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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「舞踏会…ですか」
「ああ。……すまない」
話を聞いたエリザベートは唇を噛み締めた。
カールも沈痛な表情で視線を伏せる。
カールにとっても不本意なのだろう。とても言いづらそうにしているのは伝わっていた。
元々カールはエリザベートとルイザが近づくのを良く思っていない。
だけどこの舞踏会はカールの気持ちだけで取りやめることはできないのだ。エリザベートは正妃として、側妃を迎え入れる儀式や慣習を教え込まれている。
側妃を迎えて3日目の夜に重鎮を招いて晩餐会を開く。
これで国の中枢を支える者が新たな妃を王家の一員として受け入れたことになり、この夜閨が行われることで婚姻が成立する。
婚姻が成立したら次は貴族へのお披露目が必要だ。
国王が新たな妃を迎えたと公に知らしめるでこと側妃の立場を確立させる。それにはこの女性が生む子どもが王の子であり、王位継承権を持つと通告する意味もある。
この舞踏会は婚姻にまつわる行事として公文書に書かれていない。
始まりは何代目かの王が子爵家の娘を見初て側妃に望み、その令嬢を侯爵家の養女として側妃に迎えた時だ。
妃は伯爵家以上の令嬢と決められているこの国で、たとえ侯爵家の養女となっても生まれが子爵家の妃は軽んじられる。側妃に心を傾けていた王は、周りの悪意から守ろうと舞踏会を開き、そこで宣言をした。
彼女は王の妃である、と。
妃を軽んじる者は王を軽んじるのと同じである、と。
彼女が生む子は王の子であり、王位継承権を有する者だ、と。
次代の王たちは彼に倣った。
真に愛する女性を迎え入れた時も、そうでない時も。
いずれ迎える最愛の妃の為に。
そうして続けられる内に、舞踏会が側妃と側妃所生の子どもたちの正当性を証明する場となったのだ。
本当はルイザを迎えた時も晩餐会から間を開けずに舞踏会を開くはずだった。
それなのに晩餐会の日にエリザベートが騒ぎを起こしたので先延ばしになっていたのだ。
「ルイザ様はさぞ気を揉んでおられるでしょうね……」
ルイザが嫁いで来てから三月も経つのにまだ舞踏会が開かれていない。もし今ルイザが懐妊しても白い目を向けられるだろう。
人から何と言われようともルイザが他の者と通じるはずがなく、舞踏会は婚姻に必要な儀式ではないと突っぱねることはできるが、生まれる前から子に困難を背負わせたいと思う親はいない。
ルイザの心情を思い、表情を曇らせるエリザベートにカールは首を振った。
「いや、彼女は気にしてないと思う」
それはルイザが人の目を気にしない質だということではなかった。
ただルイザは舞踏会があることもその意味も知らないのだ。
領地に派遣した講師が婚姻に関する一連のことを教えたと思うが、信じられないことに多くのことを一度に学んだせいか頭から抜けてしまっているらしい。
イーネからそれを聞かされたカールは愕然とした。
だが都合が良いとも思った。
晩餐会から一月以上が経ち、そろそろ舞踏会を開くよう催促されるのではないかと思っていたからだ。だけど目覚めたばかりのエリザベートは傍を離れられる状態ではなく、カール自身もルイザと顔を合わせたくなかった。
ルイザはエリザベートが倒れたことを知らないとはいえ、こんな時に舞踏会を開くよう求められたら怒鳴りつけていただろう。
だけどルイザが知らないなら煩わされることもない。
だからカールは、イーネにそのまま黙っているよう伝えたのだ。
だけど百合の宮の状況を知らないエリザベートは、その言葉をカールがルイザを理解しているからだと捉えた。
ルイザは重要な晩餐会の夜にあんな騒ぎを起こしたエリザベートを許せるような広い心の持ち主なのだ。
カールは百合の宮でルイザと語り合い、優しい人となりを知ったのだろう。好感を抱いたに違いない。
「カール様は彼女をよく知っておられるのですね……」
「リーザ?」
エリザベートの中に寄り添い合う2人の姿が浮かぶ。
精悍な顔立ちに大人の落ち着きを備えたカールの隣に若く可愛らしいルイザが並ぶ。
顔を寄せ合い語り合う2人の姿はまるで絵画のように美しかった。
「……………っ!」
「リーザ?どうしたっ?!」
顔色を変えたエリザベートにカールが焦った声を出す。
だけどエリザベートは何も応えられなかった。
今はただエリザベートが想像しているだけのものだ。
だけど舞踏会ではそんな2人を後ろから見ていなければならない。
寄り添う2人を見ながらエリザベートは平静でいられるだろうか。
いや、冷静にやり過ごさなければならないのだ。
晩餐会の夜にあんな騒ぎを起こして舞踏会までぶち壊したら何と言われるかわからない。
王妃として最も重要な務めを果たせないのに、代わりを務める側妃を認められないなんて自らの価値を貶めることだ。
エリザベートは王妃という地位に誇りを持っている。
その誇りを傷つけるわけにはいかない。
だから舞踏会の間は、どんなに辛くても笑顔で通しきらなければならない。
