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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「舞踏会?随分急なのね」
舞踏会の開催について、ルイザにはイーネから伝えられた。
開催まであまり日がないことに驚いたようだが、なぜそうなったのか気にすることなくすんなり受け入れたようだ。
確かにヴィラント伯爵家で舞踏会が開かれていた頃のルイザはまだ幼く、準備などに関わることもなかっただろう。少しでも知っていれば、準備期間がこんなに短いなんて何かあると気付いたはずだ。
たった2週間で舞踏会を開くなんて普通であれば有り得ない。
大臣たちがこの日程を受け入れたのは、元々開くはずの舞踏会であったこと、王都に足止めされている貴族たちを開放しないといけないこと、そして何よりルイザの懐妊前に開かなければならないからだ。
会場の飾り付けや招待状の準備、舞踏会で出す料理に使う食材の買付など、実際に駆けずりまわる使用人たちが文句も言わずに走り回っているのもその重要性をわかっているからである。
だけどルイザは「そう指定されたからそうなのだ」と受け入れてしまった。
その素直さは都合が良いけれど、後の国母としては不安である。
「ドレスはどうしたら良いかしら?」
「領地を出られる前に舞踏会で着る為のドレスを仕立てられたはずです。今回はそのドレスを着て下さい」
「ああ、そうだったわね」
婚姻の儀式の後、舞踏会が開かれることは講師から教えられていた。伯爵夫妻も当然知っているので出立前にドレスを仕立てて持ってきているのだ。
だけどドレスのことを思い出しても舞踏会の意味は思い出さないらしい。
イーネはこれで良いのか密かに溜息をついた。
舞踏会当日、ルイザは侍女たちに朝から磨き上げられた。
鏡の中には薄い黄色のドレスを来たルイザが映っている。スカート部分は薄いレースが重ねられ、上になるほどレースが短くなっているので裾からウエストにかけてグラデーションになっている。そこに小粒のダイヤが散りばめられてキラキラと光を反射している。
すっきりとまとめられた髪には花の形をしたピンクの髪留めをつけ、髪留めが派手な分イヤリングとネックレスは真珠を使ったシンプルなものが選ばれた。
全体的にルイザの若々しさを際立たせるデザインだ。
「とてもお綺麗ですわ、妃殿下」
侍女たちに指示しながら支度を見守っていたイーネが笑みを漏らす。
イーネもルイザがエリザベートを刺激しないよう守っているだけでルイザを貶めるつもりはないのだ。だからこんな時はルイザの魅力を引き立たせるよう全力を尽くす。
大体ルイザがおかしな格好をして悪評が立てば、いずれ生まれる王子の疵になるのだ。それでは涙をのんで側妃を迎え入れたカールやエリザベートの思いを踏みにじることになる。
「ええ、本当に……。これが私だなんて信じられないくらい」
ルイザは鏡に映った自身の姿を食い入るように見つめていた。
百合の宮に来てから毎日顔も体も侍女たちの手で磨き上げられているが、普段はここまで華やかに着飾ったりしない。
特にカールと会うのはいつも暗い寝室の中で、ドレスも装飾品も無ければ化粧もしていない時ばかりだ。
定期的に閨が行われるようになってからもカールとの仲は進展していない。
相変わら会話もなく、コトが済めばカールはすぐに帰ってしまう。
だけどこの姿を見れば。
ルイザは晩餐会の日を思い出す。
カールは着飾ったルイザを見て「美しい」と言ってくれたのだ。
今日もきっと陛下は褒めて下さるわ。
ルイザは軽い足取りで歩き出した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
明けましておめでとうございます。
年内の更新間に合いませんでした…。
今年はもっと更新できるように頑張ります<(_ _)>
舞踏会の開催について、ルイザにはイーネから伝えられた。
開催まであまり日がないことに驚いたようだが、なぜそうなったのか気にすることなくすんなり受け入れたようだ。
確かにヴィラント伯爵家で舞踏会が開かれていた頃のルイザはまだ幼く、準備などに関わることもなかっただろう。少しでも知っていれば、準備期間がこんなに短いなんて何かあると気付いたはずだ。
たった2週間で舞踏会を開くなんて普通であれば有り得ない。
大臣たちがこの日程を受け入れたのは、元々開くはずの舞踏会であったこと、王都に足止めされている貴族たちを開放しないといけないこと、そして何よりルイザの懐妊前に開かなければならないからだ。
会場の飾り付けや招待状の準備、舞踏会で出す料理に使う食材の買付など、実際に駆けずりまわる使用人たちが文句も言わずに走り回っているのもその重要性をわかっているからである。
だけどルイザは「そう指定されたからそうなのだ」と受け入れてしまった。
その素直さは都合が良いけれど、後の国母としては不安である。
「ドレスはどうしたら良いかしら?」
「領地を出られる前に舞踏会で着る為のドレスを仕立てられたはずです。今回はそのドレスを着て下さい」
「ああ、そうだったわね」
婚姻の儀式の後、舞踏会が開かれることは講師から教えられていた。伯爵夫妻も当然知っているので出立前にドレスを仕立てて持ってきているのだ。
だけどドレスのことを思い出しても舞踏会の意味は思い出さないらしい。
イーネはこれで良いのか密かに溜息をついた。
舞踏会当日、ルイザは侍女たちに朝から磨き上げられた。
鏡の中には薄い黄色のドレスを来たルイザが映っている。スカート部分は薄いレースが重ねられ、上になるほどレースが短くなっているので裾からウエストにかけてグラデーションになっている。そこに小粒のダイヤが散りばめられてキラキラと光を反射している。
すっきりとまとめられた髪には花の形をしたピンクの髪留めをつけ、髪留めが派手な分イヤリングとネックレスは真珠を使ったシンプルなものが選ばれた。
全体的にルイザの若々しさを際立たせるデザインだ。
「とてもお綺麗ですわ、妃殿下」
侍女たちに指示しながら支度を見守っていたイーネが笑みを漏らす。
イーネもルイザがエリザベートを刺激しないよう守っているだけでルイザを貶めるつもりはないのだ。だからこんな時はルイザの魅力を引き立たせるよう全力を尽くす。
大体ルイザがおかしな格好をして悪評が立てば、いずれ生まれる王子の疵になるのだ。それでは涙をのんで側妃を迎え入れたカールやエリザベートの思いを踏みにじることになる。
「ええ、本当に……。これが私だなんて信じられないくらい」
ルイザは鏡に映った自身の姿を食い入るように見つめていた。
百合の宮に来てから毎日顔も体も侍女たちの手で磨き上げられているが、普段はここまで華やかに着飾ったりしない。
特にカールと会うのはいつも暗い寝室の中で、ドレスも装飾品も無ければ化粧もしていない時ばかりだ。
定期的に閨が行われるようになってからもカールとの仲は進展していない。
相変わら会話もなく、コトが済めばカールはすぐに帰ってしまう。
だけどこの姿を見れば。
ルイザは晩餐会の日を思い出す。
カールは着飾ったルイザを見て「美しい」と言ってくれたのだ。
今日もきっと陛下は褒めて下さるわ。
ルイザは軽い足取りで歩き出した。
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明けましておめでとうございます。
年内の更新間に合いませんでした…。
今年はもっと更新できるように頑張ります<(_ _)>
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