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第2部 6章
98 それぞれの後悔②
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レオナルドが直接ジェーンと話をするのを避けていたのは、アリシアの企みをジェーンが不快に感じているのではないかと思っていたからだ。はっきりと怒りを表していなくても不愉快な思いはしただろう。レオナルドもその気持ちはわかるつもりだ。
だけどレオナルドがそこへ口出ししてしまったら。
仲良しの4人組。
そう思っていたとしても、どうしてもレオナルドはジェーンよりアリシアに甘くなる。アリシアを溺愛するレオナルドをジェーンもわかっているだろう。
そのレオナルドが口出しするということは、アリシアを許せと圧力を掛けることになる。ジェーンならそう受け取るだろうとレオナルドはわかっているのだ。
だからこそ静観しようとしていた。
2人が直接会って話し合えば良いと思って。
だけどジェーンがその機会を失くそうとするのなら、このままそっとしておくわけにはいかない。
蟠りは時間が経てば経つほど拗れていくものなのだから。
そうしてレオナルドとディアナはキャンベル侯爵家の領地までやってきた。
ディアナを伴ったのは、未婚の令嬢の元を訪れる体裁を整える為だ。2人の仲はもう昔のようにただ無邪気なだけの幼馴染の従兄妹というわけにはいかない。
予め訪いを告げる文を出していたのでジェーンも慌てることなく出迎えてくれる。
レオナルドは道中の町で買ってきた菓子や飾りを土産として手渡した。
キャンベル侯爵家の領地で買ってきたものを領主に土産として差し出すのは如何なものかと思うが、そうして領内のものを買うことで少しでも経済を動かすことができる。ジェーンもそれをよく理解している。
ジェーンは喜んで受け取ると、その菓子を侍女へ預けた。何かを言いつけていたと思えば、2人のお茶菓子としてその菓子が並べられる。
客室に籠っているディアナの元へもこの菓子が出されているだろう。ディアナは2人で内密の話があるとわかっているので、邪魔をしないようにと長旅で疲れたふりをしている。
レオナルドとジェーンは向かい合い、何気ない会話を交わす。
2人とも中々肝心の話題を切り出すことができない。
そうして互いの顔色を伺いながら、2杯目の紅茶がなくなったところでレオナルドが重い口を開いた。
「……結婚式を欠席するそうだね」
「っ!!」
ジェーンが弾かれたように顔を上げる。
驚いた顔をしているけれど、すぐにノティスが話したとわかったようだ。2人の仲を知っていれば、ノティスが不審を抱いても仕方がない。
「アリシアも酷く驚いて、ショックを受けているようだ。理由を訊いても良い?」
「……進めていた施策が、ようやく軌道に乗りそうなのです。ここで領地を離れるわけには……」
言いかけてジェーンは口を噤んだ。
レオナルドが施策を把握しているとわかっているのだ。だから言い訳として成り立たないことも理解している。
「……アリシアのことを許せない気持ちはわかるよ。アリシアはそれだけ酷いことをしようとしていた。僕からアリシアを許してくれと言うつもりもない。ただ……、アリシアに会ってやってくれないだろうか」
この件に関してレオナルドからジェーンに許しを請うつもりはない。
ただ怒っているのなら、不快に感じているのなら、その思いを直接アリシアへぶつけて欲しい。そうすれば少なくとも話し合いの緒になる。
そう優しく話しかけるレオナルドにジェーンは驚いた顔をした。
そして困惑した様子で口を開く。
「怒っているのは、アリシア様ではありませんか……?だから文も下さらないのでしょう……?」
「……なんだって?」
レオナルドは目を見開いた。
そんなレオナルドにジェーンは僅かに首を傾げる。
「アリシア様へ文を書いても、以前のような親しみのある文を返して下さいません。アリシア様からのお文はなく……。それにレオ兄様も……」
