影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
90 / 142
3章 〜過去 正妃と側妃〜

番外編 〜夢の中で〜

しおりを挟む
「おとしゃま!おかしゃま!」

 カールとエリザベートが子ども部屋へ入ると、パッと顔を上げたルイが駆け寄ってきた。
 年の割には小さな体、走る姿もぽてぽてと頼りないのは、体が弱く病がちなせいだ。
 それでも元気にこの日を迎えられたのは神のご加護のおかげだろう。
 
 今日はこの国で建国祭と並ぶ重要な日だ。
 人々は生誕日と呼ぶ。この国で信仰されている神が生まれたとされる日である。

 駆けてきたルイはエリザベートのぽすんと抱きついた。
 こんな時、最初に選ばれるのはいつもエリザベートだ。それをカールは少しだけ淋しく思う。

「ただいま、ルイ」

 腰をかがめたエリザベートはルイを抱きしめ、頬に口づけを落とす。
 そうしたら次はカールの番だ。

「ただいま、ルイ。いい子にしてたか?」

 カールに抱きついてきたルイを、カールも腰をかがめて抱きしめる。
 頬に口づけを落とすと、そのままヒョイと抱き上げた。ルイが歓声を上げて喜ぶのを聞きながら、エリザベートと並んでソファへ座る。ルイはカールの膝の上だ。

「ぼく、いい子!」

 両手を上げて主張するルイにカールとエリザベートは笑みを零す。
 2人が帰った時にはご機嫌に乳母と遊んでいたルイだったが、2人が出掛ける時は「いやぁ」と泣いて駄々をこねていたのだ。
 カールもエリザベートもそんなルイに心が痛んだけれど、外出を止めるわけにはいかない。生誕日にはいくつか習わしがあり、その1つとして教会の礼拝に行っていたのだ。
 礼拝ではこの1年無事に過ごせたことを感謝し、来年の安寧を願う。
 国王と王妃としては家族の幸福だけではなく、国民に与えられた平和と幸福に感謝し、次の年も無事に過ごせるよう祈るのだ。

 2人が行っていたのは王宮の奥にある教会だが、ルイが一緒に参加できるようになるにはあと数年必要だろう。
 それまでは祝日といっても留守番をしなければならず、ルイにとっては少し淋しい日だ。だけど礼拝が終わった後は一緒に過ごすことができる。

「今日は何をしていたの?」

「おえかき!」

 エリザベートがカールの腕の中のルイに問いかけると、ルイは元気に返事をして膝からぴょんと飛び降りた。
 そうして使っていた子ども用のテーブルまで行き、乳母から2枚の紙を受け取って戻って来る。
 
「あのねぇ、ぷれじぇんとなの」

「え?」

「きょうはぷれじぇんとの日でしょ?」

 にこにこと嬉しそうなルイにカールとエリザベートは顔を見合わせる。

 プレゼントの日――。
 確かに今日は子どもがプレゼントを受け取る日だ。
 生誕日はこの世に神の祝福が与えられた日として知られている。
 それを表す習わしとして、すべての子どもたちが神の祝福を感じられるように、領主たちは今日に合わせて領内の孤児院へ普段よりも多額の寄付を行う。そして院長たちはその寄付から生活必需品とは違う少し贅沢なものを用意して子どもたちに贈る。プレゼントはその子に合わせてぬいぐるみだったり、リボンやタイなどの装飾品だったり、文房具だったりとそれぞれだ。
 それは個人の家でも当然行われていて、貴族も平民の子どもたちも両親からプレゼントを贈られる。
 国中すべての子どもたちが幸福を感じられるように、というのが習わしだ。

「おとしゃまとおかしゃまにぷれじぇんとなの!」

「あいっ!」と差し出された絵をカールとエリザベートはそれぞれ受け取った。
 どちらにもカールとエリザベート、ルイが描かれていて、カールの方は周りにキラキラした光が描かれている。
 カールとエリザベートが王冠を被っているので王家を象徴する輝きを表現しているのかもしれない。
 エリザベートの方には王冠がなく、3人の周りに花が描かれている。これは家族としての3人なのかもしれない。
 
 子どもの絵で、上手いとはいえない。
 また国王と王妃、第1王子としての自分と、プライベートな家族としての3人の区別がついているとも思えない。
 だけどどちらの絵にも愛情が溢れていて、ルイの聡明さが現れていた。

「ありがとう。すごく嬉しいわ」

「ああ、それにとても上手だ。誇らしいよ」

 顔を綻ばせるカールとエリザベートにルイが得意げな笑顔を見せる。
 その笑顔が愛おしくてエリザベートは頬に口づけた。そのまま抱き上げ、今度はエリザベートの膝に座らせる。

「私たちにプレゼントを用意してくれるなんて、ルイは優しい子ね」

 何日も前からプレゼントが何か気にしているのは知っていた。
 だけど自分もプレゼントしようとしているとは思わなかった。
 この日に子どもがプレゼントをもらうのは当然だが、大人がもらうことはあまりない。いつもより豪華な食事をするくらいだ。

「だってぼくもぷれじぇんともらうでしょ?」

 ルイはきょとんとしていて、特別なことをしたつもりはないようだ。
 その様子が可愛らしくて愛おしくて、エリザベートはつむじに口づけを落とす。今度はカールもルイの頬に口づけた。

「じゃあ次は何して遊ぶ?」

「あのねぇ、おうましゃんごっこ!」

「そうか、おいで」

「まあ」

 エリザベートは声を上げたが、カールは気にすることなくその場に膝をついて四つん這いになる。
 ルイはエリザベートの膝から腕を伸ばしてカールの背中によじ登った。
 
「ハイっ!ハイっ!」

 ルイの声に合わせてカールが四つん這いのまま前に進む。
 この世でカールに膝をつかせられるのなんてルイだけだろうと思いながら、エリザベートは楽しそうな2人を見守っていた。

 この後、夕食の時間まで3人は一緒に過ごした。
 夕食の後2人から贈られたプレゼントにルイが歓声を上げたのは言うまでもない。

 今はもう夢の中でしか過ごせない幸せな時間―――。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
クリスマス風な番外編でした。
この話はもっと本編の話が進んだ後番外編として別の章に移します。
本当はギデオンとシェリルの子どもの頃の思い出話にしたかったのですが、そこまで話が進まず…。
今まったく幸せではない本編も書いていますのでもう少しお待ち下さい<(_ _)>


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...