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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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弔いの鐘の音と弔砲は貴族街にも聞こえた。
エリザベートと親交の深い貴婦人たちはルイの運命を悟って呆然とする。
彼女たちは王都の民とは違って不穏な情報を耳にしていた。侍医たちが連日薔薇の宮に詰めていることも、カールが日に日に憔悴し、エリザベートが長く公務を休んでいることも、そして数日前には前国王夫妻が密かに王宮へ入ったことも、王宮に出入りする貴族たちは皆知っていたのだ。
だからルイが病に冒されていることには気がついていた。
その病状が思わしくないことも。
だけど必ず回復すると、信じていたのに。
「ああ、なんてことなの……っ」
年若い貴婦人たちはエリザベートを思って涙を流す。
年配の貴婦人たちに眉をひそめられながら、「私の子がこの世で一番可愛い」と思い合っている母親たちだ。
中にはルイを直接目にした貴婦人もいる。
慣例に乗っ取り紹介されることはなかったが、カールとエリザベートから受け継いだ金色の髪とぱっちりした青色の目の可愛い男の子だった。
「おかあたま、どうしたの?」
蹲り、肩を震わせていた女性は、幼い声にハッとして顔を上げる。
ルイと同じ年頃の大切な子が心配そうに母を見ていた。
「大丈夫よ、何でもないわ……」
女性は不安にさせないように微笑みながら涙を拭う。
そっと抱き上げで膝に乗せると、ぎゅっと胸に抱いた。
エリザベートの痛みを思いながら、この子でなくて良かったと神に感謝しながら……。
葬儀の参列者は少なかった。
公表されていない王子なので国葬になることはなく、身内だけの静かな式だ。
エリザベートは礼拝堂で行われた葬儀の間中泣き通した。墓地へ移った後も石造りの霊廟へ納められようとする小さな棺に縋りつき離れようとしない。
「嫌、嫌よっ!行かないで、ルイちゃん。行かないでぇ……っ!」
「……っ!うっ、く……っ」
取り乱すエリザベートの隣でカールはただ涙を流し続けた。
堪えているだけで、カールもエリザベートと同じ気持ちだ。
ルイと離れたくない。
こんな暗くて狭い場所にルイを閉じ込めてしまいたくなかった。
「ルイ……っ!」
名を呼びながらカールはルイの棺を撫でる。
棺は硬く冷たくて、ルイの温かくて柔らかい肌の感触とは似ても似つかなかった。
「ルイ……っ!」
「ルイちゃん……」
「ああ……っ」
ルイを可愛がっていた者たちの嗚咽が響く。
参列者の気が落ち着くまで司祭は埋葬を待ってくれた。
それからの日々をエリザベートは夢現のまま過ごした。
カールは最後の夜、ルイの髪をひと房切っていたようだ。その一部をエリザベートの部屋から見える庭園の小高い丘の上に埋めた。小さな石を置き、簡易的な墓とする。
あまり王宮を出ることができないカールとエリザベートは中々墓地を訪れることができない。
だけど憔悴したエリザベートは抜け出して通い詰め、そのまま居ついてしまいそうに見える。
ルイに繋がる縁があれば、少しは慰められるだろう。
その後、職人に頼んで残った髪を埋め込んだペンダントとブローチを作らせた。
ペンダントはエリザベートが、ブローチはカールが身につける。
こうしていれば常にルイと一緒にいられるのだ。
出来上がったペンダントとブローチを胸に付け、2人は抱き合って泣いた。
エリザベートと親交の深い貴婦人たちはルイの運命を悟って呆然とする。
彼女たちは王都の民とは違って不穏な情報を耳にしていた。侍医たちが連日薔薇の宮に詰めていることも、カールが日に日に憔悴し、エリザベートが長く公務を休んでいることも、そして数日前には前国王夫妻が密かに王宮へ入ったことも、王宮に出入りする貴族たちは皆知っていたのだ。
だからルイが病に冒されていることには気がついていた。
その病状が思わしくないことも。
だけど必ず回復すると、信じていたのに。
「ああ、なんてことなの……っ」
年若い貴婦人たちはエリザベートを思って涙を流す。
年配の貴婦人たちに眉をひそめられながら、「私の子がこの世で一番可愛い」と思い合っている母親たちだ。
中にはルイを直接目にした貴婦人もいる。
慣例に乗っ取り紹介されることはなかったが、カールとエリザベートから受け継いだ金色の髪とぱっちりした青色の目の可愛い男の子だった。
「おかあたま、どうしたの?」
蹲り、肩を震わせていた女性は、幼い声にハッとして顔を上げる。
ルイと同じ年頃の大切な子が心配そうに母を見ていた。
「大丈夫よ、何でもないわ……」
女性は不安にさせないように微笑みながら涙を拭う。
そっと抱き上げで膝に乗せると、ぎゅっと胸に抱いた。
エリザベートの痛みを思いながら、この子でなくて良かったと神に感謝しながら……。
葬儀の参列者は少なかった。
公表されていない王子なので国葬になることはなく、身内だけの静かな式だ。
エリザベートは礼拝堂で行われた葬儀の間中泣き通した。墓地へ移った後も石造りの霊廟へ納められようとする小さな棺に縋りつき離れようとしない。
「嫌、嫌よっ!行かないで、ルイちゃん。行かないでぇ……っ!」
「……っ!うっ、く……っ」
取り乱すエリザベートの隣でカールはただ涙を流し続けた。
堪えているだけで、カールもエリザベートと同じ気持ちだ。
ルイと離れたくない。
こんな暗くて狭い場所にルイを閉じ込めてしまいたくなかった。
「ルイ……っ!」
名を呼びながらカールはルイの棺を撫でる。
棺は硬く冷たくて、ルイの温かくて柔らかい肌の感触とは似ても似つかなかった。
「ルイ……っ!」
「ルイちゃん……」
「ああ……っ」
ルイを可愛がっていた者たちの嗚咽が響く。
参列者の気が落ち着くまで司祭は埋葬を待ってくれた。
それからの日々をエリザベートは夢現のまま過ごした。
カールは最後の夜、ルイの髪をひと房切っていたようだ。その一部をエリザベートの部屋から見える庭園の小高い丘の上に埋めた。小さな石を置き、簡易的な墓とする。
あまり王宮を出ることができないカールとエリザベートは中々墓地を訪れることができない。
だけど憔悴したエリザベートは抜け出して通い詰め、そのまま居ついてしまいそうに見える。
ルイに繋がる縁があれば、少しは慰められるだろう。
その後、職人に頼んで残った髪を埋め込んだペンダントとブローチを作らせた。
ペンダントはエリザベートが、ブローチはカールが身につける。
こうしていれば常にルイと一緒にいられるのだ。
出来上がったペンダントとブローチを胸に付け、2人は抱き合って泣いた。
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