たすことができない。
マルグリットから本当の式のように監督して欲しいと依頼を受けた女官長も乗り気になって本気でダメ出しをしてきていた。
女官長の方にも理由があるのだ。
マルグリットが嫁いだ時から同じ職を務めている女官長は既に高齢で、引退を視野に入れている。クロウが正妃を娶る頃には間違いなく引退しているだろう。
次を任せる女官は決めているものの、その女官には唯一足りない経験があった。
それが結婚式の準備で正妃となる令嬢の要望を取り入れつつ、伝統の形を保つというものだ。
女官長にも最高のドレスで結婚式を迎えたいという令嬢の気持ちはわかる。だけど王室には守らなければならない伝統がある。
そのふたつの間で格式と伝統を守りながらできる限り令嬢の希望を取り入れる。それが女官長に課せられた使命だった。
その使命を果たす溜めには、まずどこまでが変えても許される境界なのか知らなくてはならない。
過去の記録をすべて読み、把握して令嬢からの要望と照らし合わせる。そして規定に合わないものは断固として却下する。
女官長がその姿を後継の女官に見せられる機会は、アリシアが嫁いでくるその時だけだったのだ。
だけどアリシアは何も望まず、女官長が提示したものをすべて受け入れてしまった。
女官長は最後の教育の機会を失ってしまっていたのだ。
そこに今回の騒ぎである。
女官長にとって、これは願ってもないチャンスだ。
この機会を無駄にはできない。
後継となる女官を後ろに従えた女官長は気合に満ち溢れていた。
「……女官長の言葉に従ってはいかがでしょうか」
何度目かのダメ出しにあった後、アリシアはしょんぼりと俯いた。
元々用意されたドレスに不満はないのだ。それなのに手を加えようとして却下される。交渉が苦手なわけではないが、心の底で「必要ない」と思う議論を繰り返すのは酷く疲れた。
「アリシアがこのドレスを好きならそれで良いよ。僕はアリシアが好きだと思えるドレスを着て欲しいんだ。無理に変える必要なんてない」
レイヴンは隣に座るアリシアを抱き寄せた。
アリシアが疲れたところを人に見せるのは珍しい。繕えないほど疲れているのだとわかる。
レイヴンが望んだのは、アリシアが好きだと思えるドレスを着ることだ。元の形が好きならそのままで良い。
だけどマルグリットは違うようだ。
「あら、ここで諦めてしまうの? もう少しパニエの形を変えれば通りそうなのよ?」
マルグリットの隣ではデザイナーがいくつ目かになる図案を書いている。
スカートの形を変えるだけではバランスが崩れてしまうので、それに合わせて袖の形も変えていく。酷く骨の折れる作業だと思うが、デザイナーは嫌な顔を見せることなく一心に鉛筆を走らせている。
「……クロウが迎える正妃は諦めないかもしれないわ」
マルグリットの言葉にアリシアはハッとした。
余程のことがない限り次の王太子はクロウである。つまりクロウが迎える令嬢が、次の王太子妃になる。
クロウの正妃となる令嬢が、アリシアのように伝統のドレスを好きになるかわからない。マルグリットのようにぎりぎりまで手を加えようとするかもしれない。
その時令嬢の味方になって闘うのはアリシアなのだ。
そのアリシアがすぐに諦めてしまったら。
これはアリシアの為だけではなく、未来の義娘の為の予行練習でもあるのだ――。
「……ありがとうございます、お義母様。私、頑張りますわ」
顔を上げたアリシアは、それまでと違って闘志を漲らせていた。
そんなアリシアを見てマルグリットは満足そうに頷いた。
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