レオナルドは息を飲んだ。
確かにレオナルドも最近ジェーンに返す文は当たり障りのないものばかりだった。
だけどそれは、アリシアの近況やクロウの様子を書くことでアリシアを許せという圧力になると思ったからだ。
それをジェーンはレオナルドが怒っているからと受け取っていたのだろうか。
「アリシア様やレオ兄様がご不快に思われるのもわかります。あんなに良くしてくださったのに、私はアリシア様が大変な時に何の力にもなれませんでした。もっとアリシア様のお心に沿うように、できることがあったのではと……」
「それは違うよ、ジェーン!ジェーンは何も間違えてない。間違えたのはアリシアの方だ」
後悔を口にするジェーンをレオナルドははっきり否定した。
ジェーンはキトラを去った後のアリシアの様子を正確に知っているのだ。
世間的にはアリシアが体調を崩し、療養に出たとしか知らされていない。だけどジェーンは、寝付いたアリシアが呼びかけに反応しなくなったことまで聞いているのだろう。
そして後悔をした。
ジェーンがアリシアの望み通りにレイヴンの子を生んでいれば、こんなことにはならなかったのに。
その思いが罪悪感になった。
思えばアリシアが寝付いた時にジェーンからそんな趣旨の文を受け取っていたのに、自分の気持ちで手一杯だったレオナルドは返事を後回しにして、結局書くのを忘れていた。
「結婚式に参列しないのは、ご不快な思いをさせない為です。アリシア様の幸せな日に、私が邪魔をすることはできません」
ジェーンは、アリシアがジェーンを避けていることに気がついている。
望みを叶えようとしなかったジェーンに怒っていると思っているのだ。そしてアリシアを溺愛するレオナルドも、アリシアを追い詰めたジェーンに怒っていると思っている。
「すまない、ジェーン。だけど誤解なんだ。返事を書かなかったのは怒っているからじゃない。言い訳になってしまうけど、あの時はそれだけの気持ちの余裕がなかった。その後のことも……。不快な思いをさせたアリシアを許すよう強要したくないと思ってしまった」
「許しを、強要する……?」
ジェーンがきょとんとして目を瞬かせる。
その表情は怒っているようにはとても見えなかった。
だけどレオナルドがそこへ口出ししてしまったら。
仲良しの4人組。
そう思っていたとしても、どうしてもレオナルドはジェーンよりアリシアに甘くなる。アリシアを溺愛するレオナルドをジェーンもわかっているだろう。
そのレオナルドが口出しするということは、アリシアを許せと圧力を掛けることになる。ジェーンならそう受け取るだろうとレオナルドはわかっているのだ。
だからこそ静観しようとしていた。
2人が直接会って話し合えば良いと思って。
だけどジェーンがその機会を失くそうとするのなら、このままそっとしておくわけにはいかない。
蟠りは時間が経てば経つほど拗れていくものなのだから。
そうしてレオナルドとディアナはキャンベル侯爵家の領地までやってきた。
ディアナを伴ったのは、未婚の令嬢の元を訪れる体裁を整える為だ。2人の仲はもう昔のようにただ無邪気なだけの幼馴染の従兄妹というわけにはいかない。
予め訪いを告げる文を出していたのでジェーンも慌てることなく出迎えてくれる。
レオナルドは道中の町で買ってきた菓子や飾りを土産として手渡した。
キャンベル侯爵家の領地で買ってきたものを領主に土産として差し出すのは如何なものかと思うが、そうして領内のものを買うことで少しでも経済を動かすことができる。ジェーンもそれをよく理解している。
ジェーンは喜んで受け取ると、その菓子を侍女へ預けた。何かを言いつけていたと思えば、2人のお茶菓子としてその菓子が並べられる。
客室に籠っているディアナの元へもこの菓子が出されているだろう。ディアナは2人で内密の話があるとわかっているので、邪魔をしないようにと長旅で疲れたふりをしている。
