影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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2章 ~過去 カールとエリザベート~

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 前国王夫妻は王都にひと月滞在することになっていた。
 拠点にするのは薔薇の宮と隣接しているゲストの為の離宮だ。
 退位してからは身軽になったからと2人で旅行することもあるようだが、身軽になったといっても以前に比べればというだけで、2人の移動には入念な調査と準備が必要になる。
 王都と隠居先を気軽に行き来することはできず、孫の顔を見たいと思っても簡単に来ることはできないのだ。だから一度の滞在期間を可能な限り長く設定している。
 ルイを抱きながら「次に会えるのはお誕生日かしらね」と淋しそうに呟く義母を見ていると、少しでも長く一緒に過ごして欲しいと思う。

 それに2人の滞在はエリザベートにとっても有難いことだった。
 エリザベートは長く休んでいた公務に復帰する。そうすると執務の時間は王宮内にある執務室へ行かなければならないのだ。ルイの傍を長時間離れる時に、信頼できる大人が近くにいて欲しい。
 エリザベートが不在の時にダシェンボード公爵家の者が薔薇の宮に出入りすることはできないが、義父や義母なら問題はない。
 そうしてひと月経つ頃にはエリザベートもきっと慣れているだろう。

「……淋しがり屋は私かしらね?」

 エリザベートがそう言って額に口づけると、ルイは「あ~、あっ!」と大声で見送ってくれた。





 前国王夫妻が滞在しているひと月の間に色んなことが行われた。
 平日の夜は4人で食事をして、カールとエリザベートがいない間のルイの様子を教えてくれる。
 休日になるとマクロイド公爵を招いて一緒に過ごすこともあった。マクロイド公爵もエリザベートやルイを気に掛けてくれていたが、エリザベートが寝付いている間は遠慮してあまり顔を出せずにいたのだ。弟とはいえ他の男にエリザベートの夜着姿を見せたくないカールの思惑もあり、マクロイド公爵が来た時はカールがルイを抱いて応接間ドローイング・ルームへ移動していた。
 だからエリザベートがルイと戯れるマクロイド公爵を見るのはこれが初めてである。

「公爵もルイを可愛がって下さっているのですね」

 エリザベートがそう言うと、マクロイド公爵は恥ずかしそうに目を伏せた。



 前国王夫妻との再会を祝う舞踏会も開かれた。
 2人が王都を離れてからまだ1年程しか経っていないが、沢山の貴族が訪れ再会を喜び合う。
 その姿を見ていると2人が愛された君主だったのだと実感する。
 そしてこの舞踏会がエリザベートの社交界への復帰となった。

 この舞踏会を契機として前国王夫妻が滞在する離宮でもお茶会が開かれるようになった。
 2人が本当に親しくしている友人だけが招かれているようだ。必然的に年齢が高い人たちの集まりになり、子や孫の話で盛り上がっているという。
 その招待客の中にはダシェンボード公爵夫人の姿もあった。
 公爵夫妻は前国王夫妻よりも年嵩で、この頃から自然と代替わりを考え始めたようだ。



 別の休日にはカールとエリザベートが身内だけのホームパーティーを開いた。
 招かれたのは前国王夫妻とマクロイド公爵夫妻、ダシェンボード公爵夫妻にリチャードとアンヌ、アルバートとゾフィーだ。
 リチャードとアルバートは5歳以上になった息子と娘を連れて来ている。
 愛妻家で子沢山な2人にはその下にも数人の子がいるけれど、ルイを中心としたパーティーなので万が一のことを考え年少の子は留守番になっていた。






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