真実を求めて

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
7 / 9
1 ジェレミー ーダイアナに何があったのか?

6

しおりを挟む
 婚約者として最後の日、アイリーンは泣き腫らした顔で病室を訪れた。
 その顔を見ただけで、婚約解消がアイリーンの本意ではないことはわかった。
 だけど爵位を継げない相手と婚姻を結んでも侯爵家に利益はない。自分の将来と家門の未来を考え受け入れたのだろう。
 
 エレナも侯爵夫妻やアイリーンに悪い感情は持っていない。
 解消について話し合う時も侯爵夫妻は決してジェレミーを蔑むようなことは言わず、礼を尽くしてくれた。
 母親として、息子を見捨てる決断を下した二人を恨む気持ちが無かったとは言えないが、公爵夫人としては十分理解できる選択だった。





「婚約の解消が侯爵夫妻の決定だったとしても、アイリーン嬢は自分の意思で受け入れました。彼女は自身の決断に責任を持つ人です。決して他人ひとに当たるようなことはしませんよ」

 事件から二年半が経った今、ジェレミーは回復して以前と同じように歩けている。
 後継者から外されることもなかった。
 ジェレミーが学園に復帰した後、アイリーンから復縁を望んでいるようなことを仄めかされたことはあったが、その頃ジェレミーの気持ちはダイアナへ向かっていた。
 ジェレミーが回復するまで傍で支えてくれたのはダイアナだ。イリーンもそれを知っているので、未練じみたことを言われたのはその一度きりだった。

 その後アイリーンも伯爵家の子息と婚約を結んでいる。
 あのパーティーにもアイリーンは婚約者と一緒に来ていたのだ。

「そうよね。馬鹿なことを言ったわ。ごめんなさい」

 エレナもアイリーンの人柄はよく知っている。
 先程の言葉も本気で言ったのでは無いだろう。



「アイリーン嬢を疑うのならシェパード侯爵夫妻の方が余程怪しいですよ」

「ああ、彼らも来ていたわね」

 エレナが嫌な名前を聞いた、というように鼻を鳴らす。
 シェパード侯爵夫妻はライナスの婚約者であるクリスティナの両親だ。

 あの事件があって、社交界ではジェレミーが後継者から外されると密かに噂が立っていた。
 ジェレミーが後継者から外れるのなら、次に後継者となるのはライナスだ。そしてクリスティナが次期公爵夫人になる。

 侯爵夫妻は舞い込んだ幸運に舞い上がった。
 後継者の入れ替えが既に決まっているかのように言い触らし、クリスティナを次期公爵夫人として扱うよう要求した。
 入院しているジェレミーに気を取られて社交界に出れずにいた公爵やエレナが気づいた時には、すっかり話が広がっていたのだ。

「侯爵夫妻はダイアナを相当憎んでいます。あの二人なら何を言ったとしてもおかしくありません」

 社交界でどれだけ噂になっていても、後継者を入れ替えるには当主が王宮へ届け出て国王の許可を得なければならない。
 いつまで経っても届けを出さない公爵に、焦れた侯爵夫妻は公爵邸まで乗り込んできて早く届けを出すよう迫ったらしい。
 他家の、それも爵位が上の家の後継者問題に首を突っ込むなど有り得ない。
 激怒した公爵が怒鳴りつけて追い出した。
 それ以来、公爵夫妻はシェパード侯爵夫妻を蛇蝎のように嫌っている。

「確かにあの二人の図々しさは相当なものだわ」

 その後、侯爵夫妻とっては不運なことにジェレミーは回復し、後継者が入れ替わることはなかった。
 目論見が外れた二人は、大人しくなるどころか今度はクリスティナとライナスの婚約を解消し、クリスティナをジェレミーの婚約者にするよう求めてきた。
 アイリーンとの婚約を解消し、婚約者がいなくなっていたジェレミーとクリスティナを婚約させれば丁度いいと言うのだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

政略結婚した夫に殺される夢を見た翌日、裏庭に深い穴が掘られていました

伊織
恋愛
夫に殺される夢を見た。 冷え切った青い瞳で見下ろされ、血に染まった寝室で命を奪われる――あまりにも生々しい悪夢。 夢から覚めたセレナは、政略結婚した騎士団長の夫・ルシアンとの冷えた関係を改めて実感する。 彼は宝石ばかり買う妻を快く思っておらず、セレナもまた、愛のない結婚に期待などしていなかった。 だがその日、夢の中で自分が埋められていたはずの屋敷の裏庭で、 「深い穴を掘るために用意されたようなスコップ」を目にしてしまう。 これは、ただの悪夢なのか。 それとも――現実に起こる未来の予兆なのか。 闇魔法を受け継ぐ公爵令嬢と、彼女を疎む騎士団長。 不穏な夢から始まる、夫婦の物語。 男女の恋愛小説に挑戦しています。 楽しんでいただけたら嬉しいです。

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...