レオナルドとジェーンは向かい合い、何気ない会話を交わす。
2人とも中々肝心の話題を切り出すことができない。
そうして互いの顔色を伺いながら、2杯目の紅茶がなくなったところでレオナルドが重い口を開いた。
「……結婚式を欠席するそうだね」
「っ!!」
ジェーンが弾かれたように顔を上げる。
驚いた顔をしているけれど、すぐにノティスが話したとわかったようだ。2人の仲を知っていれば、ノティスが不審を抱いても仕方がない。
「アリシアも酷く驚いて、ショックを受けているようだ。理由を訊いても良い?」
「……進めていた施策が、ようやく軌道に乗りそうなのです。ここで領地を離れるわけには……」
言いかけてジェーンは口を噤んだ。
レオナルドが施策を把握しているとわかっているのだ。だから言い訳として成り立たないことも理解している。
「……アリシアのことを許せない気持ちはわかるよ。アリシアはそれだけ酷いことをしようとしていた。僕からアリシアを許してくれと言うつもりもない。ただ……、アリシアに会ってやってくれないだろうか」
この件に関してレオナルドからジェーンに許しを請うつもりはない。
ただ怒っているのなら、不快に感じているのなら、その思いを直接アリシアへぶつけて欲しい。そうすれば少なくとも話し合いの緒になる。
そう優しく話しかけるレオナルドにジェーンは驚いた顔をした。
そして困惑した様子で口を開く。
「怒っているのは、アリシア様ではありませんか……?だから文も下さらないのでしょう……?」
「……なんだって?」
レオナルドは目を見開いた。
そんなレオナルドにジェーンは僅かに首を傾げる。
「アリシア様へ文を書いても、以前のような親しみのある文を返して下さいません。アリシア様からのお文はなく……。それにレオ兄様も……」
レオナルドは息を飲んだ。
確かにレオナルドも最近ジェーンに返す文は当たり障りのないものばかりだった。
だけどそれは、アリシアの近況やクロウの様子を書くことでアリシアを許せという圧力になると思ったからだ。
それをジェーンはレオナルドが怒っているからと受け取っていたのだろうか。
「アリシア様やレオ兄様がご不快に思われるのもわかります。あんなに良くしてくださったのに、私はアリシア様が大変な時に何の力にもなれませんでした。もっとアリシア様のお心に沿うように、できることがあったのではと……」
「それは違うよ、ジェーン!ジェーンは何も間違えてない。間違えたのはアリシアの方だ」
後悔を口にするジェーンをレオナルドははっきり否定した。
ジェーンはキトラを去った後のアリシアの様子を正確に知っているのだ。
世間的にはアリシアが体調を崩し、療養に出たとしか知らされていない。だけどジェーンは、寝付いたアリシアが呼びかけに反応しなくなったことまで聞いているのだろう。
そして後悔をした。
ジェーンがアリシアの望み通りにレイヴンの子を生んでいれば、こんなことにはならなかったのに。
その思いが罪悪感になった。
思えばアリシアが寝付いた時にジェーンからそんな趣旨の文を受け取っていたのに、自分の気持ちで手一杯だったレオナルドは返事を後回しにして、結局書くのを忘れていた。
「結婚式に参列しないのは、ご不快な思いをさせない為です。アリシア様の幸せな日に、私が邪魔をすることはできません」
ジェーンは、アリシアがジェーンを避けていることに気がついている。
望みを叶えようとしなかったジェーンに怒っていると思っているのだ。そしてアリシアを溺愛するレオナルドも、アリシアを追い詰めたジェーンに怒っていると思っている。
「すまない、ジェーン。だけど誤解なんだ。返事を書かなかったのは怒っているからじゃない。言い訳になってしまうけど、あの時はそれだけの気持ちの余裕がなかった。その後のことも……。不快な思いをさせたアリシアを許すよう強要したくないと思ってしまった」
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