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3章 〜過去 正妃と側妃〜
番外編 〜夢の中で〜
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「おとしゃま!おかしゃま!」
カールとエリザベートが子ども部屋へ入ると、パッと顔を上げたルイが駆け寄ってきた。
年の割には小さな体、走る姿もぽてぽてと頼りないのは、体が弱く病がちなせいだ。
それでも元気にこの日を迎えられたのは神のご加護のおかげだろう。
今日はこの国で建国祭と並ぶ重要な日だ。
人々は生誕日と呼ぶ。この国で信仰されている神が生まれたとされる日である。
駆けてきたルイはエリザベートのぽすんと抱きついた。
こんな時、最初に選ばれるのはいつもエリザベートだ。それをカールは少しだけ淋しく思う。
「ただいま、ルイ」
腰をかがめたエリザベートはルイを抱きしめ、頬に口づけを落とす。
そうしたら次はカールの番だ。
「ただいま、ルイ。いい子にしてたか?」
カールに抱きついてきたルイを、カールも腰をかがめて抱きしめる。
頬に口づけを落とすと、そのままヒョイと抱き上げた。ルイが歓声を上げて喜ぶのを聞きながら、エリザベートと並んでソファへ座る。ルイはカールの膝の上だ。
「ぼく、いい子!」
両手を上げて主張するルイにカールとエリザベートは笑みを零す。
2人が帰った時にはご機嫌に乳母と遊んでいたルイだったが、2人が出掛ける時は「いやぁ」と泣いて駄々をこねていたのだ。
カールもエリザベートもそんなルイに心が痛んだけれど、外出を止めるわけにはいかない。生誕日にはいくつか習わしがあり、その1つとして教会の礼拝に行っていたのだ。
礼拝ではこの1年無事に過ごせたことを感謝し、来年の安寧を願う。
国王と王妃としては家族の幸福だけではなく、国民に与えられた平和と幸福に感謝し、次の年も無事に過ごせるよう祈るのだ。
2人が行っていたのは王宮の奥にある教会だが、ルイが一緒に参加できるようになるにはあと数年必要だろう。
それまでは祝日といっても留守番をしなければならず、ルイにとっては少し淋しい日だ。だけど礼拝が終わった後は一緒に過ごすことができる。
「今日は何をしていたの?」
「おえかき!」
エリザベートがカールの腕の中のルイに問いかけると、ルイは元気に返事をして膝からぴょんと飛び降りた。
そうして使っていた子ども用のテーブルまで行き、乳母から2枚の紙を受け取って戻って来る。
「あのねぇ、ぷれじぇんとなの」
「え?」
「きょうはぷれじぇんとの日でしょ?」
にこにこと嬉しそうなルイにカールとエリザベートは顔を見合わせる。
プレゼントの日――。
確かに今日は子どもがプレゼントを受け取る日だ。
生誕日はこの世に神の祝福が与えられた日として知られている。
それを表す習わしとして、すべての子どもたちが神の祝福を感じられるように、領主たちは今日に合わせて領内の孤児院へ普段よりも多額の寄付を行う。そして院長たちはその寄付から生活必需品とは違う少し贅沢なものを用意して子どもたちに贈る。プレゼントはその子に合わせてぬいぐるみだったり、リボンやタイなどの装飾品だったり、文房具だったりとそれぞれだ。
それは個人の家でも当然行われていて、貴族も平民の子どもたちも両親からプレゼントを贈られる。
国中すべての子どもたちが幸福を感じられるように、というのが習わしだ。
「おとしゃまとおかしゃまにぷれじぇんとなの!」
「あいっ!」と差し出された絵をカールとエリザベートはそれぞれ受け取った。
どちらにもカールとエリザベート、ルイが描かれていて、カールの方は周りにキラキラした光が描かれている。
カールとエリザベートが王冠を被っているので王家を象徴する輝きを表現しているのかもしれない。
エリザベートの方には王冠がなく、3人の周りに花が描かれている。これは家族としての3人なのかもしれない。
子どもの絵で、上手いとはいえない。
また国王と王妃、第1王子としての自分と、プライベートな家族としての3人の区別がついているとも思えない。
