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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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舞踏会と聞いてから、ルイザは楽しみと不安が混じり合った複雑な気持ちで過ごしていた。
今度こそカールとの距離を縮められるだろうか。
晩餐会の後はもっと親密になれると思ったのに期待は裏切られた。
だけどカールはあの時ルイザを褒めてくれた。優しい笑顔を見せてくれた。
今日も美しく装ったルイザを見ればきっと褒めてくれるはずだ。
そうよ。今日はたくさんお話をして……。そうしたらもっと百合の宮へ来てくれるかもしれないわ。
当然のことだが、ルイザは水曜日だけの訪問に満足していなかった。
閨だけではなく、一緒にお茶を飲んだり散歩をしたり、夕食だって一緒に食べたい。
カールがどんなに忙しい人だと言っても、週に1度くらい時間が取れるはずだ。
今日こそカールにお願いしようと決めていた。
また、それとは別にルイザには期待していることもあった。
舞踏会自体がルイザには2回目の経験だ。1度目は地方でのデビュタントである。
それが王宮で開かれる舞踏会なのだから、どれだけ素晴らしいのだろうかとワクワクする。貴族らしい催しにずっと憧れていたのだ。
それに今度こそ友達ができるかもしれない。
晩餐会の後は思っていたような貴族たちの訪問がなく、親しくなれる人がいなかった。
だけど思えば晩餐会に来ていたのはルイザよりも年上の人ばかりだ。多くの人が集まる舞踏会では同年代の人たちもいるだろう。その人たちとなら親しくなれるかもしれない。
気軽に訪ねてくれる友達が欲しい。
それが百合の宮で孤独に過ごしているルイザの願いだった。
だが、結果から言うと舞踏会は最悪な経験になった。
まず広間の入場口へ行った時からおかしかったのだ。
カールの指示でここへ来たのに、侍女や侍従たちは怪訝な視線を向けてきた。ヒソヒソと話す声が聞こえて不快だった。
なぜそんな目で見られるのかわからなくて、居心地の悪さに耐えているとカールとエリザベートがやってきたのだ。
「お待たせしてごめんなさいね」
エリザベートが優しく声を掛けてくれる。
だけど2人の姿にショックを受けていたルイザはきちんと応えられたのかわからなかった。
エリザベートは裾や袖口が黒色のレースで縁取られ、金糸の刺繍がされた青色のドレスを着ている。
エスコートしているカールは、黒色のパンツに青色のシャツだ。黒色のパンツは暗く見えそうだが、全体的に金糸の刺繍がされていて落ち着いた華やかさに見える。
明らかにお互いに合わせて作られた衣装だ。
それに社交界に疎いルイザでも聞いたことがあった。
互いに想い合っている夫婦や婚約者は互いの瞳や髪の色を使った服を着るのだ。
カールもエリザベートも金色の髪と青色の瞳をしている。
2人はお互いの色を身にまとっているのだ。
ルイザはちらりと視線を下げ、自分のドレスを見た。
黄色いグラデーションのドレスはどう頑張ってもカールの色には見えない。それにカールはルイザの色をひとつも使っていないのだから、ルイザを想っていないことは明白だ。
ルイザはいたたまれない気持ちになった。
それにもうひとつ気付いたことがあった。
エリザベートはカールにエスコートされて現れた。
つまり薔薇の宮へカールが迎えに行ったのだろう。
この舞踏会はエリザベートが出席するのでカールが正妃をエスコートするのは当然だが、それなら晩餐会はどうだろうか。
確かに晩餐会の間、カールはエスコートしてくれていたが、百合の宮へ迎えに来てはくれなかった。
あの時エリザベートはいなかったのに、ルイザは食堂の前で待たされたのだ。
私は大切にされていないのかもしれない。
嫌な汗が頬を伝った。
私は陛下に選ばれたのよ。
それがルイザの誇りだった。
こちらから頼み込んだ縁談じゃない。望まれて嫁ぐのだ。
だからこそルイザは知り合いが1人もいない王都へ行くことも躊躇わなかった。
降って湧いた幸運に有頂天になっていたのも間違いない。
だからなぜルイザが選ばれたのかと訝しみ、不安そうにしながら領地へ帰っていった両親の言葉も気にならなかったのだ。
そう。
ルイザはカールに選ばれた。
だから愛させているはずだ。
あまり会えないのもカールが忙しいからで、会話がないのもまだお互いをよく知らないから。
だけどカールも見初めたルイザともっと一緒に過ごしたいと思っているはずだ。
ルイザがお願いしたら、カールはきっと時間を取ってくれる。
そしてお互いを知っていけばもっと親しくなれるだろう。親しくなればもっと一緒にいたくなる。
