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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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エリザベートは執務だけではなく、お茶会やサロンの開催とこれまでよりも精力的に社交を行い、病院や孤児院、乳児院へ慰問をし、小児医療の研究者を集めて討論会を開催した。
討論会では各地の研究者たちが各々の研究を発表できる場として大勢集まったが、それよりエリザベートを驚かせたのは傍聴する貴族の数の多さだった。
専門的な内容なので医療に関係するような少数の者しか興味を持たないだろうと思っていたのに、子を病で亡くしたことのある者、この数年で開発された薬で子が助かった者、これから子が生まれる者など、普段学術研究などには興味がなさそうな貴婦人たちも多く訪れ、多額の寄付をしていった。
悲しいことにそれだけ子を亡くすという経験をした者が多くいるのだ。
エリザベートは毎日変わらず部屋の窓からルイの墓を眺めては話しかけていた。それだけではなく休みの日にはカールと2人で墓まで行き長い時間を過ごす。
エリザベートの部屋からよく見えるこの場所は、近くにあるように見えて距離があり、丘になっているので結構な運動になる。
墓の前に膝をつき祈りを捧げた後はその場所で敷物を敷いて持参した昼食を食べ、親子3人ピクニックのように過ごすのだ。
そうして表面的には平穏な日々がしばらく続いた。
「―――舞踏会だと?」
「はい。側妃殿下を迎えられて三月が経ちました。そろそろ皆へ披露目をするべきかと」
深く腰を折ったアンダーソン公爵(シェリルの祖父)が告げる。カールにとって不快な話題であると知っているのだ。
アンダーソン公爵はダシェンボード公爵が代替わりしたタイミングで急速に権力をつけた。それはダシェンボード公爵家が次の国王には決して重用されないと理解していて一歩下がったからでもあった。
アンダーソン公爵が進言しているのは、側妃として迎えたルイザを貴族たちに披露する為の舞踏会で、本来なら晩餐会の後すぐに開いているはずだった。
だけど晩餐会の夜にエリザベートが倒れたのでカールは舞踏会を開くどころではなく、そのままうやむやになっていた。
晩餐会は側妃を娶る儀式の一部で、国の重鎮にルイザを新たな妃として認めさせる意味を持つ。
舞踏会は国中の貴族を集めて新たな妃を披露する為の場だ。
通常王室が主催する舞踏会では国王と王妃が揃って出席をして、国王が許可をすれば側妃も出席することができる。
その時国王がエスコートするのはあくまで正妃だ。国王と王妃が揃って入場をして、その後ろに側妃が続く。
だけどこの舞踏会は側妃を披露する為のものなので国王は側妃をエスコートすることができる。その場合国王と側妃が並んで入場をして、その後ろを正妃が歩くことになる。
「そうは言っても今更だろう。披露目などしなくても側妃を迎えたことは皆知っているのだ。必要ないだろう」
晩餐会を開かないと儀式が完了しないので側妃を娶ったことにならないが、舞踏会は婚姻が成ってから開くものだ。側妃に心を移した国王であれば喜んでエスコートするだろうが、カールにとっては無駄なものでしかない。
ルイザと並んで歩くのも、その後ろをエリザベートに歩かせるのも絶対に嫌だ。
大体舞踏会を開かなくてもカールが側妃を娶ったことは国中に広まっている。
「確かにその通りではございますが、何事にも慣習というものがございます。陛下が皆に周知してこそ誰もが受け入れるのです」
それに舞踏会が開かれることを見越して国中の貴族が王都に集まって来ている。
エリザベートが倒れたことは広まっているので延期は仕方ないと思われているが、いつ舞踏会が開かれるかわからないので領地に帰りたくても帰れないのだ。
倒れたエリザベートも回復し、最近ではあちらこちらで元気な姿を見せているのでこれ以上先延ばしにできないだろう。
「お生まれになる御子のこともございます。前例に則り側妃として披露された妃殿下の御子であれば誰もが世継ぎと認めましょう。ですが披露されていない方の御子であれば何かと難癖をつける者も出てきます」
「ーーーっ!!」
子のことを言われればカールも弱い。
これ以上側妃を迎えるつもりはなく、子も王子が一人生まれるまでと決めているので、その子が正統な世継ぎと認められなければ意味がないのだ。勿論カールの子である以上何を言われても突っぱねることはできるが、不安の芽は残したくはない。
「―――彼女を舞踏会に出しても問題はないか?」
「はい。妃殿下は嫁いで来られてから熱心に礼儀作法を学んでおられます。近頃はダンスのレッスンにも力を入れておられますので一般的なものであれば問題なく踊れるでしょう」
カールの問いかけに答えたのはイーネだ。イーネはルイザの学習状況や生活状況を定期的にカールへ報告している。その報告の最中にアンダーソン公爵が来合わせたので壁際に寄って待機していた。
ルイザがダンスのレッスンに力を入れているのはパートナーとして踊る講師と近い距離で会話を交わせるからだ。
男女としてのおかしな気持ちはないが、踊る時に手や腰に触れるので心理的な距離も近くなる。それだけ人との関わりに飢えているということである。
だけどイーネもカールもそんなことには気づかず、ただ妃教育の一貫としてしか見ていない。
これまで碌な教育も受けられずに育ってきたルイザだったが、いつまでも拙いままでは子が生まれた時にその子が侮られるのだ。