だけどどちらの絵にも愛情が溢れていて、ルイの聡明さが現れていた。
「ありがとう。すごく嬉しいわ」
「ああ、それにとても上手だ。誇らしいよ」
顔を綻ばせるカールとエリザベートにルイが得意げな笑顔を見せる。
その笑顔が愛おしくてエリザベートは頬に口づけた。そのまま抱き上げ、今度はエリザベートの膝に座らせる。
「私たちにプレゼントを用意してくれるなんて、ルイは優しい子ね」
何日も前からプレゼントが何か気にしているのは知っていた。
だけど自分もプレゼントしようとしているとは思わなかった。
この日に子どもがプレゼントをもらうのは当然だが、大人がもらうことはあまりない。いつもより豪華な食事をするくらいだ。
「だってぼくもぷれじぇんともらうでしょ?」
ルイはきょとんとしていて、特別なことをしたつもりはないようだ。
その様子が可愛らしくて愛おしくて、エリザベートはつむじに口づけを落とす。今度はカールもルイの頬に口づけた。
「じゃあ次は何して遊ぶ?」
「あのねぇ、おうましゃんごっこ!」
「そうか、おいで」
「まあ」
エリザベートは声を上げたが、カールは気にすることなくその場に膝をついて四つん這いになる。
ルイはエリザベートの膝から腕を伸ばしてカールの背中によじ登った。
「ハイっ!ハイっ!」
ルイの声に合わせてカールが四つん這いのまま前に進む。
この世でカールに膝をつかせられるのなんてルイだけだろうと思いながら、エリザベートは楽しそうな2人を見守っていた。
この後、夕食の時間まで3人は一緒に過ごした。
夕食の後2人から贈られたプレゼントにルイが歓声を上げたのは言うまでもない。
今はもう夢の中でしか過ごせない幸せな時間―――。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
クリスマス風な番外編でした。
この話はもっと本編の話が進んだ後番外編として別の章に移します。
本当はギデオンとシェリルの子どもの頃の思い出話にしたかったのですが、そこまで話が進まず…。
今まったく幸せではない本編も書いていますのでもう少しお待ち下さい<(_ _)>
カールとエリザベートが子ども部屋へ入ると、パッと顔を上げたルイが駆け寄ってきた。
年の割には小さな体、走る姿もぽてぽてと頼りないのは、体が弱く病がちなせいだ。
それでも元気にこの日を迎えられたのは神のご加護のおかげだろう。
今日はこの国で建国祭と並ぶ重要な日だ。
人々は生誕日と呼ぶ。この国で信仰されている神が生まれたとされる日である。
駆けてきたルイはエリザベートのぽすんと抱きついた。
こんな時、最初に選ばれるのはいつもエリザベートだ。それをカールは少しだけ淋しく思う。
「ただいま、ルイ」
腰をかがめたエリザベートはルイを抱きしめ、頬に口づけを落とす。
そうしたら次はカールの番だ。
「ただいま、ルイ。いい子にしてたか?」
カールに抱きついてきたルイを、カールも腰をかがめて抱きしめる。
頬に口づけを落とすと、そのままヒョイと抱き上げた。ルイが歓声を上げて喜ぶのを聞きながら、エリザベートと並んでソファへ座る。ルイはカールの膝の上だ。
「ぼく、いい子!」
両手を上げて主張するルイにカールとエリザベートは笑みを零す。
2人が帰った時にはご機嫌に乳母と遊んでいたルイだったが、2人が出掛ける時は「いやぁ」と泣いて駄々をこねていたのだ。
カールもエリザベートもそんなルイに心が痛んだけれど、外出を止めるわけにはいかない。生誕日にはいくつか習わしがあり、その1つとして教会の礼拝に行っていたのだ。
礼拝ではこの1年無事に過ごせたことを感謝し、来年の安寧を願う。
国王と王妃としては家族の幸福だけではなく、国民に与えられた平和と幸福に感謝し、次の年も無事に過ごせるよう祈るのだ。
2人が行っていたのは王宮の奥にある教会だが、ルイが一緒に参加できるようになるにはあと数年必要だろう。
それまでは祝日といっても留守番をしなければならず、ルイにとっては少し淋しい日だ。だけど礼拝が終わった後は一緒に過ごすことができる。
「今日は何をしていたの?」