そうして距離を縮めていけば、愛し愛される夫婦になれる。
今日この時までルイザはそう思い込もうとしていたのだ。
その幻想が崩れる音が聞こえたような気がした。
今度こそカールとの距離を縮められるだろうか。
晩餐会の後はもっと親密になれると思ったのに期待は裏切られた。
だけどカールはあの時ルイザを褒めてくれた。優しい笑顔を見せてくれた。
今日も美しく装ったルイザを見ればきっと褒めてくれるはずだ。
そうよ。今日はたくさんお話をして……。そうしたらもっと百合の宮へ来てくれるかもしれないわ。
当然のことだが、ルイザは水曜日だけの訪問に満足していなかった。
閨だけではなく、一緒にお茶を飲んだり散歩をしたり、夕食だって一緒に食べたい。
カールがどんなに忙しい人だと言っても、週に1度くらい時間が取れるはずだ。
今日こそカールにお願いしようと決めていた。
また、それとは別にルイザには期待していることもあった。
舞踏会自体がルイザには2回目の経験だ。1度目は地方でのデビュタントである。
それが王宮で開かれる舞踏会なのだから、どれだけ素晴らしいのだろうかとワクワクする。貴族らしい催しにずっと憧れていたのだ。
それに今度こそ友達ができるかもしれない。
晩餐会の後は思っていたような貴族たちの訪問がなく、親しくなれる人がいなかった。
だけど思えば晩餐会に来ていたのはルイザよりも年上の人ばかりだ。多くの人が集まる舞踏会では同年代の人たちもいるだろう。その人たちとなら親しくなれるかもしれない。
気軽に訪ねてくれる友達が欲しい。
それが百合の宮で孤独に過ごしているルイザの願いだった。
だが、結果から言うと舞踏会は最悪な経験になった。
まず広間の入場口へ行った時からおかしかったのだ。
カールの指示でここへ来たのに、侍女や侍従たちは怪訝な視線を向けてきた。ヒソヒソと話す声が聞こえて不快だった。
なぜそんな目で見られるのかわからなくて、居心地の悪さに耐えているとカールとエリザベートがやってきたのだ。
「お待たせしてごめんなさいね」
エリザベートが優しく声を掛けてくれる。
だけど2人の姿にショックを受けていたルイザはきちんと応えられたのかわからなかった。
エリザベートは裾や袖口が黒色のレースで縁取られ、金糸の刺繍がされた青色のドレスを着ている。
エスコートしているカールは、黒色のパンツに青色のシャツだ。黒色のパンツは暗く見えそうだが、全体的に金糸の刺繍がされていて落ち着いた華やかさに見える。
明らかにお互いに合わせて作られた衣装だ。
それに社交界に疎いルイザでも聞いたことがあった。
互いに想い合っている夫婦や婚約者は互いの瞳や髪の色を使った服を着るのだ。
カールもエリザベートも金色の髪と青色の瞳をしている。
2人はお互いの色を身にまとっているのだ。
ルイザはちらりと視線を下げ、自分のドレスを見た。
黄色いグラデーションのドレスはどう頑張ってもカールの色には見えない。それにカールはルイザの色をひとつも使っていないのだから、ルイザを想っていないことは明白だ。
ルイザはいたたまれない気持ちになった。
それにもうひとつ気付いたことがあった。
エリザベートはカールにエスコートされて現れた。
つまり薔薇の宮へカールが迎えに行ったのだろう。
この舞踏会はエリザベートが出席するのでカールが正妃をエスコートするのは当然だが、それなら晩餐会はどうだろうか。
確かに晩餐会の間、カールはエスコートしてくれていたが、百合の宮へ迎えに来てはくれなかった。
あの時エリザベートはいなかったのに、ルイザは食堂の前で待たされたのだ。
私は大切にされていないのかもしれない。
嫌な汗が頬を伝った。
私は陛下に選ばれたのよ。
それがルイザの誇りだった。
こちらから頼み込んだ縁談じゃない。望まれて嫁ぐのだ。
だからこそルイザは知り合いが1人もいない王都へ行くことも躊躇わなかった。
降って湧いた幸運に有頂天になっていたのも間違いない。
だからなぜルイザが選ばれたのかと訝しみ、不安そうにしながら領地へ帰っていった両親の言葉も気にならなかったのだ。
そう。
ルイザはカールに選ばれた。
だから愛させているはずだ。
あまり会えないのもカールが忙しいからで、会話がないのもまだお互いをよく知らないから。
だけどカールも見初めたルイザともっと一緒に過ごしたいと思っているはずだ。
ルイザがお願いしたら、カールはきっと時間を取ってくれる。
そしてお互いを知っていけばもっと親しくなれるだろう。親しくなればもっと一緒にいたくなる。
そうして距離を縮めていけば、愛し愛される夫婦になれる。
今日この時までルイザはそう思い込もうとしていたのだ。
その幻想が崩れる音が聞こえたような気がした。
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