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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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ホームパーティーは微笑ましい光景から始まった。
大人たちは社交に慣れているので前国王夫妻がいても委縮することはない。いつもと同じように挨拶をして、勧められた席に座る。
だけど子どもたちは違っていた。
ここにいるのはリチャードの長男アレクス12歳、次男プレストン9歳、長女マリエンヌ6歳。アルバートの長男フランク9歳、長女アレキサンドラ7歳。
既に基礎的な教育は受けているので、出迎えた大人たちが皆祖父母よりも身分が高いと理解している。子どもたちだけのお茶会には参加している年齢のアレクスを先頭にしてしっかり挨拶をしてくれた。
緊張した面持ちが初々しくて可愛らしい。
彼らが最も戸惑ったのはエリザベートへの挨拶だった。
特にリチャードの子どもたちはエリザベートが嫁ぐまで同じ邸で暮らしていて、アレクスとプレストンはその頃のこともしっかり覚えている。
それなのに久しぶりに会った叔母は王妃で、この国で最高位の女性なのだ。
「そんなに畏まらなくても良いわ。今日は親族の集まりだもの。私のことは殿下でも叔母様でも、呼びやすい方で呼んでちょうだい」
「そうだな。俺のことも、陛下でも叔父様でもどちらでも良い」
エリザベートとカールにそう言われた子どもたちは、困ったように両親の顔を見た。
リチャードが頷く。
「お2人の許可を得たんだ。公的な場所で区別がつけられるならどちらでも良い」
今は私的な場所だから甥と姪として親しく接しても良い。
だけど公的な場所では臣下として立場を弁えなければならない。
「親族として思い上がったり、うっかり間違えたりしないと自信が持てるなら叔母様と呼んでも良い。その判断は自分でしなさい」という意味だ。
子どもたちは自分で考えて呼び方を選んだ。
最初は緊張していた子どもたちも、時間が経つにつれて馴染んできた。
私的な集まりとして自由な発言と行動が認められているので、自然とルイの周りに集まっていく。
兄妹が多いだけに赤子の扱いも心得ていて、触れようとする妹に兄たちが「そっとだよ」と声を掛けている。
「そうっと、そうっと」と言いながらルイを撫でるマリエンヌとアレキサンドラが可愛い。
「しばらく見ない内に皆すっかり大きくなって。きっとルイもあっという間に大きくなってしまうのでしょうね」
「ええ、そうね。あなたもあっという間に大きくなってしまったわ」
ダシェンボード公爵夫人が笑う。
それを聞いていた前王妃もうんうんと頷いた。
「子どもたちを見ているとあなたたちの幼い頃を思い出すわね……。カールったら一目であなたに恋をしてしまって」
「まあ、それはリズも同じですわ」
公爵夫人と前王妃は揃ってコロコロと笑う。
カールとエリザベートは前王妃が開いた子どもたちのお茶会で出会った。
婚約者や未来の側近候補を見つける為のお茶会だが、1回だけで決めるわけではない。何回も時間を置いて繰り返し、相性の良い子を選んでいけば良いと思っていた。
それなのにカールは初めてのお茶会でエリザベートを見初めてしまったのだ。
国王夫妻にとっては予想外の出来事で、困惑しながら公爵家に申し入れてみるとエリザベートもカールと婚約したいと言っているという。
それまでエリザベートの愛称は「リズ」だったのに、カールだけが呼べる「リーザ」という愛称を2人で考えていた。
「カールには弟しかいないから、女の子が珍しかったのよね。それもあんなに可愛い女の子。『リーザは僕が守るんだ』と言って、それまで嫌っていた剣の稽古を真面目にしだしたのよ」
だけど大抵の場合、男の子より女の子の方が先に大きくなる。
出会った頃はエリザベートの方が小さかったのに、気がつけばエリザベートの方が背が高くなってしまった。それに気がついた時のカールの衝撃は大きい。
「この子ったらすっかり落ち込んでしまって。これじゃあリーザを守れない。嫌われるって泣いていたわねぇ」
「あら、リズも泣いていましたのよ。『もうカール様に可愛いと思ってもらえないわ。嫌われたらどうしよう』って」
「母上!」
「お母様!もうお止めください!!」
カールとエリザベートが揃って抗議の声を上げる。
