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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「陛下が謁見致します。謁見室へご移動下さい」
ルイザに声が掛かったのは、謁見前の貴族が待たされる控室へ入ってから随分経った後だった。
「望まれて嫁いできたのに、こんなに待たされるものなのか?」
一緒に待つ伯爵や伯爵夫人は疑問に思っていたが、何分初めてのことなので平均的な待ち時間などわかるはずがない。部屋の隅に控える侍女たちは無表情のままただ佇んでいる。
呼びに来た侍従に促されて部屋を出た一行は、ルイザを先頭にしてしずしず進む。
領地を発った時から伯爵夫妻とルイザの関係は変わっていた。ルイザの両親として同行しているが、既に側妃と臣下の伯爵夫妻という扱いになっているのだ。
乗ってきた馬車もルイザは王家が用意した豪華な馬車だが、伯爵夫妻は伯爵家の馬車でその後ろをついてきた。今も先導する侍従の後ろをルイザが1人で歩き、その後ろを伯爵夫妻がついて歩いている。
侍従は控室からほど近い一際豪華な扉の前で足を止めた。
「ヴィラント伯爵令嬢と伯爵夫妻をお連れしました」
侍従が声を掛けると扉の前に立っていた衛兵が頷いて扉を開ける。
同時によく通る声で内側からルイザと伯爵夫妻の入場が告げられた。
「ヴィラント伯爵家の長女、ルイザでございます。本日はお目通りいただき、ありがとうございます」
国王の前まで進み出たルイザは深くカテーシーをした。
ルイザの胸が不安で高鳴る。
側妃になることが決まるまで、ルイザに礼儀作法を教えていたのは伯爵夫人だった。だけどこの半年間、王家の雇った特別講師について学び直したのだ。おかしなところなどないと思いたい。
初めて顔を合わせる国王に、気に入ってもらわなければならないのだから。
「ーー顔を上げよ。楽にして良い」
国王の言葉と同時にルイザと伯爵夫妻は顔を上げる。
初めて国王の顔を見たルイザは、その優しそうな笑みにホッと胸をなでおろした。
「気に入ってもらえた」
そう思ったからだ。
「遠いところをよく来てくれた。長旅で疲れただろう」
国王はルイザと伯爵夫妻に労りの言葉を掛ける。
それを有り難く聞いていたルイザたちに、傍に控えていた宰相がこれからの予定を告げる。
この国では側妃を娶っても結婚式を挙げることはない。結婚式ができるのは正妃だけだ。
だけど大臣や有力貴族を招いたお披露目の晩餐会を開くことになる。
晩餐会は3日目の夜。ルイザはそれまで割り当てられた離宮で過ごし、伯爵夫妻は賓客用の客室で過ごす。
親子の対面は自由。だけどお披露目前なので対面する時は人目につかないよう伯爵夫妻がルイザの離宮を訪ねるよう告げられた。
「それではこちらへ署名をお願い致します」
宰相が懐から書類を取り出すのと同時に侍従が小机を用意し、美しい羽根ペンが刺さったインク壺が置かれる。
書類は国王とルイザが婚姻を結ぶ、所謂婚姻届だ。この書類に署名をしたその時からルイザは側妃となる。
さっと目を通したルイザは、何故先に国王の署名だけがされているのか首を傾げた。こういったものは2人揃って署名するのではないだろうか。
だけど国王も大臣たちも至極当然の顔をして、ルイザが署名するのを待っている。
きっと王室に入るには貴族と違った仕来りがあるのだわ。
そう思ったルイザは羽根ペンを取ると、躊躇うことなく名前を書いた。
書類に目を落としていたルイザは、その時の国王の顔を見ていなかったのだ。
謁見室へ入った時から柔和な笑みを浮かべていた国王が、苦痛に耐えるように表情を歪めていたことを。
その顔を見たら気づいていたはずだ。