そう思っていても、エリザベートはカールの腕の中で体の震えを止めることができなかった。
「ああ。……すまない」
話を聞いたエリザベートは唇を噛み締めた。
カールも沈痛な表情で視線を伏せる。
カールにとっても不本意なのだろう。とても言いづらそうにしているのは伝わっていた。
元々カールはエリザベートとルイザが近づくのを良く思っていない。
だけどこの舞踏会はカールの気持ちだけで取りやめることはできないのだ。エリザベートは正妃として、側妃を迎え入れる儀式や慣習を教え込まれている。
側妃を迎えて3日目の夜に重鎮を招いて晩餐会を開く。
これで国の中枢を支える者が新たな妃を王家の一員として受け入れたことになり、この夜閨が行われることで婚姻が成立する。
婚姻が成立したら次は貴族へのお披露目が必要だ。
国王が新たな妃を迎えたと公に知らしめるでこと側妃の立場を確立させる。それにはこの女性が生む子どもが王の子であり、王位継承権を持つと通告する意味もある。
この舞踏会は婚姻にまつわる行事として公文書に書かれていない。
始まりは何代目かの王が子爵家の娘を見初て側妃に望み、その令嬢を侯爵家の養女として側妃に迎えた時だ。
妃は伯爵家以上の令嬢と決められているこの国で、たとえ侯爵家の養女となっても生まれが子爵家の妃は軽んじられる。側妃に心を傾けていた王は、周りの悪意から守ろうと舞踏会を開き、そこで宣言をした。
彼女は王の妃である、と。
妃を軽んじる者は王を軽んじるのと同じである、と。
彼女が生む子は王の子であり、王位継承権を有する者だ、と。
次代の王たちは彼に倣った。
真に愛する女性を迎え入れた時も、そうでない時も。
いずれ迎える最愛の妃の為に。
そうして続けられる内に、舞踏会が側妃と側妃所生の子どもたちの正当性を証明する場となったのだ。
本当はルイザを迎えた時も晩餐会から間を開けずに舞踏会を開くはずだった。
それなのに晩餐会の日にエリザベートが騒ぎを起こしたので先延ばしになっていたのだ。
「ルイザ様はさぞ気を揉んでおられるでしょうね……」
ルイザが嫁いで来てから三月も経つのにまだ舞踏会が開かれていない。もし今ルイザが懐妊しても白い目を向けられるだろう。
人から何と言われようともルイザが他の者と通じるはずがなく、舞踏会は婚姻に必要な儀式ではないと突っぱねることはできるが、生まれる前から子に困難を背負わせたいと思う親はいない。
ルイザの心情を思い、表情を曇らせるエリザベートにカールは首を振った。
「いや、彼女は気にしてないと思う」
それはルイザが人の目を気にしない質だということではなかった。
ただルイザは舞踏会があることもその意味も知らないのだ。
領地に派遣した講師が婚姻に関する一連のことを教えたと思うが、信じられないことに多くのことを一度に学んだせいか頭から抜けてしまっているらしい。
イーネからそれを聞かされたカールは愕然とした。
だが都合が良いとも思った。
晩餐会から一月以上が経ち、そろそろ舞踏会を開くよう催促されるのではないかと思っていたからだ。だけど目覚めたばかりのエリザベートは傍を離れられる状態ではなく、カール自身もルイザと顔を合わせたくなかった。
ルイザはエリザベートが倒れたことを知らないとはいえ、こんな時に舞踏会を開くよう求められたら怒鳴りつけていただろう。
だけどルイザが知らないなら煩わされることもない。
だからカールは、イーネにそのまま黙っているよう伝えたのだ。
だけど百合の宮の状況を知らないエリザベートは、その言葉をカールがルイザを理解しているからだと捉えた。
ルイザは重要な晩餐会の夜にあんな騒ぎを起こしたエリザベートを許せるような広い心の持ち主なのだ。
カールは百合の宮でルイザと語り合い、優しい人となりを知ったのだろう。好感を抱いたに違いない。
「カール様は彼女をよく知っておられるのですね……」
「リーザ?」
エリザベートの中に寄り添い合う2人の姿が浮かぶ。
精悍な顔立ちに大人の落ち着きを備えたカールの隣に若く可愛らしいルイザが並ぶ。
顔を寄せ合い語り合う2人の姿はまるで絵画のように美しかった。
「……………っ!」
「リーザ?どうしたっ?!」
顔色を変えたエリザベートにカールが焦った声を出す。
だけどエリザベートは何も応えられなかった。
今はただエリザベートが想像しているだけのものだ。
だけど舞踏会ではそんな2人を後ろから見ていなければならない。
寄り添う2人を見ながらエリザベートは平静でいられるだろうか。
いや、冷静にやり過ごさなければならないのだ。
晩餐会の夜にあんな騒ぎを起こして舞踏会までぶち壊したら何と言われるかわからない。
王妃として最も重要な務めを果たせないのに、代わりを務める側妃を認められないなんて自らの価値を貶めることだ。
エリザベートは王妃という地位に誇りを持っている。
その誇りを傷つけるわけにはいかない。
だから舞踏会の間は、どんなに辛くても笑顔で通しきらなければならない。
そう思っていても、エリザベートはカールの腕の中で体の震えを止めることができなかった。
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