40 / 142
2章 ~過去 カールとエリザベート~
17
しおりを挟む
ホームパーティーは微笑ましい光景から始まった。
大人たちは社交に慣れているので前国王夫妻がいても委縮することはない。いつもと同じように挨拶をして、勧められた席に座る。
だけど子どもたちは違っていた。
ここにいるのはリチャードの長男アレクス12歳、次男プレストン9歳、長女マリエンヌ6歳。アルバートの長男フランク9歳、長女アレキサンドラ7歳。
既に基礎的な教育は受けているので、出迎えた大人たちが皆祖父母よりも身分が高いと理解している。子どもたちだけのお茶会には参加している年齢のアレクスを先頭にしてしっかり挨拶をしてくれた。
緊張した面持ちが初々しくて可愛らしい。
彼らが最も戸惑ったのはエリザベートへの挨拶だった。
特にリチャードの子どもたちはエリザベートが嫁ぐまで同じ邸で暮らしていて、アレクスとプレストンはその頃のこともしっかり覚えている。
それなのに久しぶりに会った叔母は王妃で、この国で最高位の女性なのだ。
「そんなに畏まらなくても良いわ。今日は親族の集まりだもの。私のことは殿下でも叔母様でも、呼びやすい方で呼んでちょうだい」
「そうだな。俺のことも、陛下でも叔父様でもどちらでも良い」
エリザベートとカールにそう言われた子どもたちは、困ったように両親の顔を見た。
リチャードが頷く。
「お2人の許可を得たんだ。公的な場所で区別がつけられるならどちらでも良い」
今は私的な場所だから甥と姪として親しく接しても良い。
だけど公的な場所では臣下として立場を弁えなければならない。
「親族として思い上がったり、うっかり間違えたりしないと自信が持てるなら叔母様と呼んでも良い。その判断は自分でしなさい」という意味だ。
子どもたちは自分で考えて呼び方を選んだ。
最初は緊張していた子どもたちも、時間が経つにつれて馴染んできた。
私的な集まりとして自由な発言と行動が認められているので、自然とルイの周りに集まっていく。
兄妹が多いだけに赤子の扱いも心得ていて、触れようとする妹に兄たちが「そっとだよ」と声を掛けている。
「そうっと、そうっと」と言いながらルイを撫でるマリエンヌとアレキサンドラが可愛い。
「しばらく見ない内に皆すっかり大きくなって。きっとルイもあっという間に大きくなってしまうのでしょうね」
「ええ、そうね。あなたもあっという間に大きくなってしまったわ」
ダシェンボード公爵夫人が笑う。
それを聞いていた前王妃もうんうんと頷いた。
「子どもたちを見ているとあなたたちの幼い頃を思い出すわね……。カールったら一目であなたに恋をしてしまって」
「まあ、それはリズも同じですわ」
公爵夫人と前王妃は揃ってコロコロと笑う。
カールとエリザベートは前王妃が開いた子どもたちのお茶会で出会った。
婚約者や未来の側近候補を見つける為のお茶会だが、1回だけで決めるわけではない。何回も時間を置いて繰り返し、相性の良い子を選んでいけば良いと思っていた。
それなのにカールは初めてのお茶会でエリザベートを見初めてしまったのだ。
国王夫妻にとっては予想外の出来事で、困惑しながら公爵家に申し入れてみるとエリザベートもカールと婚約したいと言っているという。
それまでエリザベートの愛称は「リズ」だったのに、カールだけが呼べる「リーザ」という愛称を2人で考えていた。
「カールには弟しかいないから、女の子が珍しかったのよね。それもあんなに可愛い女の子。『リーザは僕が守るんだ』と言って、それまで嫌っていた剣の稽古を真面目にしだしたのよ」
だけど大抵の場合、男の子より女の子の方が先に大きくなる。
出会った頃はエリザベートの方が小さかったのに、気がつけばエリザベートの方が背が高くなってしまった。それに気がついた時のカールの衝撃は大きい。
「この子ったらすっかり落ち込んでしまって。これじゃあリーザを守れない。嫌われるって泣いていたわねぇ」
「あら、リズも泣いていましたのよ。『もうカール様に可愛いと思ってもらえないわ。嫌われたらどうしよう』って」
「母上!」
「お母様!もうお止めください!!」
カールとエリザベートが揃って抗議の声を上げる。
だけどアンヌとゾフィーの「まあまあ!お2人とも可愛らしいですわぁ」「微笑ましいですわねぇ」という声にかき消されて2人の母親には届かなかった。
大人たちは社交に慣れているので前国王夫妻がいても委縮することはない。いつもと同じように挨拶をして、勧められた席に座る。
だけど子どもたちは違っていた。
ここにいるのはリチャードの長男アレクス12歳、次男プレストン9歳、長女マリエンヌ6歳。アルバートの長男フランク9歳、長女アレキサンドラ7歳。
既に基礎的な教育は受けているので、出迎えた大人たちが皆祖父母よりも身分が高いと理解している。子どもたちだけのお茶会には参加している年齢のアレクスを先頭にしてしっかり挨拶をしてくれた。