国王から向けられる笑みが、対外用の作られた顔だということに……。
ルイザに声が掛かったのは、謁見前の貴族が待たされる控室へ入ってから随分経った後だった。
「望まれて嫁いできたのに、こんなに待たされるものなのか?」
一緒に待つ伯爵や伯爵夫人は疑問に思っていたが、何分初めてのことなので平均的な待ち時間などわかるはずがない。部屋の隅に控える侍女たちは無表情のままただ佇んでいる。
呼びに来た侍従に促されて部屋を出た一行は、ルイザを先頭にしてしずしず進む。
領地を発った時から伯爵夫妻とルイザの関係は変わっていた。ルイザの両親として同行しているが、既に側妃と臣下の伯爵夫妻という扱いになっているのだ。
乗ってきた馬車もルイザは王家が用意した豪華な馬車だが、伯爵夫妻は伯爵家の馬車でその後ろをついてきた。今も先導する侍従の後ろをルイザが1人で歩き、その後ろを伯爵夫妻がついて歩いている。
侍従は控室からほど近い一際豪華な扉の前で足を止めた。
「ヴィラント伯爵令嬢と伯爵夫妻をお連れしました」
侍従が声を掛けると扉の前に立っていた衛兵が頷いて扉を開ける。
同時によく通る声で内側からルイザと伯爵夫妻の入場が告げられた。
「ヴィラント伯爵家の長女、ルイザでございます。本日はお目通りいただき、ありがとうございます」
国王の前まで進み出たルイザは深くカテーシーをした。
ルイザの胸が不安で高鳴る。
側妃になることが決まるまで、ルイザに礼儀作法を教えていたのは伯爵夫人だった。だけどこの半年間、王家の雇った特別講師について学び直したのだ。おかしなところなどないと思いたい。
初めて顔を合わせる国王に、気に入ってもらわなければならないのだから。
「ーー顔を上げよ。楽にして良い」
国王の言葉と同時にルイザと伯爵夫妻は顔を上げる。
初めて国王の顔を見たルイザは、その優しそうな笑みにホッと胸をなでおろした。
「気に入ってもらえた」
そう思ったからだ。
「遠いところをよく来てくれた。長旅で疲れただろう」
国王はルイザと伯爵夫妻に労りの言葉を掛ける。
それを有り難く聞いていたルイザたちに、傍に控えていた宰相がこれからの予定を告げる。
この国では側妃を娶っても結婚式を挙げることはない。結婚式ができるのは正妃だけだ。
だけど大臣や有力貴族を招いたお披露目の晩餐会を開くことになる。
晩餐会は3日目の夜。ルイザはそれまで割り当てられた離宮で過ごし、伯爵夫妻は賓客用の客室で過ごす。
親子の対面は自由。だけどお披露目前なので対面する時は人目につかないよう伯爵夫妻がルイザの離宮を訪ねるよう告げられた。
「それではこちらへ署名をお願い致します」
宰相が懐から書類を取り出すのと同時に侍従が小机を用意し、美しい羽根ペンが刺さったインク壺が置かれる。
書類は国王とルイザが婚姻を結ぶ、所謂婚姻届だ。この書類に署名をしたその時からルイザは側妃となる。
さっと目を通したルイザは、何故先に国王の署名だけがされているのか首を傾げた。こういったものは2人揃って署名するのではないだろうか。
だけど国王も大臣たちも至極当然の顔をして、ルイザが署名するのを待っている。
きっと王室に入るには貴族と違った仕来りがあるのだわ。
そう思ったルイザは羽根ペンを取ると、躊躇うことなく名前を書いた。
書類に目を落としていたルイザは、その時の国王の顔を見ていなかったのだ。
謁見室へ入った時から柔和な笑みを浮かべていた国王が、苦痛に耐えるように表情を歪めていたことを。
その顔を見たら気づいていたはずだ。
国王から向けられる笑みが、対外用の作られた顔だということに……。
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