「おえかき!」
エリザベートがカールの腕の中のルイに問いかけると、ルイは元気に返事をして膝からぴょんと飛び降りた。
そうして使っていた子ども用のテーブルまで行き、乳母から2枚の紙を受け取って戻って来る。
「あのねぇ、ぷれじぇんとなの」
「え?」
「きょうはぷれじぇんとの日でしょ?」
にこにこと嬉しそうなルイにカールとエリザベートは顔を見合わせる。
プレゼントの日――。
確かに今日は子どもがプレゼントを受け取る日だ。
生誕日はこの世に神の祝福が与えられた日として知られている。
それを表す習わしとして、すべての子どもたちが神の祝福を感じられるように、領主たちは今日に合わせて領内の孤児院へ普段よりも多額の寄付を行う。そして院長たちはその寄付から生活必需品とは違う少し贅沢なものを用意して子どもたちに贈る。プレゼントはその子に合わせてぬいぐるみだったり、リボンやタイなどの装飾品だったり、文房具だったりとそれぞれだ。
それは個人の家でも当然行われていて、貴族も平民の子どもたちも両親からプレゼントを贈られる。
国中すべての子どもたちが幸福を感じられるように、というのが習わしだ。
「おとしゃまとおかしゃまにぷれじぇんとなの!」
「あいっ!」と差し出された絵をカールとエリザベートはそれぞれ受け取った。
どちらにもカールとエリザベート、ルイが描かれていて、カールの方は周りにキラキラした光が描かれている。
カールとエリザベートが王冠を被っているので王家を象徴する輝きを表現しているのかもしれない。
エリザベートの方には王冠がなく、3人の周りに花が描かれている。これは家族としての3人なのかもしれない。
子どもの絵で、上手いとはいえない。
また国王と王妃、第1王子としての自分と、プライベートな家族としての3人の区別がついているとも思えない。
だけどどちらの絵にも愛情が溢れていて、ルイの聡明さが現れていた。
「ありがとう。すごく嬉しいわ」
「ああ、それにとても上手だ。誇らしいよ」
顔を綻ばせるカールとエリザベートにルイが得意げな笑顔を見せる。
その笑顔が愛おしくてエリザベートは頬に口づけた。そのまま抱き上げ、今度はエリザベートの膝に座らせる。
「私たちにプレゼントを用意してくれるなんて、ルイは優しい子ね」
何日も前からプレゼントが何か気にしているのは知っていた。
だけど自分もプレゼントしようとしているとは思わなかった。
この日に子どもがプレゼントをもらうのは当然だが、大人がもらうことはあまりない。いつもより豪華な食事をするくらいだ。
「だってぼくもぷれじぇんともらうでしょ?」
ルイはきょとんとしていて、特別なことをしたつもりはないようだ。
その様子が可愛らしくて愛おしくて、エリザベートはつむじに口づけを落とす。今度はカールもルイの頬に口づけた。
「じゃあ次は何して遊ぶ?」
「あのねぇ、おうましゃんごっこ!」
「そうか、おいで」
「まあ」
エリザベートは声を上げたが、カールは気にすることなくその場に膝をついて四つん這いになる。
ルイはエリザベートの膝から腕を伸ばしてカールの背中によじ登った。
「ハイっ!ハイっ!」
ルイの声に合わせてカールが四つん這いのまま前に進む。
この世でカールに膝をつかせられるのなんてルイだけだろうと思いながら、エリザベートは楽しそうな2人を見守っていた。
この後、夕食の時間まで3人は一緒に過ごした。
夕食の後2人から贈られたプレゼントにルイが歓声を上げたのは言うまでもない。
今はもう夢の中でしか過ごせない幸せな時間―――。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
クリスマス風な番外編でした。
この話はもっと本編の話が進んだ後番外編として別の章に移します。
本当はギデオンとシェリルの子どもの頃の思い出話にしたかったのですが、そこまで話が進まず…。
今まったく幸せではない本編も書いていますのでもう少しお待ち下さい<(_ _)>
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