緊張した面持ちが初々しくて可愛らしい。
彼らが最も戸惑ったのはエリザベートへの挨拶だった。
特にリチャードの子どもたちはエリザベートが嫁ぐまで同じ邸で暮らしていて、アレクスとプレストンはその頃のこともしっかり覚えている。
それなのに久しぶりに会った叔母は王妃で、この国で最高位の女性なのだ。
「そんなに畏まらなくても良いわ。今日は親族の集まりだもの。私のことは殿下でも叔母様でも、呼びやすい方で呼んでちょうだい」
「そうだな。俺のことも、陛下でも叔父様でもどちらでも良い」
エリザベートとカールにそう言われた子どもたちは、困ったように両親の顔を見た。
リチャードが頷く。
「お2人の許可を得たんだ。公的な場所で区別がつけられるならどちらでも良い」
今は私的な場所だから甥と姪として親しく接しても良い。
だけど公的な場所では臣下として立場を弁えなければならない。
「親族として思い上がったり、うっかり間違えたりしないと自信が持てるなら叔母様と呼んでも良い。その判断は自分でしなさい」という意味だ。
子どもたちは自分で考えて呼び方を選んだ。
最初は緊張していた子どもたちも、時間が経つにつれて馴染んできた。
私的な集まりとして自由な発言と行動が認められているので、自然とルイの周りに集まっていく。
兄妹が多いだけに赤子の扱いも心得ていて、触れようとする妹に兄たちが「そっとだよ」と声を掛けている。
「そうっと、そうっと」と言いながらルイを撫でるマリエンヌとアレキサンドラが可愛い。
「しばらく見ない内に皆すっかり大きくなって。きっとルイもあっという間に大きくなってしまうのでしょうね」
「ええ、そうね。あなたもあっという間に大きくなってしまったわ」
ダシェンボード公爵夫人が笑う。
それを聞いていた前王妃もうんうんと頷いた。
「子どもたちを見ているとあなたたちの幼い頃を思い出すわね……。カールったら一目であなたに恋をしてしまって」
「まあ、それはリズも同じですわ」
公爵夫人と前王妃は揃ってコロコロと笑う。
カールとエリザベートは前王妃が開いた子どもたちのお茶会で出会った。
婚約者や未来の側近候補を見つける為のお茶会だが、1回だけで決めるわけではない。何回も時間を置いて繰り返し、相性の良い子を選んでいけば良いと思っていた。
それなのにカールは初めてのお茶会でエリザベートを見初めてしまったのだ。
国王夫妻にとっては予想外の出来事で、困惑しながら公爵家に申し入れてみるとエリザベートもカールと婚約したいと言っているという。
それまでエリザベートの愛称は「リズ」だったのに、カールだけが呼べる「リーザ」という愛称を2人で考えていた。
「カールには弟しかいないから、女の子が珍しかったのよね。それもあんなに可愛い女の子。『リーザは僕が守るんだ』と言って、それまで嫌っていた剣の稽古を真面目にしだしたのよ」
だけど大抵の場合、男の子より女の子の方が先に大きくなる。
出会った頃はエリザベートの方が小さかったのに、気がつけばエリザベートの方が背が高くなってしまった。それに気がついた時のカールの衝撃は大きい。
「この子ったらすっかり落ち込んでしまって。これじゃあリーザを守れない。嫌われるって泣いていたわねぇ」
「あら、リズも泣いていましたのよ。『もうカール様に可愛いと思ってもらえないわ。嫌われたらどうしよう』って」
「母上!」
「お母様!もうお止めください!!」
カールとエリザベートが揃って抗議の声を上げる。
だけどアンヌとゾフィーの「まあまあ!お2人とも可愛らしいですわぁ」「微笑ましいですわねぇ」という声にかき消されて2人の母親には届かなかった。
4
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
冷たい王妃の生活
柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。
三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。
王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。
孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。
「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。
自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。
やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。
嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる