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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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カールとエリザベートは学園を卒業後、本来なら結婚式の準備に1年掛けるところを半年で結婚した。
誰の気も変わらないように、カールが急いだのだ。
ダシェンボード公爵夫妻やリチャードたちは、式の直前まで「本当に大丈夫なのか?」とエリザベートを心配していた。
エリザベートはダシェンボード公爵家の長女だが、リチャードの他にも2人の兄がいる。
公爵夫妻は4人目で生まれた初めての娘を、リチャードたち3人の兄も最後に生まれた唯一の妹を、殊の外可愛がっているのだ。エリザベートが幼い頃は、誰に一番懐いているのか3人で競っていたくらいである。
もう後戻りできないところまで準備が進んでからも、「やはり止めた方が良いのでは」と言いたげな家族にエリザベートは微笑んで首肯する。
「もう覚悟を決めましたから」と応えるエリザベートが何の覚悟を決めていたのか、この時のカールにはわからなかった。
ただ病を得たエリザベートが王太子妃という重責を担うことが心配なのだろうと思ったカールは、彼らが安心して送り出せるように式の準備で多忙の間もできる限りエリザベートに寄り添った。
2人が互いに想い合っているのは公爵家の者もみんなわかっているので、幸せそうに微笑み合う2人を見て引き留めるのは諦めたようだ。
結婚式は青天の中行われた。
王太子妃になる者として伝統的な形でありながら最新の流行を取り入れたドレスに自作のレース飾りを施したロングベールをつけたエリザベートはこの世のものとは思えない程美しかった。
ドレスの製作や小物選びを一緒にしていても実際に身につけたところを見るのはこれが初めてだ。
ダシェンボード公爵に手を取られ、長いバージンロードをしずしずと歩くエリザベートにカールは見惚れていた。
視線を奪われていたのはカールだけではない。
大聖堂にびっちり並んだ参列者たちも、男性はその美しい姿に感嘆の息をつき、女性は羨望と憧憬の混ざった視線を向ける。
エリザベートがカールの元へたどり着くまで誰もが視線を外すことができなかった。
「王国法と神の御名において、2人を夫婦と認めます」
大司祭がそう告げた時、カールは思わず泣いていた。
こんな時、感動して涙を流すのは女性の方ではないのか。
そう思っても、自然と溢れ出る涙を止めることができない。
微笑んだエリザベートが手を伸ばして涙を拭いてくれた。涙でレースグローブが濡れるの気にならないようだ。
カールはその手を取って手のひらへ口づける。
「愛している、リーザ。君と生涯を共にできることを幸せに思う」
「私も愛しています。カール様と結婚できて幸せですわ」
参列者たちは、みんな2人が深く愛し合っていることを知っていた。
病でエリザベートを永遠に喪いかけたことも、病が癒えた後も政治的懸念から引き裂かれそうになっていたことも。
それらの試練を乗り越え結ばれた2人に、大聖堂は感動で包まれた。
込み上げてきた熱いものを拭う者たちがあちらこちらで目撃されたのだった。
誰の気も変わらないように、カールが急いだのだ。
ダシェンボード公爵夫妻やリチャードたちは、式の直前まで「本当に大丈夫なのか?」とエリザベートを心配していた。
エリザベートはダシェンボード公爵家の長女だが、リチャードの他にも2人の兄がいる。
公爵夫妻は4人目で生まれた初めての娘を、リチャードたち3人の兄も最後に生まれた唯一の妹を、殊の外可愛がっているのだ。エリザベートが幼い頃は、誰に一番懐いているのか3人で競っていたくらいである。
もう後戻りできないところまで準備が進んでからも、「やはり止めた方が良いのでは」と言いたげな家族にエリザベートは微笑んで首肯する。
「もう覚悟を決めましたから」と応えるエリザベートが何の覚悟を決めていたのか、この時のカールにはわからなかった。
ただ病を得たエリザベートが王太子妃という重責を担うことが心配なのだろうと思ったカールは、彼らが安心して送り出せるように式の準備で多忙の間もできる限りエリザベートに寄り添った。
2人が互いに想い合っているのは公爵家の者もみんなわかっているので、幸せそうに微笑み合う2人を見て引き留めるのは諦めたようだ。
結婚式は青天の中行われた。
王太子妃になる者として伝統的な形でありながら最新の流行を取り入れたドレスに自作のレース飾りを施したロングベールをつけたエリザベートはこの世のものとは思えない程美しかった。
ドレスの製作や小物選びを一緒にしていても実際に身につけたところを見るのはこれが初めてだ。
ダシェンボード公爵に手を取られ、長いバージンロードをしずしずと歩くエリザベートにカールは見惚れていた。
視線を奪われていたのはカールだけではない。
大聖堂にびっちり並んだ参列者たちも、男性はその美しい姿に感嘆の息をつき、女性は羨望と憧憬の混ざった視線を向ける。
エリザベートがカールの元へたどり着くまで誰もが視線を外すことができなかった。
「王国法と神の御名において、2人を夫婦と認めます」
大司祭がそう告げた時、カールは思わず泣いていた。
こんな時、感動して涙を流すのは女性の方ではないのか。
そう思っても、自然と溢れ出る涙を止めることができない。
微笑んだエリザベートが手を伸ばして涙を拭いてくれた。涙でレースグローブが濡れるの気にならないようだ。
カールはその手を取って手のひらへ口づける。
「愛している、リーザ。君と生涯を共にできることを幸せに思う」
「私も愛しています。カール様と結婚できて幸せですわ」
参列者たちは、みんな2人が深く愛し合っていることを知っていた。
病でエリザベートを永遠に喪いかけたことも、病が癒えた後も政治的懸念から引き裂かれそうになっていたことも。
それらの試練を乗り越え結ばれた2人に、大聖堂は感動で包まれた。
込み上げてきた熱いものを拭う者たちがあちらこちらで目撃されたのだった。
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