「――わかった。では2週間後に舞踏会を開こう。準備してくれ」
「かしこまりました」
アンダーソン公爵とイーネが揃って頭を下げる。
そしてアンダーソン公爵は延ばし延ばしになった舞踏会を準備する為に、イーネはルイザにぎりぎりまで所作や知識を詰め込む為に部屋を出ていった。
討論会では各地の研究者たちが各々の研究を発表できる場として大勢集まったが、それよりエリザベートを驚かせたのは傍聴する貴族の数の多さだった。
専門的な内容なので医療に関係するような少数の者しか興味を持たないだろうと思っていたのに、子を病で亡くしたことのある者、この数年で開発された薬で子が助かった者、これから子が生まれる者など、普段学術研究などには興味がなさそうな貴婦人たちも多く訪れ、多額の寄付をしていった。
悲しいことにそれだけ子を亡くすという経験をした者が多くいるのだ。
エリザベートは毎日変わらず部屋の窓からルイの墓を眺めては話しかけていた。それだけではなく休みの日にはカールと2人で墓まで行き長い時間を過ごす。
エリザベートの部屋からよく見えるこの場所は、近くにあるように見えて距離があり、丘になっているので結構な運動になる。
墓の前に膝をつき祈りを捧げた後はその場所で敷物を敷いて持参した昼食を食べ、親子3人ピクニックのように過ごすのだ。
そうして表面的には平穏な日々がしばらく続いた。
「―――舞踏会だと?」
「はい。側妃殿下を迎えられて三月が経ちました。そろそろ皆へ披露目をするべきかと」
深く腰を折ったアンダーソン公爵(シェリルの祖父)が告げる。カールにとって不快な話題であると知っているのだ。
アンダーソン公爵はダシェンボード公爵が代替わりしたタイミングで急速に権力をつけた。それはダシェンボード公爵家が次の国王には決して重用されないと理解していて一歩下がったからでもあった。
アンダーソン公爵が進言しているのは、側妃として迎えたルイザを貴族たちに披露する為の舞踏会で、本来なら晩餐会の後すぐに開いているはずだった。
だけど晩餐会の夜にエリザベートが倒れたのでカールは舞踏会を開くどころではなく、そのままうやむやになっていた。
晩餐会は側妃を娶る儀式の一部で、国の重鎮にルイザを新たな妃として認めさせる意味を持つ。
舞踏会は国中の貴族を集めて新たな妃を披露する為の場だ。
通常王室が主催する舞踏会では国王と王妃が揃って出席をして、国王が許可をすれば側妃も出席することができる。
その時国王がエスコートするのはあくまで正妃だ。国王と王妃が揃って入場をして、その後ろに側妃が続く。
だけどこの舞踏会は側妃を披露する為のものなので国王は側妃をエスコートすることができる。その場合国王と側妃が並んで入場をして、その後ろを正妃が歩くことになる。
「そうは言っても今更だろう。披露目などしなくても側妃を迎えたことは皆知っているのだ。必要ないだろう」
晩餐会を開かないと儀式が完了しないので側妃を娶ったことにならないが、舞踏会は婚姻が成ってから開くものだ。側妃に心を移した国王であれば喜んでエスコートするだろうが、カールにとっては無駄なものでしかない。
ルイザと並んで歩くのも、その後ろをエリザベートに歩かせるのも絶対に嫌だ。
大体舞踏会を開かなくてもカールが側妃を娶ったことは国中に広まっている。
「確かにその通りではございますが、何事にも慣習というものがございます。陛下が皆に周知してこそ誰もが受け入れるのです」
それに舞踏会が開かれることを見越して国中の貴族が王都に集まって来ている。
エリザベートが倒れたことは広まっているので延期は仕方ないと思われているが、いつ舞踏会が開かれるかわからないので領地に帰りたくても帰れないのだ。
倒れたエリザベートも回復し、最近ではあちらこちらで元気な姿を見せているのでこれ以上先延ばしにできないだろう。
「お生まれになる御子のこともございます。前例に則り側妃として披露された妃殿下の御子であれば誰もが世継ぎと認めましょう。ですが披露されていない方の御子であれば何かと難癖をつける者も出てきます」
「ーーーっ!!」
子のことを言われればカールも弱い。
これ以上側妃を迎えるつもりはなく、子も王子が一人生まれるまでと決めているので、その子が正統な世継ぎと認められなければ意味がないのだ。勿論カールの子である以上何を言われても突っぱねることはできるが、不安の芽は残したくはない。
「―――彼女を舞踏会に出しても問題はないか?」
「はい。妃殿下は嫁いで来られてから熱心に礼儀作法を学んでおられます。近頃はダンスのレッスンにも力を入れておられますので一般的なものであれば問題なく踊れるでしょう」
カールの問いかけに答えたのはイーネだ。イーネはルイザの学習状況や生活状況を定期的にカールへ報告している。その報告の最中にアンダーソン公爵が来合わせたので壁際に寄って待機していた。
ルイザがダンスのレッスンに力を入れているのはパートナーとして踊る講師と近い距離で会話を交わせるからだ。
男女としてのおかしな気持ちはないが、踊る時に手や腰に触れるので心理的な距離も近くなる。それだけ人との関わりに飢えているということである。
だけどイーネもカールもそんなことには気づかず、ただ妃教育の一貫としてしか見ていない。
これまで碌な教育も受けられずに育ってきたルイザだったが、いつまでも拙いままでは子が生まれた時にその子が侮られるのだ。
「――わかった。では2週間後に舞踏会を開こう。準備してくれ」
「かしこまりました」
アンダーソン公爵とイーネが揃って頭を下げる。
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