だけどアンヌとゾフィーの「まあまあ!お2人とも可愛らしいですわぁ」「微笑ましいですわねぇ」という声にかき消されて2人の母親には届かなかった。
大人たちは社交に慣れているので前国王夫妻がいても委縮することはない。いつもと同じように挨拶をして、勧められた席に座る。
だけど子どもたちは違っていた。
ここにいるのはリチャードの長男アレクス12歳、次男プレストン9歳、長女マリエンヌ6歳。アルバートの長男フランク9歳、長女アレキサンドラ7歳。
既に基礎的な教育は受けているので、出迎えた大人たちが皆祖父母よりも身分が高いと理解している。子どもたちだけのお茶会には参加している年齢のアレクスを先頭にしてしっかり挨拶をしてくれた。
緊張した面持ちが初々しくて可愛らしい。
彼らが最も戸惑ったのはエリザベートへの挨拶だった。
特にリチャードの子どもたちはエリザベートが嫁ぐまで同じ邸で暮らしていて、アレクスとプレストンはその頃のこともしっかり覚えている。
それなのに久しぶりに会った叔母は王妃で、この国で最高位の女性なのだ。
「そんなに畏まらなくても良いわ。今日は親族の集まりだもの。私のことは殿下でも叔母様でも、呼びやすい方で呼んでちょうだい」
「そうだな。俺のことも、陛下でも叔父様でもどちらでも良い」
エリザベートとカールにそう言われた子どもたちは、困ったように両親の顔を見た。
リチャードが頷く。
「お2人の許可を得たんだ。公的な場所で区別がつけられるならどちらでも良い」
今は私的な場所だから甥と姪として親しく接しても良い。
だけど公的な場所では臣下として立場を弁えなければならない。
「親族として思い上がったり、うっかり間違えたりしないと自信が持てるなら叔母様と呼んでも良い。その判断は自分でしなさい」という意味だ。
子どもたちは自分で考えて呼び方を選んだ。
最初は緊張していた子どもたちも、時間が経つにつれて馴染んできた。
私的な集まりとして自由な発言と行動が認められているので、自然とルイの周りに集まっていく。
兄妹が多いだけに赤子の扱いも心得ていて、触れようとする妹に兄たちが「そっとだよ」と声を掛けている。
「そうっと、そうっと」と言いながらルイを撫でるマリエンヌとアレキサンドラが可愛い。
「しばらく見ない内に皆すっかり大きくなって。きっとルイもあっという間に大きくなってしまうのでしょうね」
「ええ、そうね。あなたもあっという間に大きくなってしまったわ」
ダシェンボード公爵夫人が笑う。
それを聞いていた前王妃もうんうんと頷いた。
「子どもたちを見ているとあなたたちの幼い頃を思い出すわね……。カールったら一目であなたに恋をしてしまって」
「まあ、それはリズも同じですわ」
公爵夫人と前王妃は揃ってコロコロと笑う。
カールとエリザベートは前王妃が開いた子どもたちのお茶会で出会った。
婚約者や未来の側近候補を見つける為のお茶会だが、1回だけで決めるわけではない。何回も時間を置いて繰り返し、相性の良い子を選んでいけば良いと思っていた。
それなのにカールは初めてのお茶会でエリザベートを見初めてしまったのだ。
国王夫妻にとっては予想外の出来事で、困惑しながら公爵家に申し入れてみるとエリザベートもカールと婚約したいと言っているという。
それまでエリザベートの愛称は「リズ」だったのに、カールだけが呼べる「リーザ」という愛称を2人で考えていた。
「カールには弟しかいないから、女の子が珍しかったのよね。それもあんなに可愛い女の子。『リーザは僕が守るんだ』と言って、それまで嫌っていた剣の稽古を真面目にしだしたのよ」
だけど大抵の場合、男の子より女の子の方が先に大きくなる。
出会った頃はエリザベートの方が小さかったのに、気がつけばエリザベートの方が背が高くなってしまった。それに気がついた時のカールの衝撃は大きい。
「この子ったらすっかり落ち込んでしまって。これじゃあリーザを守れない。嫌われるって泣いていたわねぇ」
「あら、リズも泣いていましたのよ。『もうカール様に可愛いと思ってもらえないわ。嫌われたらどうしよう』って」
「母上!」
「お母様!もうお止めください!!」
カールとエリザベートが揃って抗議の声を上げる。
だけどアンヌとゾフィーの「まあまあ!お2人とも可愛らしいですわぁ」「微笑ましいですわねぇ」という声にかき消されて2人の母親には届かなかった。
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